化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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6章 居場所

41.彼の幸福、私の恐怖 02

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 冷たい手が身体を這いまわるたびに服がはだけていく。 ズボンのベルトが外されそうになるのを必死に邪魔をすれば、首筋が舐められ甘く噛まれ、柔らかな舌が肌を這う。

「ぁっ、んっ」

 ビクッと震える身体は、何かを期待している。

 不謹慎だ……。

 そう思うのは、彼の玉座の周りは赤く染まった雪と、ゴーストに取りつかれ食らいあう人と人。 もはや叫びはなく、ただ、それらはどこまでも人を食らい、食らわれていた。 腹が満たされれば、次は人の営みをなぞろうとし、赤い血液を流しながら口づけしあう。

 嫌だ。
 見たくない。

 死した肉からは人の魂は消えていた。 それでも、それは見るに堪えない景色で、私は懇願するようにヴェルに抱き着いた。

「どうした?」

 甘く優しい声だった。 場所と状況が違えば、愛しい赤子をあやす父を連想したかもしれない。 だから、つい甘えてしまった……。

「ここは、もう、やだ」

「嫌か? 嫌なのか? だが……この景色はこの国の本来のあり様だ」

 嫌だ嫌だと抱き着け首を振れば、ふっと優しく笑う。

「仕方のない主だ」

 景色が消えた。
 消えて変わった。

 変わって出てきたのは広く豪華なベッド。 抱き上げられた私はベッドの上に下ろされる。

「ぇ?」

 それは、柔らかな布団の感触。 身に覚えのない景色。 それでも、ここが現実の空間なら逃げる事ができるかもと考えてしまった。 はだけた上着は胸を剥き出しにしているにもかかわらず、私は逃げようとした。

 だが、すぐに身体に腕が回される。

「我儘な主だ。 嫌だと言うから場所を変えれば、なんて我儘なんだ。 いけない子だ。 魔力を貰う礼に良くしてやろうと言っているのに」

「そういう気遣いは結構です!!」

 左手で身体を支え抱きしめたまま、右手一つで私の両手を器用に拘束する。

 ぇ? 掴まれただけだと思っていたのに……。

 私の両手は血のように赤いぬるりとした感触のリボンのようなもので、後ろ手に拘束されていた。 足は両足を乗せられ押さえつけられていた。

「な、なによっ! コレ!!」

 混乱した様子を見せれば、騒ぎ立てた口に左手の指が入れられ塞がれる。 噛みつけないのは人を傷つける事が嫌だから。

 右手は胸元を撫で先端が舌先で舐められる。 ちろちろと爬虫類のように、味を確かめるように。

「あぁ、甘い……濃厚でしつこくなく、よく私の身体に馴染む」

 チュッと胸が吸われ、舌先で舐られる。

「ぁっぐ……ふっ」

 体をまさぐるように、冷えた水がゼリーのように硬化し、身体を撫でていくような感触があった。 ずるずると身体をなで動く感触は怖かった。

「ぅっ、くっ」

 弱弱しい声が、塞がれた口元から漏れ出てしまう。

 弱気なところなど見せたくないのに……。

「恐れる事はない。 それはただの魔力だ。 濃く研ぎ澄まされた魔力に過ぎない。 ただ、私の意志を良く察してくれると言う面では、主の硬化した魔力とは大きく違うが」

 そう言いながらヴェルは笑う。

 ぬるりとしたソレは、今度こそと言うようにズボンを支えるベルトを外し、足元にまとわりついた赤いリボンがズボンを脱がしていった。

「主の白い肌には赤色が……血の色が良く似合う」

 肩口が強く噛まれた。 プチッと皮膚を破る音がするが、痛みはなく少し痒いだけ。 腕が拘束されているため、シャツが脱ぎきれずにいるが、ほぼ裸と言ってもおかしくはない恰好。

「男の恰好の割に、ずいぶんと可愛らしい下着だ。 誰を意識して、誰のために、こんな可愛らしい下着をつけている?」

 薄く透けるほどの細い糸を折り合わせた布地にレースをふんだんにつかった下着。 脱がせられ律儀なリボンが、それをヴェルの方に差し出すようにすれば、塞ぎ口内を弄っていた左手が口から離れて下着を摘まみ、鼻で笑われた。

「わ、私が選んだんじゃない!!」

 なぜ、こんな恥ずかしい思いをしなければと思えば、悲しいのに……身体ばかりが熱をもって反応していた。

「安心するがいい。 魔力を貰うだけだ。 痛い思いをさせない。 主で欲求を満たすようなことはしない」

 そう言いながら抱きしめる腕は優しく思えた。

 だけど、ズボンの下に隠されているが、初日に出会った時の全裸を思い出せば、股間にあるものが性的興奮を覚えているのは分かる訳で……。 おろおろとしてしまっていたと思う。 楽し気に笑われ口づけられる。

 文句を言おうと開かれた唇は、塞がれ、舌が入れられていた。 胸が触れられ、先端が指先でこすられる。 舌が舐められ吸われ、口内を刺激するように舐められる。 強く甘く、口内が擦られれば、唾液が溢れてきた。 唾液を絡めとるようにヴェルの舌が動き、唾液がなめとられ吸われる。

 水音がくちゅくちゅ響き、唾液を奪う音がそういう生き物であるかのようにぬるりと動きじゅるりと奪う。

「んっ、ふぅ、んんーーーぁっん」

 甘い声が響き、口づけの合間に荒く熱く漏れる呼吸。

 大きな手のひらの中で、白い乳房が柔らかく形を変え、先端が固くなっていく。 それを楽しむように、指先で摘まみこする。

「ぁ、っ、ふくっ」

 するりと赤いリボンが身体を撫でまわり、太ももにまとわりつき、ヴェルの太ももの上に両足を広げ座らせ、濡れた秘部を撫で擦りだす。

「ぁ、やっ!! そういうのはやっ」

 必死に口づけから逃げ叫んだ。

「こんなに濡れているのにか?」

 熱く濡れた秘部に触れる指先。 熱が粘液がその指に絡みつくのが分かった。

「ぇ、あ……やめて……」

「このまま放置するのもつらいだろう?」

 太い指が粘液を絡めるように表面を撫で動かせば、ぬちゃぬちゃと言う音が響く。

「安心しろ、中には入れない。 今日は入れない。 懇願されようと入れたりしない。 あぁ入れないとも。 だから安心するがいい」

 意地悪い口調で笑い囁けば、私は……絶望を感じていた。 その事実に気づきもせずに、私はヴェルの指の刺激からも逃げようと腰を振っていて、薄くヴェルは笑い私を見下ろす。

「なら、こういうのも、やめっ、ぁああっ」

 指が秘部の上側にある固い肉芽を撫で刺激を与えてくれば、お腹の中がビクッと震えて熱い塊が弾けてあふれ出す。

 身体が痺れ弾けるような刺激に、目の前が真っ白になった。 お腹の中がひくひくしていて、ぬるりとしたものが溢れて太ももまで濡らしてしまう。 表面を撫でながら溢れる蜜を指に絡めとったヴェルは、濡れた指を赤い舌先で淫靡に舐めた。

「あぁ、いい。 濃い魔力の味だ」

 恍惚とした顔に、ドキッとした。
 胸が早鐘のようになり痛かった。

「ダメッ」

「なぜかな? 私達はこういう生き物だ。 そういうものだ。 あぁ、本当にあいつは気に入らない、気に入らないが、雑魚が余計な事を教えぬように、主に近寄らないように命じていたのは幸いだった。 それだけは、感謝しなければならないな」

 濡れた指先を舐めながら、うっとりとしながら告げる言葉には、棘のような狂気が混ざりこんでいたことに、私は気づく事はできなかった。
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