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3章 セイジョセキ
20.親子 10
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「ぐふぅ」
国王は呻き蹲る。
「陛下!!」
魔法機関の3長が叫び走り寄った。 国王は言う、
「平気だ。 平気なんだ……平気だから、気にするな。 何も無かった。 何も無かったんだ」
ゴホゴホとせき込み呻きながら立ち上がった。
王子は恰好良いからと言う理由だけで、剣を携える。 一流の鍛冶職人によって作られた剣を。 何処までも華麗で豪華で、鋭さを持たず、重さの無い、武器としては二流、三流のオモチャ。 それが王子の携える剣。
エリアルと親に名付けられた少女で聖女は知っている。 王子は、快楽的であり、横暴であり、思慮不足であり、貪欲だが、小心者だ。
それをエリアルは見てきた。
ロノスの傍らで。
怠惰だから学びは拒否し、小心者だから拒否したことを脅し隠した。 隠していたつもりだったけれど、余りにも学ぶ事を拒絶し過ぎて、好き嫌いをし過ぎて、安穏をむさぼり過ぎて、誰もが知るところとなっている事を彼は気づいていない。
少し前まで、王子はアリアメアと言う美しい少女と共に、楽園で戯れる天使のような日々を過ごしていた。 幸福な日々のはずだった。
どうして、どうして、どうして、何が変わった? 何故変わった? 私は何も悪くない!! 誰の責任だ?! 誰が悪い、誰が責任を取る。 誰が私の幸福を取り戻す?
父王への不満が溢れるが、腹を抱え蹲る父王を前に動揺し王子は後退った。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、父上、どうしてこんなことに。
問いかけはやがて解決へとたどり着く『問題ない』と。 父上もまたおじい様の命を奪い王位についた。 なら、私にソレが許されないはずがない。
そんな開き直りにたどり着くまで、多くの時間を必要としなかった。
全てを丸めこめ。
そう思えば、口元を歪め笑っていた。 私が王だ。 私がこの国のルールだ。 薄汚い化け物は処分すればいい。 魔力を持つ者がいないなら他国から調達すればいい。 魔力は必ずしも血統を頼るものではない。 他国から奴隷を大量に仕入れよう。 そうすれば魔力を持つ者だっているだろう。 魔力を持つ美女を集め、魔力を持つ子を産ませればいい。 20.30も生ませれば、王に相応しい者の1人や2人生まれるだろう。
いや、そうだ……。
私の王国を絶対のものにする方法がある。
ちらりと精霊ギルドの長へと、魔導師長へと視線を向けた。
精霊を捕まえ、人に取りつかせ、洗脳を施そう。 そうすれば、この国に魔物が増えても対処できる。 魔物が増える事は富が増える事と等しい。
あぁ、そうだ……。 間違っていたんだ、父上も、おじい様も、その先の先祖も、民を戦わせることを嫌い魔物を抑える事で富まで抑制した。 間違いだ、それは間違いだ、私はきっとうまくやれる。
きっと私は良い王になる。
「ふっ、はっははっははは」
どんどん声高に笑おうとすれば、未だ成長期の王子よりも背が高く、真摯に身体を鍛えてきた王は立ち上がり、王子の元に歩み寄り、凝視する。
「ち、父上……ご、ご無事でしたか……」
王子は無意識に、にちゃりとした嫌な笑いを浮かべていた。
「あぁ、あぁ、無事だとも。 お前は何も知らぬ。 無知で愚かなカワイイ子だ。 放って死ぬわけにもいくまい。 それではあまりにも民が不憫だ」
「何をおっしゃっているのですか……父上……」
今も王子の手には切れぬ剣が握られていた。
「息子よ。 愚かで愛しい息子よ。 国のために民のために愛する事は出来ぬと言うか?」
「いつまで、そのような愚かな言葉を繰り返されますか? 父上……あれは、どう見ても化け物。 化け物です。 かつて王位にはユリアがつくはずだったと思い込み、恨みを持っているオルコット公爵が作り上げた精霊と人の混ざりもの。 魔物モドキに違いありません!!」
「我が子を、どこまで侮辱されるか……」
公爵の瞳が座り、鋭利で細い剣の柄に手をかけようとすれば、指が触れる前に王が止めに入った。
「時間をいただきたい。 息子には次期王としての自覚が足りない。 これは私の責任だ。 だが、王族にはこの子以上に王に相応しいものはいない。 今はいない。 だから……時間をくれ。 時間をいただきたい。 頼む」
必死の懇願。
公爵は、エリアルに聞いた。 甘く甘くまるで恋人のように、幼い娘との蜜月を楽しむように問いかける。
「どうしましょう? どうしたい? どうして欲しい?」
「私は急がないわ。 だって、私の時間は沢山あるもの。 時間に追われているのは国王だもの。 地位も権力も狙われているのは国王で、地位と権力を脅かされているのは王子。 いいよ、どうでもいいの。 好きにすればいい。 だから、父様、帰りに甘いお菓子を買ってね」
「あぁ、いいとも」
甘い良好な関係を見せつける親子。
地位と権力、命すら脅かしあう親子。
状況はいったん預けられ、時間と共に魔物が増え続け、人の魔力と精霊が減り続ける。
国王は呻き蹲る。
「陛下!!」
魔法機関の3長が叫び走り寄った。 国王は言う、
「平気だ。 平気なんだ……平気だから、気にするな。 何も無かった。 何も無かったんだ」
ゴホゴホとせき込み呻きながら立ち上がった。
王子は恰好良いからと言う理由だけで、剣を携える。 一流の鍛冶職人によって作られた剣を。 何処までも華麗で豪華で、鋭さを持たず、重さの無い、武器としては二流、三流のオモチャ。 それが王子の携える剣。
エリアルと親に名付けられた少女で聖女は知っている。 王子は、快楽的であり、横暴であり、思慮不足であり、貪欲だが、小心者だ。
それをエリアルは見てきた。
ロノスの傍らで。
怠惰だから学びは拒否し、小心者だから拒否したことを脅し隠した。 隠していたつもりだったけれど、余りにも学ぶ事を拒絶し過ぎて、好き嫌いをし過ぎて、安穏をむさぼり過ぎて、誰もが知るところとなっている事を彼は気づいていない。
少し前まで、王子はアリアメアと言う美しい少女と共に、楽園で戯れる天使のような日々を過ごしていた。 幸福な日々のはずだった。
どうして、どうして、どうして、何が変わった? 何故変わった? 私は何も悪くない!! 誰の責任だ?! 誰が悪い、誰が責任を取る。 誰が私の幸福を取り戻す?
父王への不満が溢れるが、腹を抱え蹲る父王を前に動揺し王子は後退った。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、父上、どうしてこんなことに。
問いかけはやがて解決へとたどり着く『問題ない』と。 父上もまたおじい様の命を奪い王位についた。 なら、私にソレが許されないはずがない。
そんな開き直りにたどり着くまで、多くの時間を必要としなかった。
全てを丸めこめ。
そう思えば、口元を歪め笑っていた。 私が王だ。 私がこの国のルールだ。 薄汚い化け物は処分すればいい。 魔力を持つ者がいないなら他国から調達すればいい。 魔力は必ずしも血統を頼るものではない。 他国から奴隷を大量に仕入れよう。 そうすれば魔力を持つ者だっているだろう。 魔力を持つ美女を集め、魔力を持つ子を産ませればいい。 20.30も生ませれば、王に相応しい者の1人や2人生まれるだろう。
いや、そうだ……。
私の王国を絶対のものにする方法がある。
ちらりと精霊ギルドの長へと、魔導師長へと視線を向けた。
精霊を捕まえ、人に取りつかせ、洗脳を施そう。 そうすれば、この国に魔物が増えても対処できる。 魔物が増える事は富が増える事と等しい。
あぁ、そうだ……。 間違っていたんだ、父上も、おじい様も、その先の先祖も、民を戦わせることを嫌い魔物を抑える事で富まで抑制した。 間違いだ、それは間違いだ、私はきっとうまくやれる。
きっと私は良い王になる。
「ふっ、はっははっははは」
どんどん声高に笑おうとすれば、未だ成長期の王子よりも背が高く、真摯に身体を鍛えてきた王は立ち上がり、王子の元に歩み寄り、凝視する。
「ち、父上……ご、ご無事でしたか……」
王子は無意識に、にちゃりとした嫌な笑いを浮かべていた。
「あぁ、あぁ、無事だとも。 お前は何も知らぬ。 無知で愚かなカワイイ子だ。 放って死ぬわけにもいくまい。 それではあまりにも民が不憫だ」
「何をおっしゃっているのですか……父上……」
今も王子の手には切れぬ剣が握られていた。
「息子よ。 愚かで愛しい息子よ。 国のために民のために愛する事は出来ぬと言うか?」
「いつまで、そのような愚かな言葉を繰り返されますか? 父上……あれは、どう見ても化け物。 化け物です。 かつて王位にはユリアがつくはずだったと思い込み、恨みを持っているオルコット公爵が作り上げた精霊と人の混ざりもの。 魔物モドキに違いありません!!」
「我が子を、どこまで侮辱されるか……」
公爵の瞳が座り、鋭利で細い剣の柄に手をかけようとすれば、指が触れる前に王が止めに入った。
「時間をいただきたい。 息子には次期王としての自覚が足りない。 これは私の責任だ。 だが、王族にはこの子以上に王に相応しいものはいない。 今はいない。 だから……時間をくれ。 時間をいただきたい。 頼む」
必死の懇願。
公爵は、エリアルに聞いた。 甘く甘くまるで恋人のように、幼い娘との蜜月を楽しむように問いかける。
「どうしましょう? どうしたい? どうして欲しい?」
「私は急がないわ。 だって、私の時間は沢山あるもの。 時間に追われているのは国王だもの。 地位も権力も狙われているのは国王で、地位と権力を脅かされているのは王子。 いいよ、どうでもいいの。 好きにすればいい。 だから、父様、帰りに甘いお菓子を買ってね」
「あぁ、いいとも」
甘い良好な関係を見せつける親子。
地位と権力、命すら脅かしあう親子。
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