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7章 それぞれの歩み
78.王位を継ぐ者 01
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不浄なる者。
不吉な存在。
そう言って魔導師達の評判を落としたのは宰相エミール・グルゴリエだ。
『お前達は影の存在として、王に忠誠を誓え。 私が王になった暁には、誓約の精霊の仲介の元で誓ってもらおう。 でなければ、信用できたものじゃないからなぁ~』
そんな事を言われた魔導師達は、陰気臭い仮面とローブが与えられ、人前に姿を現す事を禁じられたがゆえに隠密の術で姿を隠し、距離を置き貴族達を見守っていた。
侮辱とも取れそうな発言だが、全てが父様……リヨン・オルコットが私を聖女と言う立場から、王族から逃がすために準備していた反聖女派によって王に進言させ、認めさせた案である。 今、この場の自由を得るためだけにだ。
「アレが雨?」
雨とは私達がアリアメアの事を語る際の隠語である。
私は初めて見るその姿に、父様を振り返った。
「私には、父様やジュリアンが見ていたような、血を混ぜたような土の塊が見えないのだけど?」
だからと言って、普通の人間のように見えている訳ではない。 顔も、首も、肩も、胸元も、広く開いた背中も、剥き出しの腕も、全てが圧縮し過ぎて赤黒くなった炎の塊が赤いドレスを着ているように見える。 その炎の肌には無数の目があり、ぎょろぎょろとあたりを落ち着きなく見回していた。
「私にも見えませんよ」
父様は苦笑してみせ、そして言葉を続けた。
「今は魔力の形成技術を高めたと言う事でしょうか?」
8年前までは、土の塊が土人形を動かしていたが、今は本体そのものを人形化させているような感じだろうか?
なぜ、彼女がここに?
私は苦々しく顔を顰めてしまう。 疑問ばかりだ……。
アリアメアが人の世で自由にしていたなら、なぜロノスは内乱の時、召喚に応じてくれなかったの? なぜ、迷宮図書館から呼びかけてもロノスは応じなかったの? 今もどこかで私達を見て笑っているの? どうしたい訳!!
心の中で叫んでみてもロノスが返事をくれる訳はなく……それどころか、心の中の私の声にヴェルが反応することもなく、いえ……気配すら感じない。
何が、起こっているのよ!!
私の不安も戸惑いも深くかぶったローブから気づいてくれる者はなく、1人の男が父様に問いかける。
「偽聖女を今更連れてきてどうするつもりだ?」
精神系の力に対する用心にと、ヴェル影響下、支配下に入れられた人間の1人が問えば、別の人間も不安そうに問いかけてくる。
「団長の目には、どのように見えるのですか?」
部下に問われた父様は逆に聞き返す。
「貴方はどのように見えるのですか?」
「とても美しい方です。 天使のような儚い顔立ち、庇護欲をかきたてる表情、時折妖艶とも言える火を宿す瞳……。 ですが、髪は夕焼けのようで、瞳は金色……これほどまで色が違うなら、雨とは別人ではないのでしょうか?」
「ふうん……真実が見えない人には、そう見えるんだ。 なら、アリアメアではなくルデルス国の王族として紹介するつもりだったのかな?」
独り言のような私の呟きに、父様は渋い声で呟く。
「分かりません。 宰相は王に相応しくないと、新しい王を掲げる瞬間を見逃してはいけない。 今はソレだけを考えましょう」
そんな事を私達が言いあっていれば、他国の使者達の前であるにもかかわらず、声を荒げだす貴族がいた。
「ルデルス国の王家の方を、あの偽聖女と一緒にする等、誰だ!! そのような不敬を口にしたのは!!」
叫んだ貴族は、貴族を見回すが誰も自分だと手を挙げるものはない。
「おまえか? おまえか? おまえではないのか?!」
そう責め立てる。
「おやめください」
そう告げる美しいドレスを身にまとった若い女性と、貴族の視線が合った……。 貴族は頬を染め視線を逸らした。
「申し訳ない、我が国のものが……」
「いいえ……謝る必要等ありません」
8年の間、正しい聖女によって国は安定していた。
それに比べ、アリアメアはその愛らしさと無邪気さで、王妃教育からも聖女教育からも逃げ、何よりその魔力は普通の者よりも少なかったのだから、偽聖女と呼ばれるのも当然の事。(計測されていたのが土人形の方だったため魔力は計測されなかった)
「ですが……」
「いいのです。 私は確かに聖女としては偽物でしたから」
不吉な存在。
そう言って魔導師達の評判を落としたのは宰相エミール・グルゴリエだ。
『お前達は影の存在として、王に忠誠を誓え。 私が王になった暁には、誓約の精霊の仲介の元で誓ってもらおう。 でなければ、信用できたものじゃないからなぁ~』
そんな事を言われた魔導師達は、陰気臭い仮面とローブが与えられ、人前に姿を現す事を禁じられたがゆえに隠密の術で姿を隠し、距離を置き貴族達を見守っていた。
侮辱とも取れそうな発言だが、全てが父様……リヨン・オルコットが私を聖女と言う立場から、王族から逃がすために準備していた反聖女派によって王に進言させ、認めさせた案である。 今、この場の自由を得るためだけにだ。
「アレが雨?」
雨とは私達がアリアメアの事を語る際の隠語である。
私は初めて見るその姿に、父様を振り返った。
「私には、父様やジュリアンが見ていたような、血を混ぜたような土の塊が見えないのだけど?」
だからと言って、普通の人間のように見えている訳ではない。 顔も、首も、肩も、胸元も、広く開いた背中も、剥き出しの腕も、全てが圧縮し過ぎて赤黒くなった炎の塊が赤いドレスを着ているように見える。 その炎の肌には無数の目があり、ぎょろぎょろとあたりを落ち着きなく見回していた。
「私にも見えませんよ」
父様は苦笑してみせ、そして言葉を続けた。
「今は魔力の形成技術を高めたと言う事でしょうか?」
8年前までは、土の塊が土人形を動かしていたが、今は本体そのものを人形化させているような感じだろうか?
なぜ、彼女がここに?
私は苦々しく顔を顰めてしまう。 疑問ばかりだ……。
アリアメアが人の世で自由にしていたなら、なぜロノスは内乱の時、召喚に応じてくれなかったの? なぜ、迷宮図書館から呼びかけてもロノスは応じなかったの? 今もどこかで私達を見て笑っているの? どうしたい訳!!
心の中で叫んでみてもロノスが返事をくれる訳はなく……それどころか、心の中の私の声にヴェルが反応することもなく、いえ……気配すら感じない。
何が、起こっているのよ!!
私の不安も戸惑いも深くかぶったローブから気づいてくれる者はなく、1人の男が父様に問いかける。
「偽聖女を今更連れてきてどうするつもりだ?」
精神系の力に対する用心にと、ヴェル影響下、支配下に入れられた人間の1人が問えば、別の人間も不安そうに問いかけてくる。
「団長の目には、どのように見えるのですか?」
部下に問われた父様は逆に聞き返す。
「貴方はどのように見えるのですか?」
「とても美しい方です。 天使のような儚い顔立ち、庇護欲をかきたてる表情、時折妖艶とも言える火を宿す瞳……。 ですが、髪は夕焼けのようで、瞳は金色……これほどまで色が違うなら、雨とは別人ではないのでしょうか?」
「ふうん……真実が見えない人には、そう見えるんだ。 なら、アリアメアではなくルデルス国の王族として紹介するつもりだったのかな?」
独り言のような私の呟きに、父様は渋い声で呟く。
「分かりません。 宰相は王に相応しくないと、新しい王を掲げる瞬間を見逃してはいけない。 今はソレだけを考えましょう」
そんな事を私達が言いあっていれば、他国の使者達の前であるにもかかわらず、声を荒げだす貴族がいた。
「ルデルス国の王家の方を、あの偽聖女と一緒にする等、誰だ!! そのような不敬を口にしたのは!!」
叫んだ貴族は、貴族を見回すが誰も自分だと手を挙げるものはない。
「おまえか? おまえか? おまえではないのか?!」
そう責め立てる。
「おやめください」
そう告げる美しいドレスを身にまとった若い女性と、貴族の視線が合った……。 貴族は頬を染め視線を逸らした。
「申し訳ない、我が国のものが……」
「いいえ……謝る必要等ありません」
8年の間、正しい聖女によって国は安定していた。
それに比べ、アリアメアはその愛らしさと無邪気さで、王妃教育からも聖女教育からも逃げ、何よりその魔力は普通の者よりも少なかったのだから、偽聖女と呼ばれるのも当然の事。(計測されていたのが土人形の方だったため魔力は計測されなかった)
「ですが……」
「いいのです。 私は確かに聖女としては偽物でしたから」
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