化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

文字の大きさ
上 下
65 / 82
6章 居場所

65.2人の長が追い詰められた先 04

しおりを挟む
 ヴェルの干渉は、浄化と言っていいものか分からない。 たぶん、ダメだと思うのだけど、まぁ、意味合い的にはそんな感じの処理を終えた長2人は、ジュリアンのように泣き言を訴えるでもなく、疑問と憤りをぶつけてきた。

「アレは、なんだね!!」

 魔導師長。

「つまらん奴らだ。 真実を知って言うのは誰も彼も同じ事ばかり」

 そういうが、2人目? 3人目? 文句を言うほどの数ではないよね? 私は苦笑する。 苦笑する余裕が出来ていた。

「なんだと思うね?」

 カラカウように問うのはヴェル。

 魔導師長と神官長が顔を見合わせる。 彼等は、先代の予想外の死によって予定外に長となったが、その当時最も力と知識ある者達であった。

「魔人……。 だが、魔人の存在は、100年ほど記録に残って等いません!!」

 神官長もまた、怒っていた。

「それはそうだろう。 アレはまだ若い。 若いしその思考は限りなく人間に近い。 何処までも人間そのものだ」

「「アレがですか?」」

 2人は口を揃えて言った。 魔法機関の長だけあって勉強嫌いのジュリアンと比較すれば、その理解度は雲泥の差である。

「あぁ、アレは人間だ。 あのような姿だが人間だ。 あのような姿だからこそ人間であることにこだわる」

「なぜわかる?」

 魔導師長が問えば、ヴェルが問い返す。

「なぜ、わからん?」

 ヴェルが馬鹿にしたように笑えば、2人はそろって眉間を寄せた。 私にも思いつく事がある。

 物が消える。
 犯人が捜せない。

 そんな事を精霊ギルドの長が言っていた。

 盗まれるのは、人らしい、どもまでも人の欲求に沿ったものだった。 ただソレだけの事だが、ソレだけの事だからこそ意味がある。

「アレは何処から来て、何処で生まれた? なぜ、あの器を選んだ? なぜ、主の代わりに入れ替わろうとした?」

 問うのはヴェル。 答えるのは魔導師長。

「入れ替わろうとしたのではなく、オルコット公爵が美しい赤子を貰いうけ代わりとしたと」

「なぜ、あのような醜い存在が、美しい赤子を身にまとい、オルコット公爵の目につく場所にいる? 偶然? 必然? それとも、公爵がいるかいないかも分からない存在を探した? いや……迷宮図書館から何らかのヒントを得たのか?」

「偶然なんて、ありえないし、父様は、父様は……」

 人を陥れないと言いたかったが、言えなかった……。 ユリア様が、母様が、王位を狙うと脅威とされ国王からその命を狙われていた事。 私が、私である事でユリア様が死んだ……と思っていたが、実際には国王からの執拗な嫌がらせが、ユリア様の神経をすり減らしていた事を、ミカゲ先生から聞いたから。

 父様ならやりかねない……。

 偶然と言うには、何もかもが出来過ぎている。 全てが出来過ぎていた。 だけれど……父がやった等と思いたくない。

 私の8年が、偽りになってしまうから。

 精霊と魔人を父様にどうこうする力なんてない!! 私は自分に言い聞かせる。

 偶然……いえ、きっとアリアメアが仕組んだに決まっている。 それが私の心を最も穏やかにさせる結論だった。 アリアメアは父様を利用し、王宮に入り込んだけれど、壊れかけた封印から漂うヴェルの気配に、自由に、身勝手に、思い通りに、できなかった。 きっと、それほど強い存在ではなかったのだろう。

 だけどロノスは違う。

 封印が解けかけたヴェルをもって、アリアメアの威嚇に使い、私の成長を待ち、人の限界を見極める事だってできる。

 ヴェルのケガレが限界となり、私が封印に対峙できるようになったころを見計らい、私とアリアメアを入れ替えた。 封じがなされてしまえば、アリアメアを威嚇するものはなくなってしまえば私を聖女としながらも、人の意識に介入するアリアメアがこの国の王妃となった事だろう。

「だけど……」

「どうした?」

「なぜ、アリアメアは……ろ……時空の精霊について行ったの?」

「好みだったんだろう」

 ヴェルは、吐き出すようにそう告げた。

 私にとっては、私は育ての親ロノスに捨てられたわけではないと言う事は、とても重要な事なのだけど……他の人は当然違う訳で、

「では、今回の黒幕はその魔人だと言う事ですか?!」

「さぁ……どうだろうなぁ……」

「魔人殿!!」

「生憎と、そう、何でも知っている訳ではない。 そもそも、今回の件、動いたのは誰と誰だ? ソレは人か? 精霊か?」

「……人ですな……」

 魔導師長が言うが、すぐに神官長が撤回する。

「いえ、精霊もまた動くなと言う意味的には、動いております」

「だが、ソレは人に命じられる事だ。 お前達は、人の範疇でもう一度調べなおすがいい」

 そう告げるヴェルには、どこか焦っているように見えたのは、私の気のせいだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

処理中です...