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21.母達による誓約破棄 01
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日も上がらないうちに、ルイーズ様は屋敷へと暴れ込んできた。
エントランスで騒ぎ立て、物を壊す音が響く。
私が目を覚まし、身体を起こそうとすればランバールが布団の上からポンポンと宥めるように触れてくる。
「私が、お守りいたしますから。 お嬢様はユックリと休んでください」
「何処にも行かない?」
布団の中から手をだせば、優しく手が握られ、髪が撫でられた。
「はい、お嬢様と共にあります。 だから、安心してください」
「んっ……」
私は、うすぼんやりと見える影に笑って見せた。
呪いの代替わりへは、受け取った瞬間こそショックを受けたものの、魔力耐性、素質、自然調和の高さによるカイキ現象により、シッカリと食事をとって、たっぷり眠れば夕方には回復する程度のものだった。 心配は無いが無理は禁物で、後の事は任せるようにと大人達はふらふらしていた私を順番に見舞っていった。
だから、きっと大丈夫。
そして私は、再び眠りについた。
儀式的な呪いを永続的に送り続ける事は森の民でも難しい。
今回、シグルドを襲った呪いは、流れの術師と考えられ森の民達は誰も問題として捉えていなかった。
それよりも、問題なのはルイーズだ。
大声は屋敷中に轟き、エントランスが破壊されていく。
「もう限界よね」
そう告げたルイーズの母リーセロットは、義父母と一族の長に視線を向けた。
「あぁ、構わないとも。 私達にとっては彼女との付き合いはデメリットであっても、メリットが無いからね」
穏やかなながらハッキリと伯爵は言えば、一族の長もまた告げる。
「同じ差別を受ける者同士、哀れと思ったからこその援助だったが……理性を失い攻撃を仕掛けてくるものには、哀れみを向けるだけの価値もあるまい」
後は母同士の話し合いが行われた。
「差別を受ける一族同士。 女として、母として、貴方の置かれた状況はとても気の毒だと思ったからです。 決して貴方が提示した対価……シグルド殿下が皇帝になった時、我が子を妻として迎え入れて貰い、差別を受けた我らが共に帝国を支配しよう。 と言う言葉に同意したからではありません。 ただ、貴方が気の毒で、味方となる事で、貴方が救われるならと願い私達は生まれても居ない子に負担を強いる決意をしました。 殿下に向けられる悪意への対処は約束通り行ってまいりました。 ですが、シグルド殿下がソレを望まず、保護を拒んだとなれば別です。 このように不満をぶつけられては、共にあるなど不可能です」
「今更、何を勝手言っているのよ!!」
リーセロットを力で従えようとルイーザが飾りテーブルにかけより手にかけ投げつけようとした。 だが、ルイーザは力を発揮する事が出来なかった。 魔法によって怪力を消失させると言う事はできないが『力を使えない』と意識に働きかける事で、一時的に力を使わせない事ぐらいはできる。
ソレを可能にするぐらいの間、母同士はお互い睨みあっていたのだから。
そして、伯爵と森の民の代表者は、ランバールから報告を受けた事で今回の事を予想していた。 いや、正確に言うなら、予想は不満を言いに押しかけてくるまでで、まさか暴れて破壊行為まで行ってきたのは、予想を大きく超えていたのだが、それでも術に必要な準備は行っていた。
オークランドの民の性質が即物的、衝動的、感情的と言う傾向があり、そんな人達が破壊的な身体能力を持っているからこそ『鬼』と呼ばれる伝説を作り上げているのだから、同情をしていても用心はしていたのだ。
「ここでお付き合いを終わりにするのも、お互いのためだとは思いませんか?」
エントランスで騒ぎ立て、物を壊す音が響く。
私が目を覚まし、身体を起こそうとすればランバールが布団の上からポンポンと宥めるように触れてくる。
「私が、お守りいたしますから。 お嬢様はユックリと休んでください」
「何処にも行かない?」
布団の中から手をだせば、優しく手が握られ、髪が撫でられた。
「はい、お嬢様と共にあります。 だから、安心してください」
「んっ……」
私は、うすぼんやりと見える影に笑って見せた。
呪いの代替わりへは、受け取った瞬間こそショックを受けたものの、魔力耐性、素質、自然調和の高さによるカイキ現象により、シッカリと食事をとって、たっぷり眠れば夕方には回復する程度のものだった。 心配は無いが無理は禁物で、後の事は任せるようにと大人達はふらふらしていた私を順番に見舞っていった。
だから、きっと大丈夫。
そして私は、再び眠りについた。
儀式的な呪いを永続的に送り続ける事は森の民でも難しい。
今回、シグルドを襲った呪いは、流れの術師と考えられ森の民達は誰も問題として捉えていなかった。
それよりも、問題なのはルイーズだ。
大声は屋敷中に轟き、エントランスが破壊されていく。
「もう限界よね」
そう告げたルイーズの母リーセロットは、義父母と一族の長に視線を向けた。
「あぁ、構わないとも。 私達にとっては彼女との付き合いはデメリットであっても、メリットが無いからね」
穏やかなながらハッキリと伯爵は言えば、一族の長もまた告げる。
「同じ差別を受ける者同士、哀れと思ったからこその援助だったが……理性を失い攻撃を仕掛けてくるものには、哀れみを向けるだけの価値もあるまい」
後は母同士の話し合いが行われた。
「差別を受ける一族同士。 女として、母として、貴方の置かれた状況はとても気の毒だと思ったからです。 決して貴方が提示した対価……シグルド殿下が皇帝になった時、我が子を妻として迎え入れて貰い、差別を受けた我らが共に帝国を支配しよう。 と言う言葉に同意したからではありません。 ただ、貴方が気の毒で、味方となる事で、貴方が救われるならと願い私達は生まれても居ない子に負担を強いる決意をしました。 殿下に向けられる悪意への対処は約束通り行ってまいりました。 ですが、シグルド殿下がソレを望まず、保護を拒んだとなれば別です。 このように不満をぶつけられては、共にあるなど不可能です」
「今更、何を勝手言っているのよ!!」
リーセロットを力で従えようとルイーザが飾りテーブルにかけより手にかけ投げつけようとした。 だが、ルイーザは力を発揮する事が出来なかった。 魔法によって怪力を消失させると言う事はできないが『力を使えない』と意識に働きかける事で、一時的に力を使わせない事ぐらいはできる。
ソレを可能にするぐらいの間、母同士はお互い睨みあっていたのだから。
そして、伯爵と森の民の代表者は、ランバールから報告を受けた事で今回の事を予想していた。 いや、正確に言うなら、予想は不満を言いに押しかけてくるまでで、まさか暴れて破壊行為まで行ってきたのは、予想を大きく超えていたのだが、それでも術に必要な準備は行っていた。
オークランドの民の性質が即物的、衝動的、感情的と言う傾向があり、そんな人達が破壊的な身体能力を持っているからこそ『鬼』と呼ばれる伝説を作り上げているのだから、同情をしていても用心はしていたのだ。
「ここでお付き合いを終わりにするのも、お互いのためだとは思いませんか?」
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