化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

文字の大きさ
上 下
69 / 82
7章 それぞれの歩み

69.父様の馬鹿 01

しおりを挟む
 なぜ、泣いているのか? 涙が溢れるのか? そんな事も分からず泣き続け、やがて落ち着き、冷静さを取り戻し、顔を上げるタイミングが分からず戸惑っていれば父様が私を抱き上げ、涙をハンカチで拭う。

「あんまり泣いていると、顔が腫れてブスになりますよ。 せっかくユリアに似て美人なのですから勿体ない」

 なんて言われて、とりあえず私は父様の頬を摘まみ引っ張っておいた。

「余計なお世話」

 私の声は途切れ途切れで涙声だけど、何時も通りの反応を返せば、父様は笑う。

「結構痛いんですよソレ」

 って、何時もよりも少し嬉しそうに笑い、涙を浮かべて、抱きしめてくる。

「父様」

「ごめん……ようやく、立派に成長した私達の子をユリアに会わせることができたなって思うと……」

 私は困りながらミカゲ先生へと視線を向ければ、苦笑紛れに、だけどミカゲ先生も何時もより少しだけ緩んだ笑みを浮かべていた。

「ユックリできる部屋へと行きましょう。 出ないと……騒ぎがどんどん大きくなる」

 ミカゲ先生は肩を竦めながら言う。

その理由は私にもわかる。

 何しろ、中庭を囲む渡り廊下?的な場所には、柱の陰や、手すりに座り込むように身を隠し、すんすんと声を抑え泣いている人が大量にいるから。

 一応、気づかないふりをしている。

 小さな子供のように泣いたのを大勢の人に見られた事も、私が泣くのを見ていた大勢の人が泣いている事も、胸の中がもぞもぞして落ち着かないから。

「そうしてくれると、助かる……かな?」

 少し居心地が悪く、
 少し居たたまれない。

 母様と似ているから、母様に世話になった人達にお礼を言われ、恩返しをしたいと言われ、声をかけられ、敬われ。 そのすべては私のものではなく、母様のもので……。 何時だって私は居たたまれない気持ちになっていた。

 それを知っている先生は、父譲りの蜂蜜色の髪を撫で、目を細めて笑って見せるのだ。

「皆、嬉しいんだよ。 お嬢ちゃんが戻り、公爵様を父様と呼び、ユリア様を母様と呼ぶ。 それは誰もが夢見た幸せの形なんですから」

「良く分からない……けど、先生も嬉しいの?」

「そうだね。 嬉しいですよ」

「父様も嬉しい?」

「う“れじぃですどもぉ」

「……父様……」

 私にはやっぱりわからない。 なぜ、出会った事の無い私の一挙手一投足に喜べるのか? だけど……父様とミカゲ先生が嬉しいならいいや……と、収めようとした。

 もぞもぞとした収まりの悪い気持ちのまま、収めようとしたのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

処理中です...