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7章 それぞれの歩み

76.聖女の証 03

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 ミカゲ先生はと言えば、父様と私にホットチョコレートを準備してくれた。

「とりあえず、落ち着け。 話が逸れている」

「先生、ありがとう」

「いや」

 短く言って先生もまた私の頭を撫でようとすれば、にっこり笑った父様に手を払われていた。

 父様……。

「私の見たアリアメアは、他の人が見ている存在と違い、目の沢山あるだけの血が混じり赤黒くそまった土くれ人形のようでした。 大きさはこれぐらいですかね」

 父様は両手で赤ん坊の大きさを示し、言葉を続けた。 それは、懺悔のように聞こえ、私はもう良いのだと言うのを止めた。

「だけど、背後にいた本体。 本体なのでしょうね。 ソレは牛のように大きかったんです」

「父様は恐ろしくはなかったの?」

「恐ろしい……どうでしょう。 当時の私は、人が美しいと、奇跡だと、目の前で繰り広げられる茶番を他人事のように見ていましたから、今は己に課せられた罰を耐えるのみだと……」

 仄かに薄暗い雰囲気が怖いほどに綺麗で、私は凍り付いたように固まってしまった。 そんな私を救ったのは、風が運んだ花の香り。

 私は、傍にあったナッツ類を砂糖で固めた甘い菓子を握っと掴み、父様の口の中に突っ込む。

「ふぉふへんに、ふぁにふぉするんですか」

「栄養が足りてない顔をしていたから」

 父様はヘラリと笑って見せる。

「甘い、ですね」

 そして先生を見れば、はいはいと先生はお茶を入れだす。

 父様の話を聞く限り、アリアメアと現状を結びつける要素はなく、優先すべきは他のことだろうと思っているのに……どうしても気になって仕方がなくて、私は父様に聞く。

「父様は、家の中で牛のように大きなものを飼っていたの?」

「牛と言うのはあくまでも大きさで、実際に牛を飼っていた訳ではありませんから。 そうですねぇ……」

 父様が少し悩んでシバラクすると、父様の背後がぐにゃりと歪んで見えた。 オルコット公爵家の当主はロノスとの契約状態にあり、その力の欠片を借りる事ができる。 で、父様は空間をゆがめたのだと思う。

「えっと?」

「魔力の密度を上げると、目の良いものには歪みが見えますよね?」

「うん。 私には、グニャグニャと見える」

 私と父様は、先生を見れば、先生はお茶をもって父様が作った魔力の歪みをよけてテーブルに茶を置いた。

「何を遊んでるんだかしらないが、邪魔だ」

 先生の言葉を無視して父様は言う。

「ようするに、こういう存在だったんです。 たぶん、人に見える人形部分は明らかに物理的質量を持っていましたが、それはエリアルが皮膚につけていた魔力の塊のようなものと考えるべきでしょう」

「あ~。 なるほど……」

 最初は幻覚か洗脳かによって、人の姿に見せていたけれど、後に行くほど魔力を造形化する精度が増していき、人間に近しい者を作り上げたと言う訳ですか……。

「そんな訳で、私の大切な娘は貴方だけですよエリアル」

 私はヘラリと笑い、父様も優しく笑った。

「よしっ!!」

 私は自分の頬をパチッと叩いた。

「どうしたんですか?! 突然に」

「話をね、切り替えようと思ったの……」

 思ったよりも痛かったと苦笑いをすれば、父様は私の頬を撫でる。

「それで、宰相の即位が想定より早くなったの……遅らせるための手段はないかなぁ?」

「突然ですね!」

「本来なら、優先すべきはこっちですし……」

「それもそうですね。 時期に関しては、魔導師長、神官長、それにヘルンエリアルの叔父の事も心配です。 既に少人数に分かれオルコット領の者達が王都入りを終え、それぞれの役割についているはずです。 このまま流れに任せましょう」

「でも!! 今の状態では王になる者がいないよ。 ……まさか、父様が王位に就くとか……?」

 恐る恐る聞けば、すっごく笑われた。

「それは、絶対にありえませんよ!! だって、私は王族が大嫌いなんですから。 大丈夫です。 準備は進めています。 そうですね……私も明日には王都に向かい、私にしか出来ない事をしましょう。 だから、貴方には貴方にしか出来ない事を、しっかりと行ってください」

 そう告げる父様は、私ではなく、私の影をジッと見つめていた。
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