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6章 居場所
47.感情を優先するなかれ 05
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ジュリアン王子のいる牢は、貧相で不潔で、不便だった。 挙句に手足の腱を切られ、みじめな状態で横になっていた。
「た、助けてくれ。 手足を治してくれ」
「ジュリアン王子、貴方はこの国を貧しい国だと言いました。 富を抑制しているとおっしゃっておりましたが、そんな事はありません」
家庭教師が着用するシンプルなブラウスとスカートに身を包み、歌うように私は解説をする。
「私は、専門家たちから説明を受けるようにと言いましたが、今回のような馬鹿げた事を行った事を考えれば、聞いていらっしゃらなかったのですね。 とても残念です」
言葉を止めれば、さえずるような声がした。
「頼む、治してくれ……」
「この国の事を語りましょう。 この国の王都はかつて魔力欠乏症で多くの民をなくしました。 覚えていらっしゃいますよね?」
「手足が、動かないんだ。 これではあまりにも惨めだ」
すんすんと泣きながら王子は言うが私は無視する。
「うん、うん、ですけど~、実は違うんです。 本当はと~っても魔力の多い国なのです。 魔力が多い。 それはとても幸運な事なのです。 ご存じですか?」
「化け物のお前ですら、自由を謳歌していたと言うのに」
「うふふ、ですが、そんな恵まれたこの国にも欠点があります。 それは世界を巡るケガレが山脈に妨げられ、渦を巻きこの国に停滞することです。 な~の~で~、魔物は簡単に現れます。 現れすぎるのです。 多くの小精霊がケガレに落ち、器を見つける事無く魔に堕ちるため、発生する魔物はゴーストだけです。 それが発生すると同時に、魔人は、ゴーストを退治し、その魔力を集め、ケガレを排除し、魔鉱石が出来るよう魔力を誘導していたのです。 被害なく富を得る。 これほどありがたいことはありません」
ぼそぼそとずっと囁くように呟かれる救済を求める言葉。 私はソレを無視して、王国の歴史、そして経済的なものを語った。
ただの八つ当たりである。
やがて王子はヒステリックに叫んだ。
「うるさい、うるさい、うるさい!! 全部、全部、お前のせいだ、お前が悪いんだ。 私は、私はアリアメアと幸せに過ごしていたんだ。 なのに、なのに、お前が邪魔をした」
「ケガレを集める魔人を浄化すると言う事は、純度の高い魔鉱石を作るため、魔物を増やさないためにとても重要な事だったのですよ~。 それが、私の仕事。 とても大切な仕事だったのですよ~」
「お前は、お前は、そうやって、私をいつもいつも馬鹿にする」
ここまであからさまに馬鹿にしたのは、初めての事。 馬鹿にしてきたのは貴方の方でしょう。 私は心の中で返事をした。
全てを私のせいにする。 それも一つのコンプレックスと言えるのかもしれない。 だけど~、私が彼のコンプレックスに配慮して、共に堕ちる必要性など皆無ですよね?
あぁ、なるほど……アリアメアは、彼にとって理想そのものだったと言う訳ですね。
うんうんと一人納得する。
「私は、私は、少しお前を見返したかっただけなんだ。 お前から心からの賛美、称賛、謝罪が欲しかっただけなんだ」
「そんな価値も無いのに?」
私は可愛らしく首を傾げて見せた。
「お前に認めて欲しかったんだ」
「無能のまま?」
「そういう、そういう、ところが!!」
「人を化け物と呼んで、馬鹿にしておいて、自分は、称賛されたいですって? 悪い冗談かな? なぜ、私が、私の方が優秀で、努力家で、働きものなのに? 努力を嫌い、偉そうで、怠け者なあなたを?」
「……私が、私が悪かった……助けてくれ、手足を治してくれ……頼む、これでは、余りにも惨めだ」
「なら、質問に答えてくれたら考えてあげてもいいよ」
「な、なんだ!!」
「魔人の封じは解け、魔人は自由になりました。 彼がケガレを帯び続ければどうなるでしょうか?」
「へっ?」
「ほらほら、精霊と同じですよ~」
「ま、魔物になる?」
「せいか~い」
私は、左手の腱を治した。
「ぁ、」
歓喜の表情を王子は見せる。
「第二問です。 良かったですねぇ~二問も問題があって、正解すればもう1つ傷を治しますよ。 では、魔物化が進むだろう魔人は、どうするでしょう?」
「ぇ?」
「王国に、長く長く捕らわれていた魔人はどうするでしょう」
「……ま、さか……この国に、復讐を?」
考えた事が無かった。
平穏が延々と続くと思っていた。
王子はそんな風に絶望をあからさまにした。
「答えはこちらに!」
私は、背後に、闇に隠れるように控えていたヴェルを指さした。 闇に蠢く赤い魔力が這い巡る。 蛇のように、ミミズのように。 触れれば魔力が奪われ、正気を乱され、狂わされる。 聖女と呼ばれる私の魔力耐性があるから平気なだけ。
「ぁっぁあああああああああああ!!」
悲鳴がこだました。
「なんだ、主。 我が主よ。 この脆弱で虫けらのような男を、私にどうさせたいと言うのだ?」
呆れたように言われ、私は首を傾げた。
「何も、だって、とてもとてもツマラナイ退屈な男だもの」
私はヴェルに抱き着き、ヴェルを見上げれば奪うように口づけがなされた。 ぐちゅぐちゅと淫靡な音をならし、私は快楽を抑える事無く甘い声を漏らし、そして私は願いを訴えた。
「帰りましょう」
その日、王位に関わる多くの者が恐怖に震えた。
「た、助けてくれ。 手足を治してくれ」
「ジュリアン王子、貴方はこの国を貧しい国だと言いました。 富を抑制しているとおっしゃっておりましたが、そんな事はありません」
家庭教師が着用するシンプルなブラウスとスカートに身を包み、歌うように私は解説をする。
「私は、専門家たちから説明を受けるようにと言いましたが、今回のような馬鹿げた事を行った事を考えれば、聞いていらっしゃらなかったのですね。 とても残念です」
言葉を止めれば、さえずるような声がした。
「頼む、治してくれ……」
「この国の事を語りましょう。 この国の王都はかつて魔力欠乏症で多くの民をなくしました。 覚えていらっしゃいますよね?」
「手足が、動かないんだ。 これではあまりにも惨めだ」
すんすんと泣きながら王子は言うが私は無視する。
「うん、うん、ですけど~、実は違うんです。 本当はと~っても魔力の多い国なのです。 魔力が多い。 それはとても幸運な事なのです。 ご存じですか?」
「化け物のお前ですら、自由を謳歌していたと言うのに」
「うふふ、ですが、そんな恵まれたこの国にも欠点があります。 それは世界を巡るケガレが山脈に妨げられ、渦を巻きこの国に停滞することです。 な~の~で~、魔物は簡単に現れます。 現れすぎるのです。 多くの小精霊がケガレに落ち、器を見つける事無く魔に堕ちるため、発生する魔物はゴーストだけです。 それが発生すると同時に、魔人は、ゴーストを退治し、その魔力を集め、ケガレを排除し、魔鉱石が出来るよう魔力を誘導していたのです。 被害なく富を得る。 これほどありがたいことはありません」
ぼそぼそとずっと囁くように呟かれる救済を求める言葉。 私はソレを無視して、王国の歴史、そして経済的なものを語った。
ただの八つ当たりである。
やがて王子はヒステリックに叫んだ。
「うるさい、うるさい、うるさい!! 全部、全部、お前のせいだ、お前が悪いんだ。 私は、私はアリアメアと幸せに過ごしていたんだ。 なのに、なのに、お前が邪魔をした」
「ケガレを集める魔人を浄化すると言う事は、純度の高い魔鉱石を作るため、魔物を増やさないためにとても重要な事だったのですよ~。 それが、私の仕事。 とても大切な仕事だったのですよ~」
「お前は、お前は、そうやって、私をいつもいつも馬鹿にする」
ここまであからさまに馬鹿にしたのは、初めての事。 馬鹿にしてきたのは貴方の方でしょう。 私は心の中で返事をした。
全てを私のせいにする。 それも一つのコンプレックスと言えるのかもしれない。 だけど~、私が彼のコンプレックスに配慮して、共に堕ちる必要性など皆無ですよね?
あぁ、なるほど……アリアメアは、彼にとって理想そのものだったと言う訳ですね。
うんうんと一人納得する。
「私は、私は、少しお前を見返したかっただけなんだ。 お前から心からの賛美、称賛、謝罪が欲しかっただけなんだ」
「そんな価値も無いのに?」
私は可愛らしく首を傾げて見せた。
「お前に認めて欲しかったんだ」
「無能のまま?」
「そういう、そういう、ところが!!」
「人を化け物と呼んで、馬鹿にしておいて、自分は、称賛されたいですって? 悪い冗談かな? なぜ、私が、私の方が優秀で、努力家で、働きものなのに? 努力を嫌い、偉そうで、怠け者なあなたを?」
「……私が、私が悪かった……助けてくれ、手足を治してくれ……頼む、これでは、余りにも惨めだ」
「なら、質問に答えてくれたら考えてあげてもいいよ」
「な、なんだ!!」
「魔人の封じは解け、魔人は自由になりました。 彼がケガレを帯び続ければどうなるでしょうか?」
「へっ?」
「ほらほら、精霊と同じですよ~」
「ま、魔物になる?」
「せいか~い」
私は、左手の腱を治した。
「ぁ、」
歓喜の表情を王子は見せる。
「第二問です。 良かったですねぇ~二問も問題があって、正解すればもう1つ傷を治しますよ。 では、魔物化が進むだろう魔人は、どうするでしょう?」
「ぇ?」
「王国に、長く長く捕らわれていた魔人はどうするでしょう」
「……ま、さか……この国に、復讐を?」
考えた事が無かった。
平穏が延々と続くと思っていた。
王子はそんな風に絶望をあからさまにした。
「答えはこちらに!」
私は、背後に、闇に隠れるように控えていたヴェルを指さした。 闇に蠢く赤い魔力が這い巡る。 蛇のように、ミミズのように。 触れれば魔力が奪われ、正気を乱され、狂わされる。 聖女と呼ばれる私の魔力耐性があるから平気なだけ。
「ぁっぁあああああああああああ!!」
悲鳴がこだました。
「なんだ、主。 我が主よ。 この脆弱で虫けらのような男を、私にどうさせたいと言うのだ?」
呆れたように言われ、私は首を傾げた。
「何も、だって、とてもとてもツマラナイ退屈な男だもの」
私はヴェルに抱き着き、ヴェルを見上げれば奪うように口づけがなされた。 ぐちゅぐちゅと淫靡な音をならし、私は快楽を抑える事無く甘い声を漏らし、そして私は願いを訴えた。
「帰りましょう」
その日、王位に関わる多くの者が恐怖に震えた。
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