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6章 居場所
56.安穏とした空気に流されぬように
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目を覚ますと、離宮で使っていた部屋が再現されていた。 流石に、壁や天井などはこの空間独特のものだけれど、ベッド以外の家具や食器は離宮で私が使っていた物がそのまま置かれている。
「起きたか。 どうせ、誰も入れぬなら貰っておいても問題あるまい」
心地よく甘く響く声に、うとうとと寝ぼけた眼で視線を巡らせ、身体を起こしぼんやりとした様子でベッドの上で座り込む。 私は薄いルデルス国のドレスのような下着を着ていて、全裸で無かったことに何となく安堵した。
そうじゃない……考えないといけない事が色々あったんだ。
「お茶でもどうだ?」
ヴェルは返事を聞かずに、既にお茶を入れていて私に差し出す。 柑橘系の香がする紅茶だった。 よくよく考えれば、彼の入れるお茶を飲むのは初めてで、たかがお茶だが恐る恐る口をつける。
どこか爽やかな味わいのソレは、紅茶と言うには果実水の風味が強かった。
「果実水を混ぜてある?」
「乾燥果実を混ぜて淹れた」
「ふぅ~ん。 美味しいね」
「そうか」
嬉しそうに目元と口元を優しく緩め、返される声は素っ気ないがどこか甘い。 そして、一緒にバターとジャムを添えたスコーンも出された。 確かに、ギルドでは予定ほどに食べていないが……、私はヴェルを眺める。
「なんだ?」
「ううん」
「安心しろ、ちゃんと許可を得て取ってきた」
王都内では既に商売を始めた店もあるが、贅沢品の販売などは控えている状態だろう。 と、なれば王宮の調理場からかな? と、スコーンを口にした私は疑問を確信へと変えていた。
行儀悪く未だベッドの上で、紅茶とスコーンを味わっていた私だが、食べている状態のまま抱き上げられソファへと運び移される。
行儀悪いもんね。 なんて、思いつつ。 なら、最初からこっちに来いって言えばいいじゃないかなんて思う訳だ。
そしてソファにヴェルが座り、膝の上に乗せられた。
「……お茶のお替り」
どうするのだろうかと言ってみたのだけど、触手がお茶を入れだした。 器用だなぁ……私は遠い目をしながら本来の目的を果たすために、思考へと潜る。
今の状態への道が、いつ作られたのか?
何処まで遡って考える必要があるのか?
貴族達は、先々代の国王から既に不満と疑念を持っており、何よりも他国の王が権利や職務とするところを、政務をこなす貴族や官僚によって分配されている状況。 今更何かを行動するとは……いえ、今回に限っては、国王が退位を申し出て、王子、王女達は侵略行為を手出すけした事で完全に、次期王の座はフリーであり、次期王となるものの思想によっては、とんでもない国になりかねない。
この時点で、私は宰相の顔を想像していた。
とは言っても……、
決めつけは良くない。
証拠もない。
なにより、適任が居なければ仕方がない。
なんて考えている間も、椅子……改めヴェルはと言えば、私の身体に触れ、肩口に顔を埋めていて、これはアレよ……大型犬だと思えば……ぁ……。
「ヴェル」
「なんだ主よ」
「どうせ、くっついているなら、何処か庭のような場所で犬の姿がいい。 私だけが触られるのはどうにも納得いかないわ」
手をワキワキしながら、もふもふを表現してみた。
「主も好きに触ればよかろう?」
と、言う言葉と共に上半身は裸となり、私はえ~~~って顔になる。 ではない!! 安穏とした空気に忘れるところだった……大切な事を、
「父様は!?」
「……オルコット領の森の奥にある古城だ。 消耗は激しく怪我人もいるが、命にかかわるほどのものはいない」
「そうか……良かった。 うん……少なくとも今の状況では死ぬなんて事はないと思っていたんだ。 ロノスが、父様をあえて貶めようとしない限りは……」
「精霊は基本的には人間社会とは不干渉が鉄則だ。 でなくば、すぐに魔に堕ちる。 それが嫌なら契約を交わすしかない。 奴は……」
いったん、ヴェルは黙りこみそして口を開く。
「様々な国の者に、一定の空間を提供することで、書物を得ると言う契約を交わしている。 干渉範囲は大きいが、出来る事は人が作る書物を集める事に定められている。 ツマラナイ奴だ。 そのツマラナイ奴が何故、主に干渉した? 解せぬ」
「人と精霊の世を救うためとか言っていたけど?」
長く黙りこむヴェルの姿があった。
あの頃、ケガレに暴走していたヴェルをそのままにしておけば、精霊も人のここには住めない不毛な大地になっただろう。 そして、力とケガレに肥え太ったヴェルは世界への脅威となる。 だけれど、純粋な精霊であるほどケガレに弱く、例え浄化の力を持つルデルス国の国家精霊でも対応できたかと言えば謎だろう。
そう考えれば、全てロノスの手のひらの上で、ヴェルにしてみれば面白くないだろうなと、私はチラリと彼の顔を覗き見た。
「そうか……なるほど……」
静かにどこか納得したかのように口元を笑みの形にニヤリと笑う。
「してやられたと言う事か……。 気に入らないが、あぁ、気に入らないが……主と出会わせてくれた事を感謝しておこう」
「何ソレ?」
聞けば、口づけで誤魔化された。
「主に私が見た最も美しい景色を見せよう」
「そういうのは、余裕のある時にして……、今はモフモフするだけでいいから。 ほら」
変化しろと催促すれば、
「やれやれ、色気のない」
そう嘆かれた。 が、知らない!!
なんて会話をしていたけれど結局ヴェルは、彼の空間を白い花が咲き誇る夜へと変え、私は大きすぎる狼へと変化した彼に身体を預け、美しく彩られた空を眺めて考えに耽るのだった。
「起きたか。 どうせ、誰も入れぬなら貰っておいても問題あるまい」
心地よく甘く響く声に、うとうとと寝ぼけた眼で視線を巡らせ、身体を起こしぼんやりとした様子でベッドの上で座り込む。 私は薄いルデルス国のドレスのような下着を着ていて、全裸で無かったことに何となく安堵した。
そうじゃない……考えないといけない事が色々あったんだ。
「お茶でもどうだ?」
ヴェルは返事を聞かずに、既にお茶を入れていて私に差し出す。 柑橘系の香がする紅茶だった。 よくよく考えれば、彼の入れるお茶を飲むのは初めてで、たかがお茶だが恐る恐る口をつける。
どこか爽やかな味わいのソレは、紅茶と言うには果実水の風味が強かった。
「果実水を混ぜてある?」
「乾燥果実を混ぜて淹れた」
「ふぅ~ん。 美味しいね」
「そうか」
嬉しそうに目元と口元を優しく緩め、返される声は素っ気ないがどこか甘い。 そして、一緒にバターとジャムを添えたスコーンも出された。 確かに、ギルドでは予定ほどに食べていないが……、私はヴェルを眺める。
「なんだ?」
「ううん」
「安心しろ、ちゃんと許可を得て取ってきた」
王都内では既に商売を始めた店もあるが、贅沢品の販売などは控えている状態だろう。 と、なれば王宮の調理場からかな? と、スコーンを口にした私は疑問を確信へと変えていた。
行儀悪く未だベッドの上で、紅茶とスコーンを味わっていた私だが、食べている状態のまま抱き上げられソファへと運び移される。
行儀悪いもんね。 なんて、思いつつ。 なら、最初からこっちに来いって言えばいいじゃないかなんて思う訳だ。
そしてソファにヴェルが座り、膝の上に乗せられた。
「……お茶のお替り」
どうするのだろうかと言ってみたのだけど、触手がお茶を入れだした。 器用だなぁ……私は遠い目をしながら本来の目的を果たすために、思考へと潜る。
今の状態への道が、いつ作られたのか?
何処まで遡って考える必要があるのか?
貴族達は、先々代の国王から既に不満と疑念を持っており、何よりも他国の王が権利や職務とするところを、政務をこなす貴族や官僚によって分配されている状況。 今更何かを行動するとは……いえ、今回に限っては、国王が退位を申し出て、王子、王女達は侵略行為を手出すけした事で完全に、次期王の座はフリーであり、次期王となるものの思想によっては、とんでもない国になりかねない。
この時点で、私は宰相の顔を想像していた。
とは言っても……、
決めつけは良くない。
証拠もない。
なにより、適任が居なければ仕方がない。
なんて考えている間も、椅子……改めヴェルはと言えば、私の身体に触れ、肩口に顔を埋めていて、これはアレよ……大型犬だと思えば……ぁ……。
「ヴェル」
「なんだ主よ」
「どうせ、くっついているなら、何処か庭のような場所で犬の姿がいい。 私だけが触られるのはどうにも納得いかないわ」
手をワキワキしながら、もふもふを表現してみた。
「主も好きに触ればよかろう?」
と、言う言葉と共に上半身は裸となり、私はえ~~~って顔になる。 ではない!! 安穏とした空気に忘れるところだった……大切な事を、
「父様は!?」
「……オルコット領の森の奥にある古城だ。 消耗は激しく怪我人もいるが、命にかかわるほどのものはいない」
「そうか……良かった。 うん……少なくとも今の状況では死ぬなんて事はないと思っていたんだ。 ロノスが、父様をあえて貶めようとしない限りは……」
「精霊は基本的には人間社会とは不干渉が鉄則だ。 でなくば、すぐに魔に堕ちる。 それが嫌なら契約を交わすしかない。 奴は……」
いったん、ヴェルは黙りこみそして口を開く。
「様々な国の者に、一定の空間を提供することで、書物を得ると言う契約を交わしている。 干渉範囲は大きいが、出来る事は人が作る書物を集める事に定められている。 ツマラナイ奴だ。 そのツマラナイ奴が何故、主に干渉した? 解せぬ」
「人と精霊の世を救うためとか言っていたけど?」
長く黙りこむヴェルの姿があった。
あの頃、ケガレに暴走していたヴェルをそのままにしておけば、精霊も人のここには住めない不毛な大地になっただろう。 そして、力とケガレに肥え太ったヴェルは世界への脅威となる。 だけれど、純粋な精霊であるほどケガレに弱く、例え浄化の力を持つルデルス国の国家精霊でも対応できたかと言えば謎だろう。
そう考えれば、全てロノスの手のひらの上で、ヴェルにしてみれば面白くないだろうなと、私はチラリと彼の顔を覗き見た。
「そうか……なるほど……」
静かにどこか納得したかのように口元を笑みの形にニヤリと笑う。
「してやられたと言う事か……。 気に入らないが、あぁ、気に入らないが……主と出会わせてくれた事を感謝しておこう」
「何ソレ?」
聞けば、口づけで誤魔化された。
「主に私が見た最も美しい景色を見せよう」
「そういうのは、余裕のある時にして……、今はモフモフするだけでいいから。 ほら」
変化しろと催促すれば、
「やれやれ、色気のない」
そう嘆かれた。 が、知らない!!
なんて会話をしていたけれど結局ヴェルは、彼の空間を白い花が咲き誇る夜へと変え、私は大きすぎる狼へと変化した彼に身体を預け、美しく彩られた空を眺めて考えに耽るのだった。
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