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6章 居場所

44.感情を優先するなかれ 02

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 私を生んだ女性ユリア様が、まだ王宮にいた幼少期から王宮に仕えていたと言う年配の侍女が、声を荒げる宰相に静かに告げる。

「お嬢様ほどの方が、何故国家転覆を狙う必要があるとおっしゃるのですか?」

「聖女殿は、王子を嫌っておいでだった。 だからこそ、注意が必要だと言っているのだ」

 侍女の口元が馬鹿馬鹿しいとばかりに歪んでいる。

 私は、宰相を前にする侍女を守るために戻るでもなく、風呂の縁に腕を乗せ口元を隠しその映像をジッと見続けていた。

「王子が嫌われるような事をしていらしたのでしょう。 お嬢様の愛情を獲得し、その力を発揮していただくのが王子の務めであり唯一与えられた務めすら、喧嘩を売り続ける。 なかなか他の者にできる事ではありませんが、そんなことをすれば嫌われるのも当然と言うものです」

 どこまでも静かに告げるが、そんな事もわからないのかと目が語っていた。 

「そう! それだ!! それがいかんのだ!! 若い王子がどうやって彼女のような醜い化け物のような女を受け入れられる? 傷つけ、傷つけられ、そんな事は容易に想像できたはずだ!! これは国王陛下とオルコット公爵のミスだ」

 侍女は黙り込んでしまった。 いや、宰相が何を言いたいのか伺っていると言うところだろうか? 彼はチラチラと周囲をうかがいながらも言葉を続けた。

「認められようと努力する聖女殿。 見目が化け物めいていても実績は評価され、王子はその見目の麗しさ以外良いところが無いと笑いもの。 これがコンプレックスにならず何になると言うのですか?」

「では、お嬢様に仕事をするな? と」

「そんなことを言う訳などありません。 彼女は必要な人です。 だからこそ、王子のような人は相応しくなかった。 お互い傷つけあうような不幸が2人に罪を犯させた。 王子も悪いが、聖女殿にも問題があった。 無能な王子への配慮が足りなかった。 そして、最後のあれはいけない、良くない。 ルデルス国の戦士に手を出すな? 一体どちらの味方なのかわかったものではありません。 民の心を傷つけてまで彼女は何をしたかった? 王子に心を寄せる者の中には、そういう聖女殿の言動を上げ連ね責めるのです。 私はそれを恐れているのですよ!」

「話を少しずつすり替えて、何をおっしゃいたいのですか?」

「ずいぶんと察しの悪い人ですねぇ……だから、聖女殿が逃げ出すのですよ」

「聖女殿はお散歩に出かけただけです」

「本当に? それは本当の本当ですか? 事実なのですか? 何時間も前にでかけておりながら彼女を見た者はいない。 本当に出かけているのですか?」

「疑うと言うなら屋敷を探せばよろしいでしょう!!」

「そのような無粋な事はしませんよ。 私は聖女殿を信じておりますから。 ですが、貴方がたは信用できないと言っているのです。 容疑者として疑われている彼女を守る事ができるのですか?」

 仄かに漂わせる味方感?

「できます!! お嬢様の実績を知れば、この国の者であれば誰もが感謝をしていて当然なのですから!! なのに、なのに……こんな風に罪を問われるなんて、なんて可哀そうなお嬢様。 いつも、いつだって辛くあたられるばかりで……」

 侍女の一人がそう言いながら、声を詰まらせるから、少しだけ申し訳ない気分になる。 とは言え……宰相の気持ちの悪い口ぶりが妙に気に障った。



「ヴェル、ここから魔導師長に連絡とれる?」

 2人の会話からは、何を言いたいのか全く理解できなかった。

 なんなの? あの会話。

「私が道を繋げよう」

 とは言え、通信魔道具は服のポケットだったはずで……、湯から出ようとすれば、赤いリボンが魔道具を持ってやってきた。

「ありがとう」

 リボンに言うが、

「私には礼が無いのかな? それには意志などないぞ? 私が動かしているだけだ」

 そう言って笑われれば、恥ずかしく顔を背け、誤魔化すように魔導師長に連絡をした。

「どこにいらっしゃるのですか!! こちらからは連絡もつかず大変な事になっておりますよ!!」

「今までだって、外出ぐらいしたことあるでしょう」

 それも割と頻繁に、夜の散歩なんて日常茶飯事だった。 苦々しい声で魔導師長が言う。

「今は、宰相の管理となっております」

「別に管理なんてしていただく必要もないのだけど? 誰がそれを決めたの? 行けと言われたから離宮に行ったけれど、別に野宿でも、神殿宿舎でも、それこそ今なら父様と一緒に騎士団についていっても良かったはずよ。 宰相に管理されるいわれなどありません!!」

「それは、宰相ご本人におっしゃってください」

「分かったわ。 とりあえず、なぜ、ここまで大騒ぎになっているのか、宰相がわけわからない事をいっているのだけど……あの人は何が言いたい訳?」

「はぁ……その……原因と言うのはですね……」

 なんかすっきりしない様子で語りだした。

 ようするに、宰相は王位を狙ったが、政務に関わるものの大半がソレを良しとしなかったのだ。
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