化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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6章 居場所

42.彼の幸福、私の恐怖 03

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 頭がぼんやりと痺れていた。 四肢はビクビクと震え、思考がぼやけ、身体から溢れ出る魔力は全く制御できず、虫を誘う花のように魔力が甘い香りを帯びている。 甘い甘い、むせるような香り、その香りを生み出しているのが自分だと言うのに、私はその匂いに酔っていた。

「ぁ、ぁ、ぁ……」

 頭がぐらぐらとし、呼吸が乱れる。 自我を放棄してこのまま快楽に身を落としたいと思ってしまう。 男に触れられた事も無かった身体が、雄を求めていた。 むさぼるようにお互い食い合っていた屍憑き達の行為が、羨ましくすら思えてきていた。

 そんな思いに反応するように、ヴェルの赤い赤い血のような魔力が身体を這い巡る。

「もっと、気持ちいいのが欲しい」

 私の願いを叶える気などないのか、触れる口づけは優しく軽い。 それでも、身体中の魔力を食らうために這い巡るヴェルの魔力で出来た赤いリボン状の粘液自体は、激しい欲情を抑えきれないとでもいうように肌に吸い付いてくる。 甘く、強く、時に理性を忘れたように締め付け、締め上げ、その苦痛がより強い快楽へと追いやってくる。

「ぁ、ぁん、んっ」

 瞳は涙ぐみ、口元からはだらしなく唾液が零れる。 それすら勿体ないとヴェルは舐めすくってきた。 唇が触れ合わされば、口を開けと舌先が唇を舐め、歯茎をなぞってくる。 そうしている間も蜜を纏う肉の芽は、そっと優しくいじめられ続けた。

 鼓動が早く激しくなるほどに、赤いリボンはきゅるきゅると身体を這いまわり、胸の周りにまとわりつき、リボンはその形状を変え、小指よりも細い紐状の形態をとり、胸の先端を弄び、舐るようにまとわりつき、吸い付くように締め上げる。

「ひっ、」

「痛いか?」

 私が感じたのは、痛みではなく強烈な快楽で、涙を浮かべながらも違うのだと首を横に振った。 快楽と共に激しい感情が胸を締め付ける。

 聖女故に向けられる気遣いは私を孤独へと追いやってきた。 私は愛情も友情も求めず、どこまでも意固地に周囲への嫌がらせのように身に張り付く固く赤黒い岩のような外皮を増やしていった。 

 そんな女に誰が近づくだろう?
 そんな女を誰が愛するだろうか?
 そんな女を誰が面倒臭がらず相手をするだろうか?

 せいぜい身内ぐらいだ。

 初恋もまだ……だけど、それは私が拒んでいただけ。 拗ねて意固地になって、女である事を拒絶した。 でも……それでも、ヴェルなら……気にすることは無いだろう。 そう思えば、とても、特別な相手に思えてしまう。 大切な人に思えてしまう。

「お願い、もっと、キスをして……」

 訴えれば、優しく唇が触れる。 口内を犯し舐める口づけは、唾液を促し呼吸を乱す。 その息苦しさすら心地よく、そして、溢れる蜜に濡れる秘部へと伸ばされた指先は、意地悪く濡れた入口を撫で、指に蜜を纏わせ、固く興奮状態にある肉芽を優しく弄る。

「ぁ、っんふ、ぁあ、お、おねがい、お腹の、お腹の奥が辛いの」

 わずかに唇が離れた瞬間に訴えれば、胸の先端が絞られるように指先でこすられ、ひぃっと悲鳴を上げた。

「可哀そうにな。 だが、私は誓った。 誓いを立てた」

 そう言って、目元に口づけを落とし、快楽を、幾度となく絶頂を与えた快楽の芽からも指が離された。 お腹の奥が熱く、蠢き、蜜が溢れる……。

「あぁ、なんて可哀そうに」

 そう言いながら笑い、お腹を撫でてきた。 どうして欲しい? とは聞いてくれない。 お腹の中が切ない。 辛い。 優しく撫でられるだけでは足りない。 もっと、もっと、乱暴にしてほしい。 強引に犯して欲しい。 私を欲しいのだと……。

 ぁれ? 彼が欲しいのって……私? それとも……。

 わずかに生まれた疑問。

 意識が正気へと傾いた瞬間、ヴェルが私の太ももを両手でつかみ広げ、掲げるように持ち上げ、両足の間に身体を置く。

 タラリと零れる蜜を、剥き出しの秘部を眺めヴェルはうっとりと囁く。

「あぁ、勿体ない。 至高で至福、最高の魔力に、歓喜と快楽を混ぜ込んだ。 甘い甘い蜜、一滴たりとも無駄にするものか……」

 両足の間に顔を埋め、秘部に舌先が触れた。 荒い呼吸。 熱の無い冷ややかな存在だと思っていれば、私に触れる手も、舌も、呼吸も熱を帯びていた。

 ぴちゃ、ぴちゃと音をたて舐められる。 絡めるように舌先が押し付けられ、肉を分け入るように舌が動くが、熱く蠢く中に入り込むことは無い。

「ぁ、いや、ダメ、 そんなところ……」

「何が、何が駄目だ? 私は約束通り入れていない。 少しばかりもいれていない。 中へ舌を入れ、柔らかく濡れた肉を舐めとり、蜜を促し、すするのを我慢していると言うのに」

 そう言って敏感な肉の芽を指先でこすれば、ビクンッと身体は大きく弓反りに跳ね蜜をあふれさせる。

「気持ちいいか?」

「きもち、いい……もっと、もっと」

「あぁ、分かった。 もっと弄って舐めて、絡めとってやろう。 その欲情が尽きるまでつきあってやろう」

 ぴちゃりぴちゃりと音をたて、それでも、期待する行動にまでは至ってくれない。 

 あぁ、足りない。 もっと、もっと。

 私の欲望は無視され、それでも、赤いヴェルの魔力、ヴェルそのものともいえる力は、身体中を撫で、擦り、締め付け、快楽を与え続け、私は数えきれないほどの絶頂と共に意識を閉ざした。





 何時まで、どれだけの時間、快楽に落ちていたのだろうか? それは決して短い時間ではなかったはずだけれど、私は今も闇の中にいた。 触れるのは、無骨でありながらも白い男の素肌。

「目が覚めたか? 主よ」

 目元に口づけが落とされた。

「なぜ、裸?」

 なぜ、今、裸なのだ?! と言う不満は飲み込んだ。 飲み込める程度に正気だったから。

「身体を締め付けながら寝ては気分が悪い」

「魔人なのに?」

「魔人でもだな」

 なるほどだから全裸で封じられていたのか分かったと言うか、骨でありながらも全裸でなければいけないのか? 色々と疑問があるけれど、まぁ、いいや、今はソレよりも優先すべきことがある。

「風呂に入りたい、戻らせて」

「風呂ならここにもある。 それに、ここなら面白いものが見る事ができるぞ?」

 そう言ってヴェルは薄く笑う。
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