化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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4章 化け物聖女

25.重ねられた間違い 01

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 私が忙しい日々を送っている間。



 国王は謁見も許さず、娯楽に興じる事無く、ため込んだ仕事は文官に押し付け、ただ考え込んでいた。

 何処の国にでも、王家と言うものは秘密を持っている。

 だが、このガーランド国の秘密は、国の豊かさ、健全さそのものと言って良い。 現状次期王として王太子の座にあるジュリアンは、

「魔物を封じる事は国の富を封じる事。 今こそが健全な、本来の国の在り方に戻るべきです!! 父上、我が国は長き安寧に身を置き、冒険者は育たず、騎士もろくに戦う事ができません!! 我が国の魔鉱石を狙い他国が押し入って来ても我が国には対処すべき手段がないのです。 父上、聖女は国を堕落へと落とす魔物です。 正しい国の在り方に戻りましょう!!」

 分かってない……お前は分かっていない。

 国王ジェリドは頭を抱え唸るのみであった。

 黙る国王ジェリドに対し、ジュリアン王子は日々声を大きくしていった。 富を語り強さを語る。 賛同する若者も多いが、当主世代の大半が反対したため、ジュリアン王子の思う通りに事が進む事は無かった。

 この国で最も魔力が多いはずの王族。 その王族に名を連ね、第一砦の内側に住まう王族の魔力は今や微々たるもの。 魔力の減少が既に始まっていた頃に生まれた若い世代には、魔力に満ちた健康な身体と言うものを知らない。 知らないどころか今年18になる王子は、魔力不足による成長阻害が起こり未だ12かそこらの外見をしているが、彼の周りの貴族も似たような状況なので不安に思う事はない。

 魔力が無く、身体も幼く、剣一つまともに振るう事は出来ないが、身体が気だるく動くのも億劫等と言う事は感じた事がないらしい。 王宮医師によれば、

『魔力によって身体補助、強化が当たり前のように常時行われていた世代と違い、無い事が当たり前なため筋肉が発達している。 そのため違和感なく生活ができるのだろう』

 と、言う事であった。

 それでも、この急速な変化に大人達は嘆く。

『魔力強化がなされていた頃の騎士や冒険者であっても、この土地に本来出現する魔物と戦う事がどれほど難しいか、万が一の事が起こった際、この国は対処できるのだろうか? 若い者達は理解していない』

 実際に戦った経験も無いのに……。



「この土地に発生する魔物には、ソナタの期待している価値はないぞ」

 溜息交じりに伝え、国王は1冊の書物を王子に渡す。



 この国は世界の最北に位置する神の山脈を背にしている。 気候は北方の地であるにもかかわらず温暖ではあると言えば聞こえが良いが、世界中の汚れが風に乗り山脈を前に停滞し渦を巻く。 結果、そこに淀みが生まれ魔物が発生する。

 魔物とは、

 汚れた小精霊が動植物に取りつくことで突発的に発生する災害のようなもの。

 魔物の性質は、

 精神的な汚れのままに、膨れ上がった食欲、性欲、破壊的衝動に身を任せる。
 魔物は魔物である期間が長いほどに、魔力生成石、通称魔石が大きく育つ。
 そして魔力を多く含んだその死体は素材として高く取引されるのが一般的だ。

 だが、ガーランド国の魔物は違う。

 発生原因も、発生地域も分かっている。

 だからこそ王子は都合良く魔物から利益を得られると考えたのだろうが、場所も発生原因も分かっているなら、人も動物も植物も、わざわざ魔物の発生地域で住まおうとは、繁殖をしようとは思わないだろう。 汚れた精霊が憑りつく存在がないのだ。

 発生するのはゴーストと呼ばれる魔物ばかり、獲得できる素材は魔石のみ。

 通常の武具では倒す事が出来ず、倒すためには、神聖魔法、火魔法、浄化魔法、光魔法等の魔法に頼るしかない。 武具による攻撃をしようとするなら、魔法付与が必要となる。 結局は魔法頼りなのだ。 通常であっても、効率が悪い割に利益が少ない。 それが今のガーランド国の騎士や冒険者であれば、なおの事困難である。



「へっ?」

 王子は、その文面を読み間抜けな声をだした。

「この地の魔物には人が命をかけるほどの利益はない。 ゆえに、この国の魔物制御は、地下に封じられた魔人に頼っている状態なのだ。 決してソナタには倒せぬし、我が国で精鋭と呼ばれる者達であったとしても、最北の地、汚れた大地に近寄る事も出来ぬだろう」

 疲れた声で国王は告げた。

「そんな、馬鹿な!! 我が国は魔鉱脈の宝庫とされる地ではありませんか!!」

「それも、正しき王族によって管理された魔人のおかげだ。 それも今となっては過去の、正常な管理がなされていた頃に作り出された魔鉱脈から魔鉱石を採掘しているだけ、今のままでは数年後に途絶える。 我が国は、魔人と呼ばれる存在がまともに機能して初めて人が住まう事が出来る国なんだよ」

「嘘だ……。 嘘だ、嘘だ、嘘だ!!」

「いずれこの国を統治するのは、他の誰でもないソナタだ……。 信じたくないならそれでいい」

「では、なぜ、父上は、封印を正そうとなさらないのですか!!」

 責めるように言われた。

 身勝手な夢を見続ける息子には王位を継ぐだけの魔力が足りない。 カリスマが無い。 知恵がない。 知識がない。 教養がない。 それでも、他にいないとなれば王子ジュリアンが王位に就くしかない。

 せめて、王家の血を引く聖女が王の役割を引き受けてくれるなら……。
 王子の子に強い魔力を取り戻せるなら……。

 元々、王に必要なのは魔力であり、政治に関することは文官が行っていた……。 最低限の礼儀作法さえ身に付ければ他には学ぶべきを学ばずとも文句を言われる事はない。

 自由だ。

 それは、国王である自分ジェイドも、王子ジュリアンも同じだ。

 知らなかったんだ……。

 だから、父を殺す等と言う過ちを犯した。

 知らない王子は自分を責める。

 そして、自分と同じ過ちを犯すのだろうか?

 国王ジェリドは息子を見つめながら、過去の自分を見つめていた。
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