化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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5章 運命

29.ソレは決して学習意欲ではない

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「お前のような貧乏くさい女が、次期王妃で聖女なせいで、この国が不味しいんだ!!」

 珍しく寄ってきたと思えば第一声がソレだった。

「忙しいので、誰か王子を引き取ってくれませんか?」

 と、周囲を見回してみたものの誰も視線を合わせて等くれないどころか、既に逃亡済だった。 魔力の供給が正常化し、身体的には年相応の成長を遂げた王子であるが、頭の中身は全く成長していないらしい。

 どうせ、私が何を言っても聞く耳を持たないのは分かっているため、予算計上を行う会計官の処に王子を連れて行く。

「王子が我が国の予算に興味を持たれたそうなので、説明をして差し上げて下さい」

 凄く嫌な顔を双方にされたけれど、そう言って私は王子を置き去りに逃げてきた。

「なぜこの国は甘いものが少ないのだ!!」

「気候的に甘味の強い作物は栽培が難しいためですが? と、言うか自国のことぐらい勉強をなされてはどうですか?」

 と言う事で、各領地の税務に関わる最年長の知識豊富な税務官に王子を押し付ける。 やはり凄く嫌な顔をされたが、自国の事を知るのは悪い事ではない。 

 翌日もまた王宮の廊下で声がかけられた。 かなり憔悴しきっていたが、懲りていないらしい。 避難するように使用人達が逃げ出し、隠れだす。 おぃおぃ、ちょっとは私の苦労を何とかしようと言う気はないのかい? 等と思うが……相手は無能でも何もしていなくても王子様。 逆らえば一族路頭に迷いかねないのだから仕方ないかと、私ははいはいと疲れた様子で相手をする。

「なぜ、この国のドレスはダサいのだ」

「流石にソレは……。 デザイナーでも呼び寄せてお伺いになっては……あ~、いえ、そうですねぇ……。 それではデザイナーが気の毒ですね。 全ての原因は、先日外交で王子が出向いていたルデルス国でしょうから。 とりあえず、どこか適当な部屋に入ってお茶でも持ってこらせましょう」

「なんだ、私とお茶をしたいのか?! はん、私はお前を相手にする気などないぞ。 声をかけてやったからと誤解をするなよな」

「……では、ここでご説明します」

「王子である私に対する敬意と……」

 無視をして私は説明を始める。

「ルデルス国は、この国よりかなり温暖な気候です。 なおかつ国を保護する精霊が火の大精霊なため、涼し気なドレスが好まれる傾向にあるのではないでしょうか? 何をもって豪華だと言うかはそれぞれですが、この国でルデルスのドレスを主流にするには、風邪をひいてしまいます。 まぁ、精霊使いに頼み、社交界の時間ぐらいは気温調整をしてもらう事はできますがそこまでするのは如何なものでしょう? と、に、か、く!! ルデルス国のデザインは取り入れる事はできますが、そのままをこの国に持ち込むのは無理です」

 きっぱりと言い切った。

「くぅうううう、私を馬鹿にしているのかぁあああああ!!」

 デザイナーが責められるのは気の毒だと思ったのだけど、この人は私が反論すれば怒り出すのに、なぜ私に問うのだろうか? いえ……他の人間には怒りを抑える事を考えれば……。

「ずいぶんとストレスが溜まっているようですね殿下。 ここは運動をして発散をなさっては如何ですか?」

 そう無意味に爽やかに声をかけてきたのは、騎士団の特訓に最近忙しい父様だった。 本当は、私の護衛をしたいのにと言っているが、私もそろそろ思春期だ。 流石に岩のような外見を維持する以上、恋は諦めてはいるけれど、毎日父親と一緒にいるのは遠慮したいと言うもの。 父様が集まる騎士団の方々に協力を願い、引っ張りだしてもらっている。

 とは言え、何かあると判断すれば、こうやってすぐに駆け付けてくる。

「別にそういうのとは違う!! 私が言ったのは、このようにダサいドレスを令嬢に着させた事で、他国に対して恥ずかしい思いをしたと言っているんだ!!」

「外交に出向くなら、その前にその国の事を調べておくのが当然の事。 気候も調べることなく、この時期のこの国のドレスを着用すれば、熱くて汗が流れるのは当然の事ですよ」

「知っていて何故教えない!! 私に恥をかかせるつもりだったんだろう!! 陰気で陰険だと思っていたが、このような嫌がらせをするとは」

「ルデルスでの外交に向かうなら、もっと薄地のものをと申しましたよね? それを貧乏臭い、恥をかかせる気かとおっしゃったのは王子ではありませんか」

 当時、文官と仕立屋の双方に相談され出向き、散々罵倒されたのを覚えている。

「ちゃんと説明しないお前が悪い!!」

 窓に上半身を預けコチラを眺めていた父様は、おもむろにこういう。

「よし、エリアルのために、ルデルス風のドレスのデザインを幅広く募集しようじゃないか!」

「それは何かが違うと思いますよ父様」

「聖女であるなら、やはり相応の恰好は必要でしょう。 それに、やはり流行を作るのは王族です。 なぜダサいのか? ではなく、そう思うなら自ら主流を生み出すべきです」

 父、オルコット公爵は私を諫めるように、王子の間違いを指摘した。 そっと王子はその場を逃げるように離れて行った。 その背を眺めて父様は言う。

「何処へ行かれるのですか? 今のままではイライラが止まらないでしょう。 少し運動で発散をしましょう」

 そう言いながらひょいと窓枠を超えてきた父様は、王子を捕まえ両手で掲げ持ち上げ、外へと戻って行った。

 最近の父様は、私を見張るのではなく、王子の方を精霊ギルドの長に依頼し、精霊と精霊使いに見張らせている。

 王子はルデルス国からの帰国後、他国との商人と隠れて接触していると言う情報が入ったためだ。 商人との接触が悪い訳ではない。 ルデルス国とは気候がずいぶんと違うため、商取引はこちらからお願いしたいくらいである。

「ただ、貧乏だ、貧乏だと文句は言うけれど、何らかの予算を組めと言うのはまだないのですよねぇ~」

 どうせ王子のやる事。

 そう考えていたのは甘かった。 いえ、例えもっと慎重に事を構えていたとしても……私達にできる事など、いつもいつだって限られているのだ。

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