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6章 居場所
43.感情を優先するなかれ 01
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「面白いこと?」
ベッドから降りて、背筋を伸ばせば身体の彼方此方が痛かった。
「主、恥じらいはどうした」
「馬鹿ね、貴族の家に生まれて身体を見られたくらいで恥ずかしがる訳ないでしょう」
最初こそ、身の回りの世話をされるのが嫌だったけれど、何事も慣れと言うものである。 ロノスとの生活の時は、人間らしくと言う割には魔法で済まされていたなぁと思い出していれば、急に抱き上げられた。
「ちょ、な、何? 急に」
「落ちるぞ、暴れるな。 風呂の場所を知らないだろう」
「いや、せめて服を……」
「風呂に入るのにか?」
不思議そうな顔をされた。
肌と肌が触れ合えば、身体の熱が復活しそうで戸惑ってしまう。 そして、想像はしていたけれど、一緒に入るんだ……。 散々恥ずかしい恰好を見られ、それを思い出せばドキドキと鼓動が早くなり余計な事が考えられなくなった。
身体を軽くぬるま湯で洗い流す。
本当は湯に入る必要等ない。 何しろ聖女としての仕事がケガレ払いにあるのだから、修行もかねて常に浄化魔法が発動している状態にしてある。
湯につかろうとすれば、1人で入るには広い大理石の湯舟の中に既にヴェルが入っていた。 魔人の癖に妙に人間臭いなと私は少し笑ってしまった。
「どうした?」
「お風呂に入る必要があるのかなって」
「無いが、こういう人間ごっこも悪くない」
「そう」
なるべく遠い場所を選んで湯に入ったが、赤く物質化した魔力が私を引き寄せられ、湯の中で転びそうになれば、赤い魔力に受け止められ、そのまま運ばれる。 それを見ていたヴェルは顔を背けて笑っていた。
このぉ……。
「来るが良い、主よ」
「何よ」
招き寄せられ、両足の間に座らせられた。 首筋に口づけられ、身体が最後から触れられる。 熱がいっきに戻りそうになってヤバイ。
「やっ、ダメ」
「主と触れあっていると、心が穏やかになる」
静かに、憂いを帯びた声で言われれば私は黙るしかなかった。 彼がこの場所を自らの空間とするなら、彼が魔力脈から解放されている訳ではないのだろう。 無意識の元で魔力脈を通じて魔力とケガレを集め続けているのかもしれない。
なら、国内で起こる魔物の発生は、見せられた景色ほど凄惨なものにならないかもしれないが、それは一時的のもの……。 ヴェルが浄化もせずに魔力をため込み過ぎれば、魔人ではなく魔物となり、その欲望をもって人に害をなすかもしれない。 なら……
私はぴとっとヴェルの身体に身を寄せた。
仕方がない……。
それは、ロノスが良く使っていた妥協や言い訳のための言葉。 私はそれを思い出せば溜息をついた……。 人と精霊を助けるようにと言いながら、私を捨てたあの日以来、私は彼に会っていない。
聞けば、王家の呼びかけにも殆ど応じる事もなく、ただ代々のオルコット公爵家の代替わりにおいてのみ出現するのだと言う。
「私の腕の中にいながら、何を考えている?」
「つまらないこと」
言えば口が塞がれた。 当たり前のように舌が私の口内へと侵入し、舌先が絡められ、口内が撫でられる。 流石に疲れたと言いたいのだけど、膨大な魔力をもって常に自動回復が働いているのだから言い訳にもならない。
「んっ、ぁ、んっふぅ……」
身体が温められているせいか、甘い声がすぐに漏れ出てしまうし、鼓動が早くてうるさい……。 頭が痺れるようになるころ、ようやく唇が離された。 零れる唾液が、なめとられ甘く低い声で囁かれる。
「お仕置きだ」
私の方が主なんですよね?! と、問うには毒気が抜かれきっていて、私はヴェルに身体を預け切っていた。
軽く息をつきようやく余裕が出てきて周囲を見回した。 夜を思わせる黒い大理石の大きな風呂には、赤い花が浮かべられている。 花を手に乗せ水を救う。 濃い淫靡ともいえる香りを放ち花は溶け消えた。 魔力で出来ている花らしい。
大きな窓の外を眺めれば、魔力脈が無数に流れており、そこが彼の封じられていた空間なのだとわかる。
「そういえば、面白いものって?」
「あぁ、そうだったな」
鏡の欠片が幾つも空中にあらわれる。
映し出されたのは、兵士が王宮内を右往左往する様子が映し出された。 その中には魔導師の塔に集まる3人の長もいた。
「何をしているの?」
音は聞こえないようになっているため、私は首を傾げ、私を膝の間に座らせているヴェルを振り返り尋ねた。
「行方不明になった聖女様を探しているそうだ」
「……どうしてそうなる?! 何? 外では何日も経っている訳?」
「いや」
外の景色は夕暮れ時。 昼過ぎに出かけたのだから、ここに来て数時間しか経っていないと言えるだろう。
「あいつらは、主が逃亡したと言って騒いでいる。 逃がしたくないなら檻にでも入れておけば良かろう。 まぁ、余り意味はないだろうが」
ヴェルがいれば余裕で出られるし、いなくても、どうにでもなる。
「逃亡する理由が分からないのだけど?」
正直言えば逃げて自由になりたいのだけど、今となってはロノスの呪いのような、人として人を救えと言う言葉よりも、自分を大切にしてくれた人に危害が加えられない環境を作る必要があるとか考えるようになっていた。
新しい鏡が映し出され、そこには離宮の侍女達が宰相から叱責を受ける様子が映し出されていた。 そして、その音が私の耳に届けられる。
「お前達はなんのためにここにいるんだ!! 聖女は、王子を罪へと誘導した国家転覆を狙った容疑者だぞ!!」
と……。
ベッドから降りて、背筋を伸ばせば身体の彼方此方が痛かった。
「主、恥じらいはどうした」
「馬鹿ね、貴族の家に生まれて身体を見られたくらいで恥ずかしがる訳ないでしょう」
最初こそ、身の回りの世話をされるのが嫌だったけれど、何事も慣れと言うものである。 ロノスとの生活の時は、人間らしくと言う割には魔法で済まされていたなぁと思い出していれば、急に抱き上げられた。
「ちょ、な、何? 急に」
「落ちるぞ、暴れるな。 風呂の場所を知らないだろう」
「いや、せめて服を……」
「風呂に入るのにか?」
不思議そうな顔をされた。
肌と肌が触れ合えば、身体の熱が復活しそうで戸惑ってしまう。 そして、想像はしていたけれど、一緒に入るんだ……。 散々恥ずかしい恰好を見られ、それを思い出せばドキドキと鼓動が早くなり余計な事が考えられなくなった。
身体を軽くぬるま湯で洗い流す。
本当は湯に入る必要等ない。 何しろ聖女としての仕事がケガレ払いにあるのだから、修行もかねて常に浄化魔法が発動している状態にしてある。
湯につかろうとすれば、1人で入るには広い大理石の湯舟の中に既にヴェルが入っていた。 魔人の癖に妙に人間臭いなと私は少し笑ってしまった。
「どうした?」
「お風呂に入る必要があるのかなって」
「無いが、こういう人間ごっこも悪くない」
「そう」
なるべく遠い場所を選んで湯に入ったが、赤く物質化した魔力が私を引き寄せられ、湯の中で転びそうになれば、赤い魔力に受け止められ、そのまま運ばれる。 それを見ていたヴェルは顔を背けて笑っていた。
このぉ……。
「来るが良い、主よ」
「何よ」
招き寄せられ、両足の間に座らせられた。 首筋に口づけられ、身体が最後から触れられる。 熱がいっきに戻りそうになってヤバイ。
「やっ、ダメ」
「主と触れあっていると、心が穏やかになる」
静かに、憂いを帯びた声で言われれば私は黙るしかなかった。 彼がこの場所を自らの空間とするなら、彼が魔力脈から解放されている訳ではないのだろう。 無意識の元で魔力脈を通じて魔力とケガレを集め続けているのかもしれない。
なら、国内で起こる魔物の発生は、見せられた景色ほど凄惨なものにならないかもしれないが、それは一時的のもの……。 ヴェルが浄化もせずに魔力をため込み過ぎれば、魔人ではなく魔物となり、その欲望をもって人に害をなすかもしれない。 なら……
私はぴとっとヴェルの身体に身を寄せた。
仕方がない……。
それは、ロノスが良く使っていた妥協や言い訳のための言葉。 私はそれを思い出せば溜息をついた……。 人と精霊を助けるようにと言いながら、私を捨てたあの日以来、私は彼に会っていない。
聞けば、王家の呼びかけにも殆ど応じる事もなく、ただ代々のオルコット公爵家の代替わりにおいてのみ出現するのだと言う。
「私の腕の中にいながら、何を考えている?」
「つまらないこと」
言えば口が塞がれた。 当たり前のように舌が私の口内へと侵入し、舌先が絡められ、口内が撫でられる。 流石に疲れたと言いたいのだけど、膨大な魔力をもって常に自動回復が働いているのだから言い訳にもならない。
「んっ、ぁ、んっふぅ……」
身体が温められているせいか、甘い声がすぐに漏れ出てしまうし、鼓動が早くてうるさい……。 頭が痺れるようになるころ、ようやく唇が離された。 零れる唾液が、なめとられ甘く低い声で囁かれる。
「お仕置きだ」
私の方が主なんですよね?! と、問うには毒気が抜かれきっていて、私はヴェルに身体を預け切っていた。
軽く息をつきようやく余裕が出てきて周囲を見回した。 夜を思わせる黒い大理石の大きな風呂には、赤い花が浮かべられている。 花を手に乗せ水を救う。 濃い淫靡ともいえる香りを放ち花は溶け消えた。 魔力で出来ている花らしい。
大きな窓の外を眺めれば、魔力脈が無数に流れており、そこが彼の封じられていた空間なのだとわかる。
「そういえば、面白いものって?」
「あぁ、そうだったな」
鏡の欠片が幾つも空中にあらわれる。
映し出されたのは、兵士が王宮内を右往左往する様子が映し出された。 その中には魔導師の塔に集まる3人の長もいた。
「何をしているの?」
音は聞こえないようになっているため、私は首を傾げ、私を膝の間に座らせているヴェルを振り返り尋ねた。
「行方不明になった聖女様を探しているそうだ」
「……どうしてそうなる?! 何? 外では何日も経っている訳?」
「いや」
外の景色は夕暮れ時。 昼過ぎに出かけたのだから、ここに来て数時間しか経っていないと言えるだろう。
「あいつらは、主が逃亡したと言って騒いでいる。 逃がしたくないなら檻にでも入れておけば良かろう。 まぁ、余り意味はないだろうが」
ヴェルがいれば余裕で出られるし、いなくても、どうにでもなる。
「逃亡する理由が分からないのだけど?」
正直言えば逃げて自由になりたいのだけど、今となってはロノスの呪いのような、人として人を救えと言う言葉よりも、自分を大切にしてくれた人に危害が加えられない環境を作る必要があるとか考えるようになっていた。
新しい鏡が映し出され、そこには離宮の侍女達が宰相から叱責を受ける様子が映し出されていた。 そして、その音が私の耳に届けられる。
「お前達はなんのためにここにいるんだ!! 聖女は、王子を罪へと誘導した国家転覆を狙った容疑者だぞ!!」
と……。
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