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7章 それぞれの歩み
79.王位を継ぐ者 02
しおりを挟む「へっ?」
「ですから、私は聖女ではありえないと申しておりますの」
「いえ、あの……ですが、今のいいようだと……貴方はアリアメア様だと……」
「はい、ここでお世話になっている時は、そのように呼ばれておりました。 覚えておりますわ。 貴方は良く菓子をもって私の元に訪れてくれましたよね」
「ぁ、え……」
貴族は頭を下げれば、
「気にしないでください。 私は聖女ではないのは真実なのですから。 なぜなら、私は、ルデルス国の国家精霊を父に持ち、炎の巫女姫フレイヤを母に持つ者。 あえて……私と言う存在に名をつけるなら、魔人でしょうか?」
「なぜ、そのような立場の方が、我が国へ……」
男は決して疑問に思った訳ではなかった。 気づけば、当たり前の疑問のように口走っていたのだ。 もし、彼に起こっている事を聞けば、最初に彼女をアリアメアだと叫んだ者が、アリアメアによって叫ばされた可能性も考える事ができたかもしれない。
アリアメアは、静かに自らの生い立ちを語る。
「生まれたばかりの私は、危険な存在として命を狙われ、私を救うために乳母が私を連れ逃げ、そしてたどり着いた先で聖女と勘違いされたに過ぎないのですから」
悲し気に語られれば、偽聖女と叫んだ貴族を責めるような視線が向けられた。 無数の視線が向けられているにもかかわらず、貴族は不思議にも追い詰められた気分にもならなければ、責められた気分にもならなかった。
ただ……アリアメアから視線を逸らす事はできなかった。 それだけのこと……。
「……ぇ、あ……その……申し訳、ございません」
「いいえ、聖女でないと言うのは事実ですもの。 気にしませんわ」
小首をかしげ、艶やかな羽扇で口元を隠しコロコロと笑って見せた。
「目……」
微笑まれた貴族がボソリと呟き、アリアメアを見つめウットリすれば、宰相エミールが背後から声をかける。
「愛しい方。 私を差し置いて他の男性と見つめあうなど……私を嫉妬させる気ですか?」
そう告げた宰相は、片膝を地面につきアリアメアの手を取り口づける。
「あら、明日には国王陛下となろうお方が、なんて可愛らしい事をおっしゃるのかしら?」
「貴方の前では、どのような男も可愛らしく媚びてしまう事でしょう」
宰相エミール・グルゴリエが微笑み、アリアメアの手を取り、エミールは宣言する。
「明日の王位継承時、ルデルス国の魔姫アリアメアを妻と向かえ、ルデルス国との間に強固な絆を結び、この国を共に支えて行くことを宣言しよう!」
「あのように簒奪を行ったルデルス国との間に同盟を結ぶと?! 正気か!!」
「それは、ジュリアン王子が……いえ、ジュリアンが命じたもの。 我が国の戦士達の責任とされては困ります……。 どうしましょう旦那様……このように言われていては、折角の同盟の話が駄目になってしまいますわ」
そう言ってアリアメアは、エミールへと頼りなげな視線を向けた……らしい……。 何しろ私や父様の目には、ぎょろぎょろと動く目が気になって、気が削がれてしまうのだ。
「お前達は、魔人を失ったこの国がこの先どうなるかも知らないと言うのか?! 貴族として守るべき民を持っておりながら、それでいいのか? そんな甘い考えでいいのか!! 民を失いたいのか? 民を見捨てるのか? 魔姫アリアメアは、ルデルス国の精霊や戦士達が、安寧に身を置くあまり戦う術を忘れたこの国を守り、戦ってくれると言っておられるのだぞ!! 感謝こそすれ、それの態度はなんだ!!」
エミールは声を荒げ怒った。
「父様……どうしましょう……」
これでは、宰相が王に相応しくない!! と、言って済む話ではない……。 宰相にしかできぬ国の救済を提示されたのだ。
私達は、貴族に囲まれ、他国の使者が遠く見守るアリアメアとエミールの姿を、ただ見つめるしかできなかった。
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