化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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5章 運命

28.精霊は人のルールにはまらない

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「精霊が、言う事を聞いてくれない」

 私は首を傾げた。

「それは、契約を果たさないと言う事?」

 精霊ギルドに所属する者達は、魔導師になるには魔力が少ない。 だが、精霊を見る目、声を聞く耳、話しかける声を持っている。 それらを持つ者達は何故か精霊に無条件に愛される。 元々精霊は人間好きで、寂しがり屋なところがあるから、そのせいかな? とか、考える。

 精霊契約は謎が多い。 秘密が多い。 だから私は多くを知らない。

 基本的には、精霊側の好意によって成立されている契約と言って良いと私は思っている。 それでも、人間側の方は精霊側の甘さや、精霊の求めを果たすことから、対等だとか対等以上と考える傾向があって、関係が破綻したとたんに過去の対価をいっきに要求される事もあるので注意が必要。

「なんとも、言い難い……」

 ギルド長が呻くように言うから、私は首を傾げる。

「何を言いたいのか分からないのだけど?」

「その……精霊が、盗みを働いているらしいんだ。 いや、今までは表沙汰になっていなかっただけで、ずっと盗みを働いていたんだ。 それもかなり昔から……」

「そう……」

 身に覚えがない訳ではない。 私を人として育てるために、ロノスは最低限のものを小精霊達に準備させていた。 まぁ、欲しいものがあるなら、金を稼げと言われていたので、最低限以上なものは泥棒していないはずである。 今の私であれば余裕で返済できる額に留まっている。

 それを説明すれば、

「いや、そういうのなら嬢ちゃんが聖女の座についた後も続くなんてありえないし。 その程度であればもともと精霊の悪戯として許容されてきたんだ。 その……未解決な高額盗難が大量に出てきて、犯人を捜すよう依頼が来た。 小精霊に問いかけるよう契約精霊に命じたところ返事が無かった。 誰も返事をしない。 だが、明らかにおかしい」

 ペシッとテーブルに投げ捨てられる分厚い紙の束は、未解決の盗難事件の内訳である。 小さなものから大きなものまで色々ある。 比較的小さなものだとシーツかな? 毎日盗まれ、前日盗まれたものが汚され返されるのだから、損害は微々たるものだが面倒臭いし不気味だろう。

「ずいぶんと、贅沢ですね」

 料理、小物、入浴アイテム、化粧品、シーツ等は主に王宮から盗まれる。 ドレス、装飾品等は地位の高い令嬢、下着等は専門店から盗まれている。 日々盗んで量が溜まるようなもの、例えば料理を食べた後の皿等は、シーツ同様に汚れたまま返されていた。

「犯人は、アリアメアを連れ去ったロノスですね。 彼なら、小精霊は命令に逆らう事ができません」

「流石に額が大きい」

 はぁ~と大きな溜息をギルド長はつき、肩を落とした。 最近盗まれたものの中には、近隣国との外交に出向く王子の同行者である令嬢のドレス一式があった。

『未来の王子妃代理として同行するのだから、粗末な恰好をさせる訳にはいかないだろう!! 我が国の力を疑わせることになるんだぞ!!』

 とか言ってかなり贅沢なものを準備していたと、腹を立てている侍女達から聞いた。 それはまぁ私には興味のない事だし、予算的なものは文官が管理している。 問題があるなら国王陛下に申し上げて注意を促してもらえばいいだけの事。

 なるほどねぇ~。 本格的に動いたのは、王子の催促があったからか。

 私が苦笑すれば、ギルド長は視線を背けて鳴らしはしないが口笛をするふりをする。

「取られたものはどうにもなりませんが、泥棒にロノスが動かない限りは、精霊除けでもしておくのが最善ではないでしょうか?」

 私は肩を竦めて見せる。

「それだと、こっちも諜報活動に精霊が使えん。 それに放置も出来んだろう」

「確かに……そうなのですねぇ……なんとか解決策を上げない事には、どこまでこの行為が悪化するか想像もつきませんからね」

 通常、精霊と人との恋は人の老いや死によって終わるのだけど、時空の精霊にはそれが当てはまらない。 共にいたいと思う限り、相手の姿を望む時間でとどめる事ができる。

「何とかしようと思うなら、彼以上の精霊の力を借りるか……。 アリアメア以上に興味をそそる無害な存在を与える。 何かを欲しがるアリアメアのパターンを割り出して予算を抑えることぐらい?」

 ここまで言えば、私以上に精霊に詳しい精霊使い達のトップだ。 盛大な溜息と共に理解は示してくれた。

「だなぁ……」

 なんて話の後、風呂上りの父様にギルド長を預け、私は休ませてもらうことにした。 少しだけロノスの泥棒行為に対して解決策を考えてみたものの思いつかず、私の役目ではないと放り出し眠りにつく。

 その結果、3か月後には精霊を使った泥棒行為は収まり、同時に王子(26歳)がこの国が不味しいと不満を高らかに叫ぶようになっていた。
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