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05.皇子が呪われた日(11年前)
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私は森に生まれた。
何処の国にも所属しない、魔力渦巻く深い森。
その森に住む者達は、自分達を『森の民』と呼んでいる。
外の者達は『悪魔』と呼ぶが……。
魔力が渦を巻く森で生きられる者は数少ない。
魔力適正の高い者。
神の加護を受けた者。
自然との調和が高い者。
森に故郷とする者は、自然の力との親和性が高く、魔女とも精霊とも……時には魔物、悪魔と呼ばれ、ひっそりと息を潜めて生きて来た。
その地に馴染めない者達は異形へと変化し、森の外で暴れるのだから仕方がない。
だから森の民は、森でひっそりと生きている。
いやいや……。
しぶしぶ……。
仕方なく。
それでも最近は、森での生活に耐えきれなくなった多くの森の民が、森を離れ、魔力を隠し、森の外で生きようと出ていくのだけど、魔力と言う違和感に気づかれ迫害された者達が森の中に帰ってくる。
そんな日々が繰り返されていた。
森の民は、森以外に居場所が無い。
11年前、ホルト帝国第一皇妃ルイーズは森の民に助けを求めた。
森の外であげられる悲痛な叫び。
「お願い!! 誰か!! 私の子を助けて!! あのままでは私の、私の子が殺されてしまう!! 助けてくれるなら何でもするわ!! 贄だってここに準備してある!! 私はホルト帝国皇帝の第一皇妃ルイーズ。 私を助けて損はないわ!! お願い出てきて!! お願い!! お願いよぉおおおお!!」
彼女の叫びは吹雪を押しのけ森に響かせ、贄の少年が哀れに掲げられた。
叫びに叫び、嘆きに嘆いた彼女の唇は血に赤く濡れ、それでも叫んでいたと言う。
「私の子を助けて!! 私の子が呪われたの!! 帝国は私を裏切った。 貴方達だって帝国が憎いのでしょう!!」
嘆くルイーズ皇妃を、森の民はフクロウのように木々から見下ろしていた。
「私の子から、王太子の地位を奪うために呪ったのよ!! 私の、私の子が……!! この国に生まれただけで、大国の地位に胡坐をかく公爵家の者が!! 呪ったのは奴等に決まっている!!」
吹雪の中、皇妃はやせ細った少年を手に引きずり、髪を振り乱し叫んでいた。
「貴方達だって、帝国には恨みがあるのでしょう!! 私の子を救ってくれたなら、貴方達を迫害した者達を殲滅し、帝国のトップに貴方達を据えてあげる。 だから、力を貸しなさい!! 私の子を助けて!!」
第一皇妃ルイーズの息子『シグルド・カール・テン・ホルト』は2歳になって少し経った頃に呪われた。 それは、皇帝が愛した初恋の相手、皇帝の第二皇妃に皇子が生まれシバラク経った頃と時期が一致している。
だから、皇妃ルイーズは第二皇妃の生家であるゼーマン公爵家によって息子が呪われたと考え助けを求め、森の民はソレに応じたそうだ。
だが、皇妃の予想は違っていた。
森の民の想定は違っていた。
もし、公爵家のみが呪いの原因であれば、森の民1人でも対処出来ただろう。 だが、実際には違っていた。 皇子を呪っていたのは多くの帝国の民。
『鬼の住まう地の姫君の子が皇帝になるなんて、なんて恐ろしい事でしょう』
『この国は、この国の民のもの。 鬼の子が皇帝になるなんて許せない』
『恐ろしい……いつか鬼の子は、人を、我らを滅ぼすに決まっている』
第一皇妃は、軍事国家オークランドの姫君。
オークランドの民は『鬼』と呼ばれる民。
獣の因子をその身に宿す民。
第一皇子は、呪いを民の不安をその身に受けた。
第一皇子は、鬼であると……。
結果、その身の獣の因子、狼の因子が強められ人の姿を取れぬようになった。
膨大な呪いの念を半永久的に対処するためには、身代わりが必要とされた。
そして、母の腹に生を受けたばかりの私が、身代わりとして魔力的改造を……呪いを受けた。
生まれる前に魔力を増やされ、耐性を植えられ、精神の図書館への道が開かれ、子供の時間を奪われた。
私は彼のためにいる。
彼のために変えられた私は、彼に運命を感じた。
そんな私を、甘い乙女のようだと笑いますか?
何処の国にも所属しない、魔力渦巻く深い森。
その森に住む者達は、自分達を『森の民』と呼んでいる。
外の者達は『悪魔』と呼ぶが……。
魔力が渦を巻く森で生きられる者は数少ない。
魔力適正の高い者。
神の加護を受けた者。
自然との調和が高い者。
森に故郷とする者は、自然の力との親和性が高く、魔女とも精霊とも……時には魔物、悪魔と呼ばれ、ひっそりと息を潜めて生きて来た。
その地に馴染めない者達は異形へと変化し、森の外で暴れるのだから仕方がない。
だから森の民は、森でひっそりと生きている。
いやいや……。
しぶしぶ……。
仕方なく。
それでも最近は、森での生活に耐えきれなくなった多くの森の民が、森を離れ、魔力を隠し、森の外で生きようと出ていくのだけど、魔力と言う違和感に気づかれ迫害された者達が森の中に帰ってくる。
そんな日々が繰り返されていた。
森の民は、森以外に居場所が無い。
11年前、ホルト帝国第一皇妃ルイーズは森の民に助けを求めた。
森の外であげられる悲痛な叫び。
「お願い!! 誰か!! 私の子を助けて!! あのままでは私の、私の子が殺されてしまう!! 助けてくれるなら何でもするわ!! 贄だってここに準備してある!! 私はホルト帝国皇帝の第一皇妃ルイーズ。 私を助けて損はないわ!! お願い出てきて!! お願い!! お願いよぉおおおお!!」
彼女の叫びは吹雪を押しのけ森に響かせ、贄の少年が哀れに掲げられた。
叫びに叫び、嘆きに嘆いた彼女の唇は血に赤く濡れ、それでも叫んでいたと言う。
「私の子を助けて!! 私の子が呪われたの!! 帝国は私を裏切った。 貴方達だって帝国が憎いのでしょう!!」
嘆くルイーズ皇妃を、森の民はフクロウのように木々から見下ろしていた。
「私の子から、王太子の地位を奪うために呪ったのよ!! 私の、私の子が……!! この国に生まれただけで、大国の地位に胡坐をかく公爵家の者が!! 呪ったのは奴等に決まっている!!」
吹雪の中、皇妃はやせ細った少年を手に引きずり、髪を振り乱し叫んでいた。
「貴方達だって、帝国には恨みがあるのでしょう!! 私の子を救ってくれたなら、貴方達を迫害した者達を殲滅し、帝国のトップに貴方達を据えてあげる。 だから、力を貸しなさい!! 私の子を助けて!!」
第一皇妃ルイーズの息子『シグルド・カール・テン・ホルト』は2歳になって少し経った頃に呪われた。 それは、皇帝が愛した初恋の相手、皇帝の第二皇妃に皇子が生まれシバラク経った頃と時期が一致している。
だから、皇妃ルイーズは第二皇妃の生家であるゼーマン公爵家によって息子が呪われたと考え助けを求め、森の民はソレに応じたそうだ。
だが、皇妃の予想は違っていた。
森の民の想定は違っていた。
もし、公爵家のみが呪いの原因であれば、森の民1人でも対処出来ただろう。 だが、実際には違っていた。 皇子を呪っていたのは多くの帝国の民。
『鬼の住まう地の姫君の子が皇帝になるなんて、なんて恐ろしい事でしょう』
『この国は、この国の民のもの。 鬼の子が皇帝になるなんて許せない』
『恐ろしい……いつか鬼の子は、人を、我らを滅ぼすに決まっている』
第一皇妃は、軍事国家オークランドの姫君。
オークランドの民は『鬼』と呼ばれる民。
獣の因子をその身に宿す民。
第一皇子は、呪いを民の不安をその身に受けた。
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結果、その身の獣の因子、狼の因子が強められ人の姿を取れぬようになった。
膨大な呪いの念を半永久的に対処するためには、身代わりが必要とされた。
そして、母の腹に生を受けたばかりの私が、身代わりとして魔力的改造を……呪いを受けた。
生まれる前に魔力を増やされ、耐性を植えられ、精神の図書館への道が開かれ、子供の時間を奪われた。
私は彼のためにいる。
彼のために変えられた私は、彼に運命を感じた。
そんな私を、甘い乙女のようだと笑いますか?
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