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30.腹の探り合い

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 屋敷へと戻る道中。

 ヴェルディは、ランバールに疑問を投げかけた。

「あの女性達は何を言っていたの?」

 ランバールは腕の中のヴェルディを少しだけ高く抱き上げ耳もとで囁くいた。 オークランドの民としての身体能力を発揮しているランバールの声を盗み聞きする者などいるはずもなく、秘密を保持しようとするかのようなその行動は余り意味が無い。

 だが、耳元でひっそりと彼は語る。

「繁殖行為について彼女達は語っていたのですよ」

「そう、そうね。 確かに子孫を残すと言うのは皇族にとって大切な事だわ」

 と言った次の瞬間、経過時間0秒の精神の図書館で情報を得たヴェルディは叫ぶ。

「エッチなのはいけないと思います!!」

 ランバールの両頬を摘まみ左右に引っ張れば、

「私は悪くありませんよね?」

 そう答えながらも、少し大人になったヴェルディにランバールは笑っていた。



 そしてヴェルディは、荷物も整理もほどほどに領地に引きこもった。



 帝都では、クロード・バラデュールが似顔絵を準備し、捜索部隊を作り出したがヴェルディの名前も素性も明らかになる事はなかった。 ヴェルディは『森の民』の用心深さで生きて来たから仕方がないだろう。



 その後、貴族令嬢の発言によって、ヴェルディにエッチな人認定されてしまったシグルドは、クロードと共に領地改革を練り直すことになる。



 1年前。
 最初の時。

 改革案をもって貴族達に接触した時の資料を洗い直し、なぜ、その貴族だったのか? 将来的な展望を語っていなかったか? 資料に隠されているのではないか? そんな思いと共に、資料をユックリとなぞりながら、シグルドはクロードの手を借りて記憶を取り戻していった。

 1年分の情報を思い出すには、3年の歳月が必要となったが、クロードがサロンで聞いた、全体バランスの重要性と言う言葉を元に、農業、経済、インフラを研究する者を招き、クロードなりのバランスで、次の改革を進めていった。

 結果、少々繊細さに欠けはするが『領地改革は、第一皇子シグルドが生み出した改革案である』と言う体裁を保ち続ける事が出来た。





「そろそろ、婚約者を定めてはどうだね? 婚約者でなくとも、閨での礼儀を学んでおいた方が良いのではないかね?」

 シグルドに与えられた執務室に人を避けて訪れたのは、ゼーマン公爵。

「必要ありませんよ」

 素っ気ない返事は何時もの事。

「男として、恥をかきたくはないだろう?」

 そこまでハッキリと語る事は無かった公爵が、踏み込んできたのは5年前シグルドが14の時にお勧めしてきた閨教師役の公爵令嬢が、そろそろ来年には30になろうとしているから。

 事実の無い閨での関係を吹聴し誤魔化し、婚約の事実を誤魔化し、今まで誤魔化し続けてきたが、婚姻はまだか? お子はまだか? と、尋ねられて追い詰められている。 なぜ、位の低い貴族に不快な思いをさせられねばならないのか? と、不満が爆発した結果……シグルドに詰め寄ってきたと言う訳だ。

「あぁ、公爵、お年頃の男子に、余計な心配ですよ。 ちゃんとした店で適当に遊ばせていますから」

「……」

「商売女を相手にして、病気などを貰ったらどうするつもりだ」

「いえいえ、相手構わず遊びまわっている令嬢より、検査を徹底し、神殿に多額の寄付を収めている店の方が余程安全と言うものです」

「なんとも、ふしだらな……。 次期皇帝として、相手を一人に定めるべきでしょう!!」

「シツコイぞ!! いい加減にしろ!!」

「いえいえ、この機会に色々と話し合っておくべきでしょう。 殿下を遊ばせるにあたって、性病関係の検査を徹底させ、各娼館に資料提出を行わせたのですが……コレが良くない……」

 そう言って、娼館内に広まる病気の蔓延と、同時にそこに出入りしているだろう貴族が病気を広めている可能性を示唆した。

「いい加減にしてくれ!!」

 シグルドが叫ぶ。

「まったく、何時まで経っても色事に慣れないんだから。 いやはや青いねぇ~」

「潰すぞ」

「……ぇ? 何処を?!」

 と言いながら、クロードはシグルドと距離を取りながら、クロードの視線と言葉は公爵へと再び向けられた。

「そうそうゼーマン公爵。 自慢の公爵家のお姫様。 社交界でも随分と人気なようですが、一度病気のチェックをしておいた方が良いのではありませんか?」

「娘を侮辱する等、その不遜な態度宰相殿に訴えさせてもらうぞ!!」

「私はねぇ、心配しているんですよ。 えぇ、とても心配なんです。 其方の病も酷くなれば、子を儲ける事が出来なくなるだけでなく、命にもかかわるそうですからねぇ。 まぁ、本当に問題ないと言うなら、改めて謝罪をさせていただきますよ。 それとも、人物関係図が必要ですか?」

「……そんなものが存在していると言うなら、出して貰おうじゃないか。 もし、適当な事を言っていたなら、娘の心を傷つけてくれた責任をとってもらうからな」

 そう言われ、クロードは静かに書類を提出した。
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