上 下
27 / 75
03

26.未来の宰相閣下の調査報告

しおりを挟む
「何をしている」

「ソレは、コッチのセリフですよシグルド。 何をしているんですか?」

 コミュニケーションとは重要だとクロードは問いかける。
 理由など、側に居るのだから容易に想像がつく。



 イライラした日々。
 ままならぬ感情の激流。

 そんな感情から、侍女や護衛騎士に辛く語る日々が増えていた。
 ゼーマン公爵家のスパイだから良いと言う問題ではない。
 むしろ、それが余計に苛立たせる。
 いや……昔の彼女達の支配的態度への反抗心もあるのかもしれない。

 とは言え、彼女達も貴族の一員であり、下手に傷つけてしまう訳にはいかない。

 そこはわきまえているのだろうシグルドは、記憶にない午前と言う時間を騎士訓練に参加するようになっていた。 全く運動をしていなかった人間が普通に動けるのは血筋としか言いようがないだろう。



 クロードは、シグルドの身体能力についてこれずボロボロゴロゴロと転がっている騎士達を眺めながら言葉を付け加えた。

「改革の次は戦争でも始めるつもりですか?」

「俺一人が、訓練して意味があるのか?」

「ありそうですが……」

「騎士は女性に人気だと聞いたが、大した事ないな」

「引きこもりが、女性の視線を気にするなんて!! お年頃ですね」

「オマエ、一度勝負しておくか?」

「いえ、勘弁してください」

「ところで、オマエは何をしているんだ?」

「何って……ここ1年、君が午前中何をしていたのかを探っているんだよ」

 クロードが言えば、シグルドは眉間をよせ不機嫌そうな表情を浮かべたから、クロードはヤバッと声に出す。 だがシグルド自身は不機嫌も無意識だったらしく……。

「なんだ、何かヤバイものでも見つかったのか?」

「人に聞いた限りは見つかっては居ませんね。 そして死体も見つかってません」

「何を考えている」

「君が人を殺したんじゃないかってね」

「……殺し等するか!! たぶん……」

 視線を背けられる

「そこは、はっきり宣言してください。 まぁ、君が殺しなんてすれば、第二皇妃の子供達が鬼の首をとったようにはしゃぎだすんだろうから、ソレはないだろうね」

「で、何か見つかったのか?」

「それはコッチのセリフです。 何も思い出せないのですか?」

 何も見つからない、覚えていないでは、正直ピンチと言って良い。 貴族が求める救済に対して、以前のような丁寧な助言をする事がないのだ。 コレでは開きかけた未来が閉ざされかねない。

「誰か一緒にいたような気がするが……誰も覚えていないのだろう?」

「えぇ、不思議にも図書館の司書も、出入りしていたであろう人も、誰も覚えていない人間が確かにいたことはわかりました」

 だが、タイミングが良いとも考えられる。

 今になって第二皇妃の生家と深い関係のある貴族が助言を求めにきているのだから。 ソレを無下にあしらったとしても、当然と判断されるだろう。

「誰かは?」

「残念ながら、そこまでは……。 だけど誰かがいたのは確実だろうと思う。 綺麗に記憶の空間があるなんてこと、ありえないだろう?! 君は3か月の間何処で食事をしていたんだ?」

「……覚えていない」

「全く頼りにならないなぁ……。 何も出てきていない。 だが、ちょうど1年前に図書館の使用許可証が発行され、そして最近返されている。 確実に何かはあるんだ」

「誰が……使っていたんだ?」

「誰が使っていたかは分からないが、ソレを発行した相手はルイーズ様だ」

「……なら、俺には関係ないだろう。 もう、それ以上調べるな」

 一気に冷めたと言わんばかりの視線を向けられ、クロードはたじろいだ。 このまま終わってなるものか!! と……。

「だからってねぇ。 これは明らかに神による記憶の抹消だ。 君は、いや……ルイーズ様が誰かと誓約を交わし抹消している。 君はソレに覚えはないのか!!」

「なんで、そんなに真剣になる」

「そんなの、私の未来のためだよ!!」

 イラっとした気分がピークに達したシグルドは、汗を拭いた後のタオルが勢いよくクロードに投げつける。

「この馬鹿力、あと、臭いんだよ!!」

 追加とばかりにシグルドは、汗に濡れ絞ったあとの服を投げつけ、慌ててクロードは避けるが、その隙を狙い強烈なデコピンをされクロードは30分ほど無意味な時間を過ごすこととなる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい

なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。 ※誤字脱字等ご了承ください

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...