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04.呪われた皇子は母に呪いの言葉を吐く
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「あぁ、そうです。 そうです。 殿下!! この愚かな娘に、希望を抱いてはいけないと告げるのです!!」
「殿下、貴方様は帝国の光でございます」
「その者は、殿下を誑かそうとしております」
「この国と何のゆかりも無い癖に、帝国に根を張ろうとするハイエナです」
「誑かされてはなりません」
「下賤の民である娘の血を王家に取り入れる等ありえません」
私の事を何も知らずに、侍女達は勝手な事を語る。
いえ……彼女達の言葉そのものに間違いはない。
皇帝が認めていない皇子と言っても、第一皇妃が生んだ子。 彼は生まれた瞬間、皇太子として発表が行われた。 正式な次期皇帝。 彼の事を帝国の貴族達が認めていなかったとしても、彼は生きている限り、皇太子なのだから……私のような者が、殿下の妻となり、子を産むとなれば民意が離れていく……そう、考えられても仕方がないし、不思議はない。
「普通の子じゃないか!!」
「邪悪だからです」
「悪魔は人を誑かすもの」
「殿下、気をしっかり持ってください」
「気を許し乱されてはなりません」
「惑わされてはなりません」
「母上が決めた!! 俺じゃない!! 俺は誑かされていない、惑わされてはいない」
「あぁ、可哀そうな殿下……。 皇妃様は貴方を嫌われているのですよ。 だから幼い貴方を見捨てた」
皇妃ルイーズ様が言うには、奪われたと言う話だが……。
「皇妃様は、殿下を嫌っておいでなのです。 だから、悪魔との婚約を勧められたのです」
「あぁ、なんて可哀そうな殿下……」
皇太子シグルドは甘やかされて育った。
学ぶ事を拒絶しても叱る者は居ない。
皇太子と言う高い地位が理由じゃない。
この国の多くの貴族は、公爵家の娘を母に持つ第二皇子を次期皇帝にしたいと願う。
「俺は……」
「殿下……」
殿下を侍女が追い詰めると言うのはどうなのだろう? とは思うけれど、私も彼もまだ子供。 現に彼は神との誓約の事に対しても無知過ぎる。 無知とは裸で敵の前に出ると言う事と近い……だから、私は殿下に愛する以上に同情する。
「殿下、この誓約がどのようなものか、ご理解していられるのですか?」
「何が、言いたい?」
訝し気な顔を向けられ私は思った。
あっ、コレはダメ……そう思った。
だって、私と彼は信頼関係を築いていない。 彼にとって重要な事、侍女や護衛騎士と全く違う事を語れば、一気に私のうさん臭さは増してしまうと言うところ。
「ごめんなさい……」
臆病な子供でいる事にした。
「……いや……」
私はうつむき、殿下は顔を背ける。
「殿下!!」
「オマエのような悪魔との婚約……など……認めない」
「シグルド、なんて言う事を言うのですか!!」
そう叫んだのは、第一皇妃ルイーズ様。
彼女の声に、シグルド殿下は反射的に叫んでいた。
「ウルサイ!! なんで、俺はこんな怪しい奴と、下賤の者と、悪魔と、婚約しなければいけないんだ!!」
「シグルド!! 貴方は、この誓約がどのようなものか理解していません。 貴方は、今までだって彼女がいたからこそ、生き抜く事ができたのですよ!!」
「知るか!! ソレが恩着せがましいと言っているんだ!! そのものは皇妃の座を求め、一族の者達をこの地に根付かせたいと図々しくも恐ろしい要求がなされる事を理解しているのか!!」
「だから、貴方は……あのように誓約の文言を勝手に変更したのね……。 なんて、愚かで身勝手な子なのかしら。 彼女に見捨てられれば、どうなるか分かっているのですか!!」
「そもそも、母上が間違っておられるのですよ」
少年は薄く笑った。
「何を?」
眉間を寄せる少年の母、皇帝の第一皇妃である女性は眉間を寄せた。
「次期皇帝が、なぜ、呪いを黙って受けなければいけないのですか……。 全ては母上が悪い……。 他国から嫁いできて、この国で味方を作る事もできずにいた。 その結果、第一皇子であり、次期皇帝とされながら、俺への扱いは酷いものだ。 ソレに加え、国にも属していなかった下賤の存在。 悪魔と呼ばれる者達との婚約を決め、未来の皇帝への後ろ盾すら排除する。 母上……俺は、俺の障害となる貴方を恨みます」
ギラギラとした憎しみの混ざる視線は、私に向けられたものではないと分かっていても、肉食の獣のようだと思えば恐ろしくて動く事が出来なくなった。
だからこそ、私は安堵した。
その身動きが取れなくなるほどの怒りが私に向けられなかった事を……。
「殿下、貴方様は帝国の光でございます」
「その者は、殿下を誑かそうとしております」
「この国と何のゆかりも無い癖に、帝国に根を張ろうとするハイエナです」
「誑かされてはなりません」
「下賤の民である娘の血を王家に取り入れる等ありえません」
私の事を何も知らずに、侍女達は勝手な事を語る。
いえ……彼女達の言葉そのものに間違いはない。
皇帝が認めていない皇子と言っても、第一皇妃が生んだ子。 彼は生まれた瞬間、皇太子として発表が行われた。 正式な次期皇帝。 彼の事を帝国の貴族達が認めていなかったとしても、彼は生きている限り、皇太子なのだから……私のような者が、殿下の妻となり、子を産むとなれば民意が離れていく……そう、考えられても仕方がないし、不思議はない。
「普通の子じゃないか!!」
「邪悪だからです」
「悪魔は人を誑かすもの」
「殿下、気をしっかり持ってください」
「気を許し乱されてはなりません」
「惑わされてはなりません」
「母上が決めた!! 俺じゃない!! 俺は誑かされていない、惑わされてはいない」
「あぁ、可哀そうな殿下……。 皇妃様は貴方を嫌われているのですよ。 だから幼い貴方を見捨てた」
皇妃ルイーズ様が言うには、奪われたと言う話だが……。
「皇妃様は、殿下を嫌っておいでなのです。 だから、悪魔との婚約を勧められたのです」
「あぁ、なんて可哀そうな殿下……」
皇太子シグルドは甘やかされて育った。
学ぶ事を拒絶しても叱る者は居ない。
皇太子と言う高い地位が理由じゃない。
この国の多くの貴族は、公爵家の娘を母に持つ第二皇子を次期皇帝にしたいと願う。
「俺は……」
「殿下……」
殿下を侍女が追い詰めると言うのはどうなのだろう? とは思うけれど、私も彼もまだ子供。 現に彼は神との誓約の事に対しても無知過ぎる。 無知とは裸で敵の前に出ると言う事と近い……だから、私は殿下に愛する以上に同情する。
「殿下、この誓約がどのようなものか、ご理解していられるのですか?」
「何が、言いたい?」
訝し気な顔を向けられ私は思った。
あっ、コレはダメ……そう思った。
だって、私と彼は信頼関係を築いていない。 彼にとって重要な事、侍女や護衛騎士と全く違う事を語れば、一気に私のうさん臭さは増してしまうと言うところ。
「ごめんなさい……」
臆病な子供でいる事にした。
「……いや……」
私はうつむき、殿下は顔を背ける。
「殿下!!」
「オマエのような悪魔との婚約……など……認めない」
「シグルド、なんて言う事を言うのですか!!」
そう叫んだのは、第一皇妃ルイーズ様。
彼女の声に、シグルド殿下は反射的に叫んでいた。
「ウルサイ!! なんで、俺はこんな怪しい奴と、下賤の者と、悪魔と、婚約しなければいけないんだ!!」
「シグルド!! 貴方は、この誓約がどのようなものか理解していません。 貴方は、今までだって彼女がいたからこそ、生き抜く事ができたのですよ!!」
「知るか!! ソレが恩着せがましいと言っているんだ!! そのものは皇妃の座を求め、一族の者達をこの地に根付かせたいと図々しくも恐ろしい要求がなされる事を理解しているのか!!」
「だから、貴方は……あのように誓約の文言を勝手に変更したのね……。 なんて、愚かで身勝手な子なのかしら。 彼女に見捨てられれば、どうなるか分かっているのですか!!」
「そもそも、母上が間違っておられるのですよ」
少年は薄く笑った。
「何を?」
眉間を寄せる少年の母、皇帝の第一皇妃である女性は眉間を寄せた。
「次期皇帝が、なぜ、呪いを黙って受けなければいけないのですか……。 全ては母上が悪い……。 他国から嫁いできて、この国で味方を作る事もできずにいた。 その結果、第一皇子であり、次期皇帝とされながら、俺への扱いは酷いものだ。 ソレに加え、国にも属していなかった下賤の存在。 悪魔と呼ばれる者達との婚約を決め、未来の皇帝への後ろ盾すら排除する。 母上……俺は、俺の障害となる貴方を恨みます」
ギラギラとした憎しみの混ざる視線は、私に向けられたものではないと分かっていても、肉食の獣のようだと思えば恐ろしくて動く事が出来なくなった。
だからこそ、私は安堵した。
その身動きが取れなくなるほどの怒りが私に向けられなかった事を……。
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