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6章 居場所
65.2人の長が追い詰められた先 04
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ヴェルの干渉は、浄化と言っていいものか分からない。 たぶん、ダメだと思うのだけど、まぁ、意味合い的にはそんな感じの処理を終えた長2人は、ジュリアンのように泣き言を訴えるでもなく、疑問と憤りをぶつけてきた。
「アレは、なんだね!!」
魔導師長。
「つまらん奴らだ。 真実を知って言うのは誰も彼も同じ事ばかり」
そういうが、2人目? 3人目? 文句を言うほどの数ではないよね? 私は苦笑する。 苦笑する余裕が出来ていた。
「なんだと思うね?」
カラカウように問うのはヴェル。
魔導師長と神官長が顔を見合わせる。 彼等は、先代の予想外の死によって予定外に長となったが、その当時最も力と知識ある者達であった。
「魔人……。 だが、魔人の存在は、100年ほど記録に残って等いません!!」
神官長もまた、怒っていた。
「それはそうだろう。 アレはまだ若い。 若いしその思考は限りなく人間に近い。 何処までも人間そのものだ」
「「アレがですか?」」
2人は口を揃えて言った。 魔法機関の長だけあって勉強嫌いのジュリアンと比較すれば、その理解度は雲泥の差である。
「あぁ、アレは人間だ。 あのような姿だが人間だ。 あのような姿だからこそ人間であることにこだわる」
「なぜわかる?」
魔導師長が問えば、ヴェルが問い返す。
「なぜ、わからん?」
ヴェルが馬鹿にしたように笑えば、2人はそろって眉間を寄せた。 私にも思いつく事がある。
物が消える。
犯人が捜せない。
そんな事を精霊ギルドの長が言っていた。
盗まれるのは、人らしい、どもまでも人の欲求に沿ったものだった。 ただソレだけの事だが、ソレだけの事だからこそ意味がある。
「アレは何処から来て、何処で生まれた? なぜ、あの器を選んだ? なぜ、主の代わりに入れ替わろうとした?」
問うのはヴェル。 答えるのは魔導師長。
「入れ替わろうとしたのではなく、オルコット公爵が美しい赤子を貰いうけ代わりとしたと」
「なぜ、あのような醜い存在が、美しい赤子を身にまとい、オルコット公爵の目につく場所にいる? 偶然? 必然? それとも、公爵がいるかいないかも分からない存在を探した? いや……迷宮図書館から何らかのヒントを得たのか?」
「偶然なんて、ありえないし、父様は、父様は……」
人を陥れないと言いたかったが、言えなかった……。 ユリア様が、母様が、王位を狙うと脅威とされ国王からその命を狙われていた事。 私が、私である事でユリア様が死んだ……と思っていたが、実際には国王からの執拗な嫌がらせが、ユリア様の神経をすり減らしていた事を、ミカゲ先生から聞いたから。
父様ならやりかねない……。
偶然と言うには、何もかもが出来過ぎている。 全てが出来過ぎていた。 だけれど……父がやった等と思いたくない。
私の8年が、偽りになってしまうから。
精霊と魔人を父様にどうこうする力なんてない!! 私は自分に言い聞かせる。
偶然……いえ、きっとアリアメアが仕組んだに決まっている。 それが私の心を最も穏やかにさせる結論だった。 アリアメアは父様を利用し、王宮に入り込んだけれど、壊れかけた封印から漂うヴェルの気配に、自由に、身勝手に、思い通りに、できなかった。 きっと、それほど強い存在ではなかったのだろう。
だけどロノスは違う。
封印が解けかけたヴェルをもって、アリアメアの威嚇に使い、私の成長を待ち、人の限界を見極める事だってできる。
ヴェルのケガレが限界となり、私が封印に対峙できるようになったころを見計らい、私とアリアメアを入れ替えた。 封じがなされてしまえば、アリアメアを威嚇するものはなくなってしまえば私を聖女としながらも、人の意識に介入するアリアメアがこの国の王妃となった事だろう。
「だけど……」
「どうした?」
「なぜ、アリアメアは……ろ……時空の精霊について行ったの?」
「好みだったんだろう」
ヴェルは、吐き出すようにそう告げた。
私にとっては、私は育ての親ロノスに捨てられたわけではないと言う事は、とても重要な事なのだけど……他の人は当然違う訳で、
「では、今回の黒幕はその魔人だと言う事ですか?!」
「さぁ……どうだろうなぁ……」
「魔人殿!!」
「生憎と、そう、何でも知っている訳ではない。 そもそも、今回の件、動いたのは誰と誰だ? ソレは人か? 精霊か?」
「……人ですな……」
魔導師長が言うが、すぐに神官長が撤回する。
「いえ、精霊もまた動くなと言う意味的には、動いております」
「だが、ソレは人に命じられる事だ。 お前達は、人の範疇でもう一度調べなおすがいい」
そう告げるヴェルには、どこか焦っているように見えたのは、私の気のせいだろうか?
「アレは、なんだね!!」
魔導師長。
「つまらん奴らだ。 真実を知って言うのは誰も彼も同じ事ばかり」
そういうが、2人目? 3人目? 文句を言うほどの数ではないよね? 私は苦笑する。 苦笑する余裕が出来ていた。
「なんだと思うね?」
カラカウように問うのはヴェル。
魔導師長と神官長が顔を見合わせる。 彼等は、先代の予想外の死によって予定外に長となったが、その当時最も力と知識ある者達であった。
「魔人……。 だが、魔人の存在は、100年ほど記録に残って等いません!!」
神官長もまた、怒っていた。
「それはそうだろう。 アレはまだ若い。 若いしその思考は限りなく人間に近い。 何処までも人間そのものだ」
「「アレがですか?」」
2人は口を揃えて言った。 魔法機関の長だけあって勉強嫌いのジュリアンと比較すれば、その理解度は雲泥の差である。
「あぁ、アレは人間だ。 あのような姿だが人間だ。 あのような姿だからこそ人間であることにこだわる」
「なぜわかる?」
魔導師長が問えば、ヴェルが問い返す。
「なぜ、わからん?」
ヴェルが馬鹿にしたように笑えば、2人はそろって眉間を寄せた。 私にも思いつく事がある。
物が消える。
犯人が捜せない。
そんな事を精霊ギルドの長が言っていた。
盗まれるのは、人らしい、どもまでも人の欲求に沿ったものだった。 ただソレだけの事だが、ソレだけの事だからこそ意味がある。
「アレは何処から来て、何処で生まれた? なぜ、あの器を選んだ? なぜ、主の代わりに入れ替わろうとした?」
問うのはヴェル。 答えるのは魔導師長。
「入れ替わろうとしたのではなく、オルコット公爵が美しい赤子を貰いうけ代わりとしたと」
「なぜ、あのような醜い存在が、美しい赤子を身にまとい、オルコット公爵の目につく場所にいる? 偶然? 必然? それとも、公爵がいるかいないかも分からない存在を探した? いや……迷宮図書館から何らかのヒントを得たのか?」
「偶然なんて、ありえないし、父様は、父様は……」
人を陥れないと言いたかったが、言えなかった……。 ユリア様が、母様が、王位を狙うと脅威とされ国王からその命を狙われていた事。 私が、私である事でユリア様が死んだ……と思っていたが、実際には国王からの執拗な嫌がらせが、ユリア様の神経をすり減らしていた事を、ミカゲ先生から聞いたから。
父様ならやりかねない……。
偶然と言うには、何もかもが出来過ぎている。 全てが出来過ぎていた。 だけれど……父がやった等と思いたくない。
私の8年が、偽りになってしまうから。
精霊と魔人を父様にどうこうする力なんてない!! 私は自分に言い聞かせる。
偶然……いえ、きっとアリアメアが仕組んだに決まっている。 それが私の心を最も穏やかにさせる結論だった。 アリアメアは父様を利用し、王宮に入り込んだけれど、壊れかけた封印から漂うヴェルの気配に、自由に、身勝手に、思い通りに、できなかった。 きっと、それほど強い存在ではなかったのだろう。
だけどロノスは違う。
封印が解けかけたヴェルをもって、アリアメアの威嚇に使い、私の成長を待ち、人の限界を見極める事だってできる。
ヴェルのケガレが限界となり、私が封印に対峙できるようになったころを見計らい、私とアリアメアを入れ替えた。 封じがなされてしまえば、アリアメアを威嚇するものはなくなってしまえば私を聖女としながらも、人の意識に介入するアリアメアがこの国の王妃となった事だろう。
「だけど……」
「どうした?」
「なぜ、アリアメアは……ろ……時空の精霊について行ったの?」
「好みだったんだろう」
ヴェルは、吐き出すようにそう告げた。
私にとっては、私は育ての親ロノスに捨てられたわけではないと言う事は、とても重要な事なのだけど……他の人は当然違う訳で、
「では、今回の黒幕はその魔人だと言う事ですか?!」
「さぁ……どうだろうなぁ……」
「魔人殿!!」
「生憎と、そう、何でも知っている訳ではない。 そもそも、今回の件、動いたのは誰と誰だ? ソレは人か? 精霊か?」
「……人ですな……」
魔導師長が言うが、すぐに神官長が撤回する。
「いえ、精霊もまた動くなと言う意味的には、動いております」
「だが、ソレは人に命じられる事だ。 お前達は、人の範疇でもう一度調べなおすがいい」
そう告げるヴェルには、どこか焦っているように見えたのは、私の気のせいだろうか?
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