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5章 運命
35.意味の無い報告
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王子が連れていかれるのを確認した私は、自分の置かれた立場を混乱のうちにどう優位に収めるかと考える。
国王が国王の立場にいるのは、王子が王子の立場にいるのは、王家の一族が王族として存在していられるのは、魔人の封印があってこそ。 役立たずの王族は、この機会に解体されるだろう。
それは、私も同じ、何しろ王の代理だったのだから。
ここが、逃げ時と言うやつ。
でも、まずは着替えたいし、風呂にも入りたい。
とは言え、流石に魔人を馬車代わりに使うのは抵抗があったし、こんな目立つものを連れて歩ける訳もない。
「ぁ、人前に出る時は服を着なさい」
「気になるのか?」
「うるさい!!」
「仕方がない、配慮をしよう」
「「……」」
「その人には、私も含む」
やれやれとでもいうかのように肩を竦められれば、まるで私が間違っているようじゃないか!! 文句を言おうとすれば、筋肉質に見える身体に、闇を纏い服代わりにしていた。 袖なしハイネックと、パンツ姿。 シンプルだがシンプルだからこそ、そのスタイルが目立つ訳で……。
なんかエロい。
「着る者は後日何とかしましょう。 とりあえず、私を外に送って、呼ぶまでここで待機」
「ならば、服を着る必要等あったのか?」
「私が欲情するからやめろ!!」
襲われる? 見た目が悪い? 変質者だと思われる? 何を言っても気にしなさそうだったから、私を理由にする方が手っ取り早いと思って言ったのだが、想像以上に笑われた。
はいはい、笑ってくれてありがとうございます。
「笑い終わったら、外に送りなさい。 私は仕事。 貴方は待機。 OK?」
「了解した」
外に出れば、王宮魔導師長、宰相、侍従長。 そして、精霊ギルドの長が待っていた。
「おかえりなさいませ」
王宮魔導師長、宰相、侍従長が、いつになく恭しく出迎える。 精霊ギルドの長が絶望を顔に張り付けて割れた水晶を手にし、青白い死人のような顔で途方に暮れていた。
「状況は?」
「それは、もう聖女様がご存じなのではありませんか?」
魔導師長が言うから、私は肩を竦めながら説明をする。
「ルデルス国の戦士は意識不明。 炎の精霊に煽られ、破壊衝動に身を任せてくれたおかげで、人も物も運ばれる前に対処できたわ。 火災はルデルス国の炎の小精霊がお願いを聞いてくれたから最小限で済んでいるでしょう」
「はい、その通りでございます」
応じるのは宰相。
「仕返しはやめるようにと言った時、散々言ってくれたけれど。 庶民は精霊に見張られていると思っているから、どさくさにまぎれた犯罪、復讐は控えるはず。 町の力自慢、警備兵、騎士団に怪我人が出て、神官長までもが治療に出向いている。 と、言う所かしら?」
「全てが、聖女様のおっしゃる通りでございます。 私共が聖女様にお伝えするような新しい情報は、まだ、ございません」
「まだ?」
私が言えば、宰相が続けて答える。
「現在、ジュリアン・ガーランドを筆頭に、ルデルス国へと出向いたものの取り調べを行っております」
「他の王子や王女達も?」
ジュリアンには、2人の弟と、2人の妹がいる。 いずれの王子、王女も魔力はないが、見た目は良い。 貴族としての最低限の礼儀は身に付けてはいても勉強熱心ではない。 だが、自分の立場をわきまえ控えめに日々を送っていたはずだ。 そう思っていたのだ。
「はい、今回の件、流石にジュリアン王子1人が暴走して成り立つ規模ではございませんので、徹底的に調査をと伝えてあります」
「ふぅん、で、そこの死体のような顔の人は、私に言うことは?」
「ま、ままっままま、魔人の封印が」
バラバラになった私の血がついた水晶を集め、籠に入れられていた。
「もともと限界が来ていたんだから、最後に役立ってくれて良かったと割り切りなさいな。 それよりも、今後魔人の管理がなくなり、人前に現れる魔物が増えるだろうから、それをどうするかを考えなさい。 そういえば、うちの精霊達は、まだ反抗期中なの?」
「いえ……水晶が壊れると同時に、契約した精霊達が戻ってきました」
少しだけ死体が生き返った……そんな感じ?
「うん、なら良い事もあったじゃない。 前向きに考えて行こう!! おぅ!!」
テンション低く、私は気合を入れる。
「そういうわけには行かん……。 魔人が解放されたんだからなぁ……」
あぁああああと、ギルド長は薄い頭をかきむしりだそうとしとどまっていた。
「別に、何処の国でも契約精霊はいるし、その国家精霊だって永遠の契約ではないんだから何か使える前例があるはずでしょう?」
「えぇ、国家契約の精霊なら問題はない。 問題なのは、我が国が利用していたのは封印されていた魔人だったからだ!!」
「うん? それが? とりあえず風呂に入りたい。 気持ち悪い」
「真剣に話を!!」
顔色悪いまま憤るギルド長。 それを制する侍従長。
「すぐに変わりの部屋を準備し、風呂と着替えの準備をさせましょう」
「いいわよ。 父様を拾って屋敷に帰るから」
「オルコット公爵家は、真っ先に狙われ生活できない状態となっております」
魔人の力で無事は確認していたけれど、その事実を人から聞かされれば鼓動が激しく跳ねた。
「そう……。 屋敷の者が無事なら問題ないわ。 王子が私……オルコット公爵家を狙ったなら領地の方の屋敷もダメねきっと」
「当主と聖女様は王宮でお部屋を準備いたします。 他の者達も、余裕のある貴族達がシバラクの間面倒を見てくれるでしょう」
等と言っている間に、侍女頭が顔を出した。
「聖女様、お風呂の支度ができております」
どうやら、この厄介な運命はまだ続くらしい。
国王が国王の立場にいるのは、王子が王子の立場にいるのは、王家の一族が王族として存在していられるのは、魔人の封印があってこそ。 役立たずの王族は、この機会に解体されるだろう。
それは、私も同じ、何しろ王の代理だったのだから。
ここが、逃げ時と言うやつ。
でも、まずは着替えたいし、風呂にも入りたい。
とは言え、流石に魔人を馬車代わりに使うのは抵抗があったし、こんな目立つものを連れて歩ける訳もない。
「ぁ、人前に出る時は服を着なさい」
「気になるのか?」
「うるさい!!」
「仕方がない、配慮をしよう」
「「……」」
「その人には、私も含む」
やれやれとでもいうかのように肩を竦められれば、まるで私が間違っているようじゃないか!! 文句を言おうとすれば、筋肉質に見える身体に、闇を纏い服代わりにしていた。 袖なしハイネックと、パンツ姿。 シンプルだがシンプルだからこそ、そのスタイルが目立つ訳で……。
なんかエロい。
「着る者は後日何とかしましょう。 とりあえず、私を外に送って、呼ぶまでここで待機」
「ならば、服を着る必要等あったのか?」
「私が欲情するからやめろ!!」
襲われる? 見た目が悪い? 変質者だと思われる? 何を言っても気にしなさそうだったから、私を理由にする方が手っ取り早いと思って言ったのだが、想像以上に笑われた。
はいはい、笑ってくれてありがとうございます。
「笑い終わったら、外に送りなさい。 私は仕事。 貴方は待機。 OK?」
「了解した」
外に出れば、王宮魔導師長、宰相、侍従長。 そして、精霊ギルドの長が待っていた。
「おかえりなさいませ」
王宮魔導師長、宰相、侍従長が、いつになく恭しく出迎える。 精霊ギルドの長が絶望を顔に張り付けて割れた水晶を手にし、青白い死人のような顔で途方に暮れていた。
「状況は?」
「それは、もう聖女様がご存じなのではありませんか?」
魔導師長が言うから、私は肩を竦めながら説明をする。
「ルデルス国の戦士は意識不明。 炎の精霊に煽られ、破壊衝動に身を任せてくれたおかげで、人も物も運ばれる前に対処できたわ。 火災はルデルス国の炎の小精霊がお願いを聞いてくれたから最小限で済んでいるでしょう」
「はい、その通りでございます」
応じるのは宰相。
「仕返しはやめるようにと言った時、散々言ってくれたけれど。 庶民は精霊に見張られていると思っているから、どさくさにまぎれた犯罪、復讐は控えるはず。 町の力自慢、警備兵、騎士団に怪我人が出て、神官長までもが治療に出向いている。 と、言う所かしら?」
「全てが、聖女様のおっしゃる通りでございます。 私共が聖女様にお伝えするような新しい情報は、まだ、ございません」
「まだ?」
私が言えば、宰相が続けて答える。
「現在、ジュリアン・ガーランドを筆頭に、ルデルス国へと出向いたものの取り調べを行っております」
「他の王子や王女達も?」
ジュリアンには、2人の弟と、2人の妹がいる。 いずれの王子、王女も魔力はないが、見た目は良い。 貴族としての最低限の礼儀は身に付けてはいても勉強熱心ではない。 だが、自分の立場をわきまえ控えめに日々を送っていたはずだ。 そう思っていたのだ。
「はい、今回の件、流石にジュリアン王子1人が暴走して成り立つ規模ではございませんので、徹底的に調査をと伝えてあります」
「ふぅん、で、そこの死体のような顔の人は、私に言うことは?」
「ま、ままっままま、魔人の封印が」
バラバラになった私の血がついた水晶を集め、籠に入れられていた。
「もともと限界が来ていたんだから、最後に役立ってくれて良かったと割り切りなさいな。 それよりも、今後魔人の管理がなくなり、人前に現れる魔物が増えるだろうから、それをどうするかを考えなさい。 そういえば、うちの精霊達は、まだ反抗期中なの?」
「いえ……水晶が壊れると同時に、契約した精霊達が戻ってきました」
少しだけ死体が生き返った……そんな感じ?
「うん、なら良い事もあったじゃない。 前向きに考えて行こう!! おぅ!!」
テンション低く、私は気合を入れる。
「そういうわけには行かん……。 魔人が解放されたんだからなぁ……」
あぁああああと、ギルド長は薄い頭をかきむしりだそうとしとどまっていた。
「別に、何処の国でも契約精霊はいるし、その国家精霊だって永遠の契約ではないんだから何か使える前例があるはずでしょう?」
「えぇ、国家契約の精霊なら問題はない。 問題なのは、我が国が利用していたのは封印されていた魔人だったからだ!!」
「うん? それが? とりあえず風呂に入りたい。 気持ち悪い」
「真剣に話を!!」
顔色悪いまま憤るギルド長。 それを制する侍従長。
「すぐに変わりの部屋を準備し、風呂と着替えの準備をさせましょう」
「いいわよ。 父様を拾って屋敷に帰るから」
「オルコット公爵家は、真っ先に狙われ生活できない状態となっております」
魔人の力で無事は確認していたけれど、その事実を人から聞かされれば鼓動が激しく跳ねた。
「そう……。 屋敷の者が無事なら問題ないわ。 王子が私……オルコット公爵家を狙ったなら領地の方の屋敷もダメねきっと」
「当主と聖女様は王宮でお部屋を準備いたします。 他の者達も、余裕のある貴族達がシバラクの間面倒を見てくれるでしょう」
等と言っている間に、侍女頭が顔を出した。
「聖女様、お風呂の支度ができております」
どうやら、この厄介な運命はまだ続くらしい。
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