【R18】利用される日々は終わりにします【完結】

迷い人

文字の大きさ
上 下
5 / 75
01

04.呪われた皇子は母に呪いの言葉を吐く

しおりを挟む
「あぁ、そうです。 そうです。 殿下!! この愚かな娘に、希望を抱いてはいけないと告げるのです!!」

「殿下、貴方様は帝国の光でございます」
「その者は、殿下を誑かそうとしております」
「この国と何のゆかりも無い癖に、帝国に根を張ろうとするハイエナです」
「誑かされてはなりません」
「下賤の民である娘の血を王家に取り入れる等ありえません」

 私の事を何も知らずに、侍女達は勝手な事を語る。
 いえ……彼女達の言葉そのものに間違いはない。

 皇帝が認めていない皇子と言っても、第一皇妃が生んだ子。 彼は生まれた瞬間、皇太子として発表が行われた。 正式な次期皇帝。 彼の事を帝国の貴族達が認めていなかったとしても、彼は生きている限り、皇太子なのだから……私のような者が、殿下の妻となり、子を産むとなれば民意が離れていく……そう、考えられても仕方がないし、不思議はない。

「普通の子じゃないか!!」

「邪悪だからです」
「悪魔は人を誑かすもの」
「殿下、気をしっかり持ってください」
「気を許し乱されてはなりません」
「惑わされてはなりません」

「母上が決めた!! 俺じゃない!! 俺は誑かされていない、惑わされてはいない」

「あぁ、可哀そうな殿下……。 皇妃様は貴方を嫌われているのですよ。 だから幼い貴方を見捨てた」

 皇妃ルイーズ様が言うには、奪われたと言う話だが……。

「皇妃様は、殿下を嫌っておいでなのです。 だから、悪魔との婚約を勧められたのです」

「あぁ、なんて可哀そうな殿下……」

 皇太子シグルドは甘やかされて育った。
 学ぶ事を拒絶しても叱る者は居ない。
 皇太子と言う高い地位が理由じゃない。

 この国の多くの貴族は、公爵家の娘を母に持つ第二皇子を次期皇帝にしたいと願う。

「俺は……」

「殿下……」

 殿下を侍女が追い詰めると言うのはどうなのだろう? とは思うけれど、私も彼もまだ子供。 現に彼は神との誓約の事に対しても無知過ぎる。 無知とは裸で敵の前に出ると言う事と近い……だから、私は殿下に愛する以上に同情する。

「殿下、この誓約がどのようなものか、ご理解していられるのですか?」

「何が、言いたい?」

 訝し気な顔を向けられ私は思った。

 あっ、コレはダメ……そう思った。

 だって、私と彼は信頼関係を築いていない。 彼にとって重要な事、侍女や護衛騎士と全く違う事を語れば、一気に私のうさん臭さは増してしまうと言うところ。

「ごめんなさい……」

 臆病な子供でいる事にした。

「……いや……」

 私はうつむき、殿下は顔を背ける。

「殿下!!」

「オマエのような悪魔との婚約……など……認めない」

「シグルド、なんて言う事を言うのですか!!」

 そう叫んだのは、第一皇妃ルイーズ様。
 彼女の声に、シグルド殿下は反射的に叫んでいた。

「ウルサイ!! なんで、俺はこんな怪しい奴と、下賤の者と、悪魔と、婚約しなければいけないんだ!!」

「シグルド!! 貴方は、この誓約がどのようなものか理解していません。 貴方は、今までだって彼女がいたからこそ、生き抜く事ができたのですよ!!」

「知るか!! ソレが恩着せがましいと言っているんだ!! そのものは皇妃の座を求め、一族の者達をこの地に根付かせたいと図々しくも恐ろしい要求がなされる事を理解しているのか!!」

「だから、貴方は……あのように誓約の文言を勝手に変更したのね……。 なんて、愚かで身勝手な子なのかしら。 彼女に見捨てられれば、どうなるか分かっているのですか!!」

「そもそも、母上が間違っておられるのですよ」

 少年は薄く笑った。

「何を?」

 眉間を寄せる少年の母、皇帝の第一皇妃である女性は眉間を寄せた。

「次期皇帝が、なぜ、呪いを黙って受けなければいけないのですか……。 全ては母上が悪い……。 他国から嫁いできて、この国で味方を作る事もできずにいた。 その結果、第一皇子であり、次期皇帝とされながら、俺への扱いは酷いものだ。 ソレに加え、国にも属していなかった下賤の存在。 悪魔と呼ばれる者達との婚約を決め、未来の皇帝への後ろ盾すら排除する。 母上……俺は、俺の障害となる貴方を恨みます」

 ギラギラとした憎しみの混ざる視線は、私に向けられたものではないと分かっていても、肉食の獣のようだと思えば恐ろしくて動く事が出来なくなった。

 だからこそ、私は安堵した。

 その身動きが取れなくなるほどの怒りが私に向けられなかった事を……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...