上 下
48 / 75
05

47.距離感

しおりを挟む
 えっと……。

 私は寄り添う大きな犬に戸惑い、視線を向ける事さえ戸惑って凍り付いたようになってしまう。

『俺が怖いか?』

「いえ、そんな事はありませんが、余り側に寄らないで下さい」

『なぜ?』

 もふり倒したいから……とは言えない。

「殿下の地位を考えれば、距離感は大事です。 尊重できる距離。 誤解を生まないための距離。 お互いの関係性に相応しい距離。 ソレは私のためでもあり、殿下のためでもあります。 情報は提供しても構いません。 だけど、それのために自分を犠牲にするような事は止めて下さい。 ぁ、ですが……ソレが殿下にとって日常となっているなら、私は嫌なんだなと考えてくれれば助かります」

『そんな訳あるか!! ただ、ここには俺達しかいないし……』

 クロード様は数に入れないのだろうか? と言う疑問と共にクロード様を見れば、呆れた様子で肩を竦めていた。 助けてくれないのかと言う不満に対して彼が動く事は無かったが、資料が届いた事で、奇妙なアプローチは終わることとなりホッとする……事は出来ず、10センチの距離を取りながら犬は横にい続ける。



 今回題材とするべき決算書を私は、ペラペラとめくり確認する。 別に、誰かにソレを読み解く方法を習った訳ではないけれど、多くの書類を見ているうちに、どう見れば良いのか理解できるようになっていた。

「北部沿岸の領地は、殿下の改革依頼を受けていなかったけれど、改革案と共に豊かになっていたのですね。 ペンと紙を貸していただけるかしら?」

 集中する私の手元にペンと紙が、置かれる。

 犬の姿のままのシグルド様が、銜えてもってくるのだ……大型犬がお利巧に荷物を運ぶ姿は、ズルイ!! としかいいようがないほどにカワイイものである。

 もふりたい……。

「ありがとうございます」

 シグルド様が視線の端に入り込み気になって仕方ないものの、今気にするべきは書類……そう、書類なのよ!!

順じチェックしていけば、北部沿岸の領地は4年前をピークに利益が増加し、後は徐々に下降、そして2年前には明らかに生活にも困るだろう数値となっていた。

 私は精神の図書館ではなく、自らの記憶を探る。

 ルドリュ伯爵領は南部に位置し、普通であれば、北部の魚を持ってくるのは少しばかり無理のある地域に位置している。 ソレでも、森の民が魔法に長けている事から、魚を冷凍してひっそりと手に入れていて、5年前から北部の魚の漁獲量が減少したからと、価格が高騰したと北方の行商担当をしている森の民が文句を言っていた事を思い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...