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42.大人の隠れ家

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 連れていかれた先は、通路を歩いては辿り着けない古い建物。
 宮殿の建て増しで生まれた空間と空間の間に放置された建築物。

 結構広い。
 魔法も使わず、これだけの空間を隠し生み出すなんて……。

 そう思えば、その建物は誰かが意図的に作り出したかのように思えた。 入口も無いと言うのに。

「こんな所に住んでいるの? 誰も来られないような場所に?」

 人を招く仕事場ではない。
 個人の権威を見せつける意図もない。
 建築物の中からは、いくつも人の気配がしていた。

「誰も来られない訳ではないか……」

 気配へと視線を向けて、独り言のように告げる。

「存在を隠し仕えてくれるものがいる。 厄介なだけと思っていた母も、オークランドに戻ってからは色々と役に立ってくれている」

 私にとっては、狂気と怒号の印象しかない相手。 居ない事は分かっていたし、ソレが安堵に繋がったのも確かだが、シグルド様から肯定的な言葉が発せられれば自然と表情が歪んでしまった。

「そう、ですか」

「どうかしたか?」

「……色々な噂を聞いていたので……」

 オークランドの民は怖いわぁ~。 と、怯えたふりで逃げられないのは、既にミランダが見られている。

「昔は、母と、私しかオークランドの民が居なかった。 なぜ、オマエはアレを受け入れ使っている」

「別に受け入れていないわよ。 クロード様に本来の側仕えが見られているから、代理を募集しただけ……。 何しろ、宮殿はとても危険なところだから」

「その割には、余り役立っていなかったな」

「皇子が出てこなければ問題なかったわ。 もともと人と関わるつもりはなかったもの。 私はただ、ゼーレン公爵のパーティに出席する時のトラブルを回避するため、今の貴族の情報が欲しかっただけだし」

「今の宮殿の状況、貴族の状況、そんなものぐらい幾らでも教えてやる。 だが、ゼーレン公爵のパーティには参加するな」

「一応、うちの一族、領地の都合がありますの」

「まぁ、あるだろうな。 俺がその都合をつけてやる。 どこの領地だ」

 領地改革の切っ掛け、方法、知識、情報を教えたのは私なのに、生意気!! とは思っても、ソレを口に出来ないのだから、私は感情的な様子を演じ、ソッポを向いて見せるのだった。

「それで、ソロソロ中に入らないか? 寒いと言っていただろう?」

「そうね……。 まだ、髪が乾ききってないようですし」

「俺は別にいい……もしかして、廃屋に見えて怖いのか?」

「違うわよ!!」

「外観の見た目はアレだが、内部はちゃんと住めるように改造してあるから安心しろ」

「別に怖いなんて言ってないんだから!!」

「まぁ、俺がいる安心しろ」

 何故か嬉しそうに言いながら、少し高めに抱き上げて頬を摺り寄せてくる。 昔を思い出せば積極過剰も良いところ……頭でもぶつけてオカシクなったのだろうか? と、不安になってくるが、確かめる術はないし、聞く訳にも行かないのが残念だった。

「それより、私は……どういう扱いになるのですか? 捕らえられるような事は、した覚えはないのですが? やはり幽閉とか?」

「確かに1人でこの空間から出入りは難しいだろうが、扱いに関してはクロードに任せる予定だった。 アレが招待したいと望んだ女性だしな」

「客だと言う割には、随分な扱いでしたが?」

「ソレを言ったら、どさくさに紛れて薬を飲ませ連れ帰る奴等よりは全然マシだろう」

「比べる相手のレベルが低すぎてお話にならないわ。 それに、私はゼーマン公爵家のパーティに招待され帝都に出てきているんですよ。 機嫌を損ねて大変な事になったら、どうしてくれるんですか!!」

「大変な事? 何が必要か分からないが、ゼーマン公爵家から得られるものぐらい何とかしてやる。 だから、ゼーマン公爵家に近づかないでくれ」

「私だけが決めた事でも、決める事でもありません。 私が帝都に来たのは一族の総意なんです!!」

「どうしても嫌だと言うなら、強引な手段を使わなければいけなくなるんだが?」

 等と言いながら、建物の外で言い合いをしてしまえば、窓が開けられて一見真面目そうに見える、癖の茶色髪が幼い印象を作り出している細身の男が声をかけてきた。

「お茶の準備は出来ている。 早く入ってきなよ」

「クロード様。 私に用事があると伺いましたが、どのようなご用件でしょうか?」

「説明は、後にして、まずはお茶にしよう。 君らしき人がサロンに顔を出したって聞いて、帝都でも有名な菓子店で人気の菓子を買ってきて貰ったんだから。 入って入って」

 そんな感じで招待を受ける事になる。
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