【R18】利用される日々は終わりにします【完結】

迷い人

文字の大きさ
上 下
6 / 75
01

05.皇子が呪われた日(11年前)

しおりを挟む
 私は森に生まれた。
 何処の国にも所属しない、魔力渦巻く深い森。
 その森に住む者達は、自分達を『森の民』と呼んでいる。

 外の者達は『悪魔』と呼ぶが……。

 魔力が渦を巻く森で生きられる者は数少ない。

 魔力適正の高い者。
 神の加護を受けた者。
 自然との調和が高い者。

 森に故郷とする者は、自然の力との親和性が高く、魔女とも精霊とも……時には魔物、悪魔と呼ばれ、ひっそりと息を潜めて生きて来た。

 その地に馴染めない者達は異形へと変化し、森の外で暴れるのだから仕方がない。

 だから森の民は、森でひっそりと生きている。

 いやいや……。
 しぶしぶ……。
 仕方なく。

 それでも最近は、森での生活に耐えきれなくなった多くの森の民が、森を離れ、魔力を隠し、森の外で生きようと出ていくのだけど、魔力と言う違和感に気づかれ迫害された者達が森の中に帰ってくる。

 そんな日々が繰り返されていた。

 森の民は、森以外に居場所が無い。



 11年前、ホルト帝国第一皇妃ルイーズは森の民に助けを求めた。


 森の外であげられる悲痛な叫び。

「お願い!! 誰か!! 私の子を助けて!! あのままでは私の、私の子が殺されてしまう!! 助けてくれるなら何でもするわ!! 贄だってここに準備してある!! 私はホルト帝国皇帝の第一皇妃ルイーズ。 私を助けて損はないわ!! お願い出てきて!! お願い!! お願いよぉおおおお!!」

 彼女の叫びは吹雪を押しのけ森に響かせ、贄の少年が哀れに掲げられた。

 叫びに叫び、嘆きに嘆いた彼女の唇は血に赤く濡れ、それでも叫んでいたと言う。

「私の子を助けて!! 私の子が呪われたの!! 帝国は私を裏切った。 貴方達だって帝国が憎いのでしょう!!」

 嘆くルイーズ皇妃を、森の民はフクロウのように木々から見下ろしていた。 

「私の子から、王太子の地位を奪うために呪ったのよ!! 私の、私の子が……!! この国に生まれただけで、大国の地位に胡坐をかく公爵家の者が!! 呪ったのは奴等に決まっている!!」

 吹雪の中、皇妃はやせ細った少年を手に引きずり、髪を振り乱し叫んでいた。

「貴方達だって、帝国には恨みがあるのでしょう!! 私の子を救ってくれたなら、貴方達を迫害した者達を殲滅し、帝国のトップに貴方達を据えてあげる。 だから、力を貸しなさい!! 私の子を助けて!!」

 第一皇妃ルイーズの息子『シグルド・カール・テン・ホルト』は2歳になって少し経った頃に呪われた。 それは、皇帝が愛した初恋の相手、皇帝の第二皇妃に皇子が生まれシバラク経った頃と時期が一致している。

 だから、皇妃ルイーズは第二皇妃の生家であるゼーマン公爵家によって息子が呪われたと考え助けを求め、森の民はソレに応じたそうだ。



 だが、皇妃の予想は違っていた。
 森の民の想定は違っていた。

 もし、公爵家のみが呪いの原因であれば、森の民1人でも対処出来ただろう。 だが、実際には違っていた。 皇子を呪っていたのは多くの帝国の民。

『鬼の住まう地の姫君の子が皇帝になるなんて、なんて恐ろしい事でしょう』
『この国は、この国の民のもの。 鬼の子が皇帝になるなんて許せない』
『恐ろしい……いつか鬼の子は、人を、我らを滅ぼすに決まっている』

 第一皇妃は、軍事国家オークランドの姫君。
 オークランドの民は『鬼』と呼ばれる民。
 獣の因子をその身に宿す民。

 第一皇子は、呪いを民の不安をその身に受けた。

 第一皇子は、鬼であると……。

 結果、その身の獣の因子、狼の因子が強められ人の姿を取れぬようになった。

 膨大な呪いの念を半永久的に対処するためには、身代わりが必要とされた。
 そして、母の腹に生を受けたばかりの私が、身代わりとして魔力的改造を……呪いを受けた。

 生まれる前に魔力を増やされ、耐性を植えられ、精神の図書館への道が開かれ、子供の時間を奪われた。 

 私は彼のためにいる。

 彼のために変えられた私は、彼に運命を感じた。



 そんな私を、甘い乙女のようだと笑いますか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...