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3章 セイジョセキ
14.親子 04
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名前を聞かれる。 聞かれた。 ただそれだけが、これほどおかしいとは……。 だけど、私は笑う事もできずオルコット公爵をじっと見つめるだけ、そうすると公爵はより辛そうに顔を歪めた。 だけど公爵の方から視線を逸らそうとすることもなく、私はなぜか胸を痛めながらも、泣きたい思いを抱えながらも言葉にしてしまっていた。
「化け物。 貴方が私をそう呼んだのではありませんか。 今更、他にどんな名前が必要なんですか?」
「……もうしわけない……」
掠れた声。 テーブルに頭を擦りつけ頭を下げる公爵。 それを見れば余計に腹がたった。 生まれたばかりの私が、化け物と呼ばれていた等知るわけがない。 ロノスがそう言っていただけ。
あぁ、そうだ……私は、嘘だと言って欲しかったんだ……。 自分の心が分かれば、悲しくて、切なくて、そして孤独を深めてしまった。 プイッと視線を背ければ、小さな掠れるような声で公爵は続けた。
「もし、もし、許されるなら……エリアル……エリアル様と、呼ばせていただいてもよろしいだろうか? 妻が……我が子のために、考えに考え、決めた名前なのです」
言えば神官長の視線が、公爵を睨み責める。
「公爵!! 聖女様に、私情を絡めるものではありません。 聖女様は公爵殿ごときが名を呼んでいい相手ではありませんよ。 ましてや名づけ等」
魔法に関わる各機関の長と共にオルコット公爵がこの場への参加できたのは、懺悔したことによる褒美だった。
『これから先、貴方が知る事となるのは国の秘密。 あなたを同列として迎えるためには、貴方を信用するためには、誰にも話せぬ罪を、秘密を話す必要があります』
そう、神殿長が言ったのだ。
オルコット公爵は、これぞ天の采配だと思った。 勝手にそう思い許しが得られるのだと勘違いして語った。 ユリアの生んだ子を、わが子を殺そうとした大罪を自覚してから、苦しくて苦しくて、自分が悪いのだと吐き出したくて、許されたかった。
妻とよく似た顔立ちの子に冷ややかに見下される事が辛かった……。 身勝手なのは知っていた。 親として欠如しているのも知っていた。 親としての情はいまだないと言っていい……ただ亡き妻に対して申し訳ないと言う思いだけが、公爵を苦しめていたのだ。
だからこそ、脅しのように使われた。
聖女とは言え、生まれたばかりの記憶などあるはずがない。
ロノスは殺されそうになった事までは伝えていなかった。 母を殺して生まれたと言う憎悪を向けられ、父親に殺されそうになったと知れば、自分を嫌うか? 人を嫌うか? それとも自らを精霊と思い精神的な逃げとするか?
ロノスは、人の子を人として育てるためには、人をを救うための人として育てるためには親は必要だと考えたから。
『力あるが故の病を、レティの父は恐れ化け物と呼んだ。 それでも生きていて欲しいから、私に預けられたのだ』
物語を読み、親に憧れ恋しがる子が面倒臭くなり『化け物』と呼ばれた事を告げた。 人としての鎖を残すために、生きていて欲しいからと言う言葉の前に『誰が』と告げる事を故意に隠した。 ロノスはそういう精霊だった。
親に対する憧れめいたものが、大人ぶっていても10歳の子に諦めきれるはずがない。 神官長の言葉にレティシアは余計に腹を立て、腹を立てるレティシアに長達は戸惑った。
なんだか、腹がたって不快で、自分でも何が何だかよく分からない。
「私が、良いと言っているのよ!!」
私が言えば、神官長は驚きと共に頭を下げた。
「そんな事より封印でしょ!! 国王や王太子に力が足りないと言うなら、王族から力のある子に力のある妻を迎え、あなた方が後継人となればいいでしょ」
魔導師長が他の長へと視線を巡らせ、躊躇と歓喜が混同する不思議な雰囲気を醸し出す。
嫌な感じだと思った。 そう思った事を知られたくなく、レティシアは姿を薄め誤魔化した。
今この状況で、彼らが生命を脅かす敵と言う事はない事ぐらいは分かる。 敵ではないけれど……自分達の都合の良い形で物事を進めようとしている? 私を利用しようとしている?
幼い敵意が生まれようとしているのは、3人の長にもわかり、長達は今日は引くこととしたらしい……。
「今日の処は、聖女様もお疲れでしょう。 静かに時が過ごせるように配慮しますので、ゆっくりとお休みくださいませ」
言われて部屋から3人の長と公爵が出て行った。
ふむっ……。
彼等に私の意識体を見る力はなく、私は見せているだけな訳で、姿を見せないようにしながら私は部屋を出ていく4人の後へついて行くことにした。
「化け物。 貴方が私をそう呼んだのではありませんか。 今更、他にどんな名前が必要なんですか?」
「……もうしわけない……」
掠れた声。 テーブルに頭を擦りつけ頭を下げる公爵。 それを見れば余計に腹がたった。 生まれたばかりの私が、化け物と呼ばれていた等知るわけがない。 ロノスがそう言っていただけ。
あぁ、そうだ……私は、嘘だと言って欲しかったんだ……。 自分の心が分かれば、悲しくて、切なくて、そして孤独を深めてしまった。 プイッと視線を背ければ、小さな掠れるような声で公爵は続けた。
「もし、もし、許されるなら……エリアル……エリアル様と、呼ばせていただいてもよろしいだろうか? 妻が……我が子のために、考えに考え、決めた名前なのです」
言えば神官長の視線が、公爵を睨み責める。
「公爵!! 聖女様に、私情を絡めるものではありません。 聖女様は公爵殿ごときが名を呼んでいい相手ではありませんよ。 ましてや名づけ等」
魔法に関わる各機関の長と共にオルコット公爵がこの場への参加できたのは、懺悔したことによる褒美だった。
『これから先、貴方が知る事となるのは国の秘密。 あなたを同列として迎えるためには、貴方を信用するためには、誰にも話せぬ罪を、秘密を話す必要があります』
そう、神殿長が言ったのだ。
オルコット公爵は、これぞ天の采配だと思った。 勝手にそう思い許しが得られるのだと勘違いして語った。 ユリアの生んだ子を、わが子を殺そうとした大罪を自覚してから、苦しくて苦しくて、自分が悪いのだと吐き出したくて、許されたかった。
妻とよく似た顔立ちの子に冷ややかに見下される事が辛かった……。 身勝手なのは知っていた。 親として欠如しているのも知っていた。 親としての情はいまだないと言っていい……ただ亡き妻に対して申し訳ないと言う思いだけが、公爵を苦しめていたのだ。
だからこそ、脅しのように使われた。
聖女とは言え、生まれたばかりの記憶などあるはずがない。
ロノスは殺されそうになった事までは伝えていなかった。 母を殺して生まれたと言う憎悪を向けられ、父親に殺されそうになったと知れば、自分を嫌うか? 人を嫌うか? それとも自らを精霊と思い精神的な逃げとするか?
ロノスは、人の子を人として育てるためには、人をを救うための人として育てるためには親は必要だと考えたから。
『力あるが故の病を、レティの父は恐れ化け物と呼んだ。 それでも生きていて欲しいから、私に預けられたのだ』
物語を読み、親に憧れ恋しがる子が面倒臭くなり『化け物』と呼ばれた事を告げた。 人としての鎖を残すために、生きていて欲しいからと言う言葉の前に『誰が』と告げる事を故意に隠した。 ロノスはそういう精霊だった。
親に対する憧れめいたものが、大人ぶっていても10歳の子に諦めきれるはずがない。 神官長の言葉にレティシアは余計に腹を立て、腹を立てるレティシアに長達は戸惑った。
なんだか、腹がたって不快で、自分でも何が何だかよく分からない。
「私が、良いと言っているのよ!!」
私が言えば、神官長は驚きと共に頭を下げた。
「そんな事より封印でしょ!! 国王や王太子に力が足りないと言うなら、王族から力のある子に力のある妻を迎え、あなた方が後継人となればいいでしょ」
魔導師長が他の長へと視線を巡らせ、躊躇と歓喜が混同する不思議な雰囲気を醸し出す。
嫌な感じだと思った。 そう思った事を知られたくなく、レティシアは姿を薄め誤魔化した。
今この状況で、彼らが生命を脅かす敵と言う事はない事ぐらいは分かる。 敵ではないけれど……自分達の都合の良い形で物事を進めようとしている? 私を利用しようとしている?
幼い敵意が生まれようとしているのは、3人の長にもわかり、長達は今日は引くこととしたらしい……。
「今日の処は、聖女様もお疲れでしょう。 静かに時が過ごせるように配慮しますので、ゆっくりとお休みくださいませ」
言われて部屋から3人の長と公爵が出て行った。
ふむっ……。
彼等に私の意識体を見る力はなく、私は見せているだけな訳で、姿を見せないようにしながら私は部屋を出ていく4人の後へついて行くことにした。
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