76 / 82
7章 それぞれの歩み
76.聖女の証 03
しおりを挟む
ミカゲ先生はと言えば、父様と私にホットチョコレートを準備してくれた。
「とりあえず、落ち着け。 話が逸れている」
「先生、ありがとう」
「いや」
短く言って先生もまた私の頭を撫でようとすれば、にっこり笑った父様に手を払われていた。
父様……。
「私の見たアリアメアは、他の人が見ている存在と違い、目の沢山あるだけの血が混じり赤黒くそまった土くれ人形のようでした。 大きさはこれぐらいですかね」
父様は両手で赤ん坊の大きさを示し、言葉を続けた。 それは、懺悔のように聞こえ、私はもう良いのだと言うのを止めた。
「だけど、背後にいた本体。 本体なのでしょうね。 ソレは牛のように大きかったんです」
「父様は恐ろしくはなかったの?」
「恐ろしい……どうでしょう。 当時の私は、人が美しいと、奇跡だと、目の前で繰り広げられる茶番を他人事のように見ていましたから、今は己に課せられた罰を耐えるのみだと……」
仄かに薄暗い雰囲気が怖いほどに綺麗で、私は凍り付いたように固まってしまった。 そんな私を救ったのは、風が運んだ花の香り。
私は、傍にあったナッツ類を砂糖で固めた甘い菓子を握っと掴み、父様の口の中に突っ込む。
「ふぉふへんに、ふぁにふぉするんですか」
「栄養が足りてない顔をしていたから」
父様はヘラリと笑って見せる。
「甘い、ですね」
そして先生を見れば、はいはいと先生はお茶を入れだす。
父様の話を聞く限り、アリアメアと現状を結びつける要素はなく、優先すべきは他のことだろうと思っているのに……どうしても気になって仕方がなくて、私は父様に聞く。
「父様は、家の中で牛のように大きなものを飼っていたの?」
「牛と言うのはあくまでも大きさで、実際に牛を飼っていた訳ではありませんから。 そうですねぇ……」
父様が少し悩んでシバラクすると、父様の背後がぐにゃりと歪んで見えた。 オルコット公爵家の当主はロノスとの契約状態にあり、その力の欠片を借りる事ができる。 で、父様は空間をゆがめたのだと思う。
「えっと?」
「魔力の密度を上げると、目の良いものには歪みが見えますよね?」
「うん。 私には、グニャグニャと見える」
私と父様は、先生を見れば、先生はお茶をもって父様が作った魔力の歪みをよけてテーブルに茶を置いた。
「何を遊んでるんだかしらないが、邪魔だ」
先生の言葉を無視して父様は言う。
「ようするに、こういう存在だったんです。 たぶん、人に見える人形部分は明らかに物理的質量を持っていましたが、それはエリアルが皮膚につけていた魔力の塊のようなものと考えるべきでしょう」
「あ~。 なるほど……」
最初は幻覚か洗脳かによって、人の姿に見せていたけれど、後に行くほど魔力を造形化する精度が増していき、人間に近しい者を作り上げたと言う訳ですか……。
「そんな訳で、私の大切な娘は貴方だけですよエリアル」
私はヘラリと笑い、父様も優しく笑った。
「よしっ!!」
私は自分の頬をパチッと叩いた。
「どうしたんですか?! 突然に」
「話をね、切り替えようと思ったの……」
思ったよりも痛かったと苦笑いをすれば、父様は私の頬を撫でる。
「それで、宰相の即位が想定より早くなったの……遅らせるための手段はないかなぁ?」
「突然ですね!」
「本来なら、優先すべきはこっちですし……」
「それもそうですね。 時期に関しては、魔導師長、神官長、それにヘルンの事も心配です。 既に少人数に分かれオルコット領の者達が王都入りを終え、それぞれの役割についているはずです。 このまま流れに任せましょう」
「でも!! 今の状態では王になる者がいないよ。 ……まさか、父様が王位に就くとか……?」
恐る恐る聞けば、すっごく笑われた。
「それは、絶対にありえませんよ!! だって、私は王族が大嫌いなんですから。 大丈夫です。 準備は進めています。 そうですね……私も明日には王都に向かい、私にしか出来ない事をしましょう。 だから、貴方には貴方にしか出来ない事を、しっかりと行ってください」
そう告げる父様は、私ではなく、私の影をジッと見つめていた。
「とりあえず、落ち着け。 話が逸れている」
「先生、ありがとう」
「いや」
短く言って先生もまた私の頭を撫でようとすれば、にっこり笑った父様に手を払われていた。
父様……。
「私の見たアリアメアは、他の人が見ている存在と違い、目の沢山あるだけの血が混じり赤黒くそまった土くれ人形のようでした。 大きさはこれぐらいですかね」
父様は両手で赤ん坊の大きさを示し、言葉を続けた。 それは、懺悔のように聞こえ、私はもう良いのだと言うのを止めた。
「だけど、背後にいた本体。 本体なのでしょうね。 ソレは牛のように大きかったんです」
「父様は恐ろしくはなかったの?」
「恐ろしい……どうでしょう。 当時の私は、人が美しいと、奇跡だと、目の前で繰り広げられる茶番を他人事のように見ていましたから、今は己に課せられた罰を耐えるのみだと……」
仄かに薄暗い雰囲気が怖いほどに綺麗で、私は凍り付いたように固まってしまった。 そんな私を救ったのは、風が運んだ花の香り。
私は、傍にあったナッツ類を砂糖で固めた甘い菓子を握っと掴み、父様の口の中に突っ込む。
「ふぉふへんに、ふぁにふぉするんですか」
「栄養が足りてない顔をしていたから」
父様はヘラリと笑って見せる。
「甘い、ですね」
そして先生を見れば、はいはいと先生はお茶を入れだす。
父様の話を聞く限り、アリアメアと現状を結びつける要素はなく、優先すべきは他のことだろうと思っているのに……どうしても気になって仕方がなくて、私は父様に聞く。
「父様は、家の中で牛のように大きなものを飼っていたの?」
「牛と言うのはあくまでも大きさで、実際に牛を飼っていた訳ではありませんから。 そうですねぇ……」
父様が少し悩んでシバラクすると、父様の背後がぐにゃりと歪んで見えた。 オルコット公爵家の当主はロノスとの契約状態にあり、その力の欠片を借りる事ができる。 で、父様は空間をゆがめたのだと思う。
「えっと?」
「魔力の密度を上げると、目の良いものには歪みが見えますよね?」
「うん。 私には、グニャグニャと見える」
私と父様は、先生を見れば、先生はお茶をもって父様が作った魔力の歪みをよけてテーブルに茶を置いた。
「何を遊んでるんだかしらないが、邪魔だ」
先生の言葉を無視して父様は言う。
「ようするに、こういう存在だったんです。 たぶん、人に見える人形部分は明らかに物理的質量を持っていましたが、それはエリアルが皮膚につけていた魔力の塊のようなものと考えるべきでしょう」
「あ~。 なるほど……」
最初は幻覚か洗脳かによって、人の姿に見せていたけれど、後に行くほど魔力を造形化する精度が増していき、人間に近しい者を作り上げたと言う訳ですか……。
「そんな訳で、私の大切な娘は貴方だけですよエリアル」
私はヘラリと笑い、父様も優しく笑った。
「よしっ!!」
私は自分の頬をパチッと叩いた。
「どうしたんですか?! 突然に」
「話をね、切り替えようと思ったの……」
思ったよりも痛かったと苦笑いをすれば、父様は私の頬を撫でる。
「それで、宰相の即位が想定より早くなったの……遅らせるための手段はないかなぁ?」
「突然ですね!」
「本来なら、優先すべきはこっちですし……」
「それもそうですね。 時期に関しては、魔導師長、神官長、それにヘルンの事も心配です。 既に少人数に分かれオルコット領の者達が王都入りを終え、それぞれの役割についているはずです。 このまま流れに任せましょう」
「でも!! 今の状態では王になる者がいないよ。 ……まさか、父様が王位に就くとか……?」
恐る恐る聞けば、すっごく笑われた。
「それは、絶対にありえませんよ!! だって、私は王族が大嫌いなんですから。 大丈夫です。 準備は進めています。 そうですね……私も明日には王都に向かい、私にしか出来ない事をしましょう。 だから、貴方には貴方にしか出来ない事を、しっかりと行ってください」
そう告げる父様は、私ではなく、私の影をジッと見つめていた。
11
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる