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3章 セイジョセキ
12.親子 02
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微かな脳裏に響く音で、物を持つ事も、触れる事も出来ないのだと、チシャと呼ばれた幼女の両親に伝えた。
「だが、あんたのためにさぁ」
「あんた、聖女様の事情も理解してさしあげないと」
「だがなぁ、それならうちの子が可哀そうじゃないか。 一生懸命作ったんだぞ?」
仕方がない。
このままでは引き下がりそうにない。
私は髪飾りをふわりと受け取り、付与魔術と呼ばれるものを髪飾りに与えた。
健康でありますように……。
幸運でありますように……。
人に好かれますように……。
彼等に聞こえる音で祝福すれば、手に取る事が出来ない髪留めはあっけなく幼女のものとなった。 幼女は納得していないようだったけれど、私は幽霊だからって親は必死に説得する。
とりあえずコレでいいよね?
幼女の両親は、これ以上ないほどに納得した。
人と言うものは、善意には笑顔をもって相手の望む言葉を選び、返すものらしいですよ。 そう語るロノスの顔を思い出し、私は幼女に優しく微笑んで見せた。
でも、心は笑顔とは遠い。
なんで?
豊かでもない家族が、楽しそうに笑っているのに、私は本心から笑う事すらできないの?!
貴方の本質は、人道に欠けた非道な方ですよ。 だから、これが常識なのだと習性付けるのですよ。 きっとソレで上手くいくはずです。
ロノスの言葉は割と何でも適当だった。
特に文化の違う様々な国から集めた本を元にした”正しい人間作り”に尽力したらしいのだけど、法、秩序、感性、気性、さまざまなものが違う国から集めた情報に統一性等なく、私が彼の理想通りの聖女にならないことに彼はこう自分の中で妥協したのだろう。
『仕方がない』
ロノスの日常的に繰り返される言葉は、私への呪いとなり心に深く沈殿し、私は諦めた。
仕方がない。
私もまた仕方がないよねと諦めの言葉を繰り返す。
私を捨てアリアメアを連れて行ったロノスの呪い。 私を必要無いと言うなら、この呪いも解いてくれれば良かったのに。 亀裂から触手が伸び様子見をしている触手は、私の考える力に絡みつきぐるぐると巡り、呪いの言葉への苦痛が悪化し、幸福そうな親子の笑顔に嫉妬を覚えた。
醜い心だ。
ロノスの声が聞こえたような気がした。
羨ましい、妬ましい、嫉妬でおかしくなりそう。
意識体である私の髪と瞳が、その気持ちのままに黒色に染まって行ったらしい……流石に本体から長時間離れすぎたと私は焦りを覚えた。
「ユリア!!」
悲痛な声がかけられた。
それは、私に向けられた声。
聞いたことのある声。
不快な声。
「誰?」
私は冷ややかに振り返る。
「ユリア、ユリア、ユリア!! どうして、どうして!! こんなところに!! 例え器が無かろうと、子供のような姿だろうと。 どうして私の元に戻って来てくれなかったんですか?!」
その声は甘えるように責める言葉。
「それに、なんて恰好をしているんですか。 例え幽霊だったとしても、もう少し恥じらいを持ってください。 私は、誰も貴方に触れる事ができなくても、貴方の裸を人に見られるのは嫌です」
「私、貴方なんて知らない」
「ユリア!! なんでそんなことを!!」
「知らない、知らない、知らないって言っているでしょう!!」
感情の揺らぎと共に、魔力が揺れた。 意識体であるから良かったが、本体であれば一体を吹き飛ばしていたかもしれない。
このオルコット公爵は、私を化け物だと最初に言った男。 その男を睨みつければ、男は私にすがるような視線を向け。 瞳に涙を浮かべていた。
「どうして……私の事を忘れてしまったのですか?」
私の欲しいものをくれなかった人。
知らない。
知らない。
「貴方なんか知らない。 私の前から消えて、いえ私が消えます」
「待ってくれ!! どうか話だけでも、いや……話はどうでもいい……せめて服を着てくれ。 服をプレゼントさせてくれ!! 頼む、お願いだ!! どんな服でもプレゼントしよう。 どんな服がいい? あぁ、私は女性の服に疎いとよくユリアは怒っていたな。 店に行こう。 君が選ぶといい」
愛情に満ちた視線を私に向ける。 リヨン・オルコット公爵。
「貴方なんて知らない。 貴方からは何も受け取らない。 もう、十分に受け取ったから……」
「ユリア!!」
何を考えたのか、それは歓喜の声だった。
「えぇ、貴方からは十分に受け取りましたよ。 公爵。 憎悪と狂気と殺意と化け物と言う名称をね」
私がそっと、優しく、耳元に囁けば、オルコット公爵は幸福に震えていた。 だが、次の瞬間にはものすごい表情で私を見た。 その表情を表す言葉を私は知らない。
そんなシリアスな傍らで、幼女の母親は幼女に聞いていた。
「聖女様は、その、服をきていらっしゃらないのかい?」
「うん、お風呂のようにすっぽんぽんだよ~!! ぽんぽんぽ~ん」
元気に告げる幼女の親は困り切り、私は少しイラっとした。
「だが、あんたのためにさぁ」
「あんた、聖女様の事情も理解してさしあげないと」
「だがなぁ、それならうちの子が可哀そうじゃないか。 一生懸命作ったんだぞ?」
仕方がない。
このままでは引き下がりそうにない。
私は髪飾りをふわりと受け取り、付与魔術と呼ばれるものを髪飾りに与えた。
健康でありますように……。
幸運でありますように……。
人に好かれますように……。
彼等に聞こえる音で祝福すれば、手に取る事が出来ない髪留めはあっけなく幼女のものとなった。 幼女は納得していないようだったけれど、私は幽霊だからって親は必死に説得する。
とりあえずコレでいいよね?
幼女の両親は、これ以上ないほどに納得した。
人と言うものは、善意には笑顔をもって相手の望む言葉を選び、返すものらしいですよ。 そう語るロノスの顔を思い出し、私は幼女に優しく微笑んで見せた。
でも、心は笑顔とは遠い。
なんで?
豊かでもない家族が、楽しそうに笑っているのに、私は本心から笑う事すらできないの?!
貴方の本質は、人道に欠けた非道な方ですよ。 だから、これが常識なのだと習性付けるのですよ。 きっとソレで上手くいくはずです。
ロノスの言葉は割と何でも適当だった。
特に文化の違う様々な国から集めた本を元にした”正しい人間作り”に尽力したらしいのだけど、法、秩序、感性、気性、さまざまなものが違う国から集めた情報に統一性等なく、私が彼の理想通りの聖女にならないことに彼はこう自分の中で妥協したのだろう。
『仕方がない』
ロノスの日常的に繰り返される言葉は、私への呪いとなり心に深く沈殿し、私は諦めた。
仕方がない。
私もまた仕方がないよねと諦めの言葉を繰り返す。
私を捨てアリアメアを連れて行ったロノスの呪い。 私を必要無いと言うなら、この呪いも解いてくれれば良かったのに。 亀裂から触手が伸び様子見をしている触手は、私の考える力に絡みつきぐるぐると巡り、呪いの言葉への苦痛が悪化し、幸福そうな親子の笑顔に嫉妬を覚えた。
醜い心だ。
ロノスの声が聞こえたような気がした。
羨ましい、妬ましい、嫉妬でおかしくなりそう。
意識体である私の髪と瞳が、その気持ちのままに黒色に染まって行ったらしい……流石に本体から長時間離れすぎたと私は焦りを覚えた。
「ユリア!!」
悲痛な声がかけられた。
それは、私に向けられた声。
聞いたことのある声。
不快な声。
「誰?」
私は冷ややかに振り返る。
「ユリア、ユリア、ユリア!! どうして、どうして!! こんなところに!! 例え器が無かろうと、子供のような姿だろうと。 どうして私の元に戻って来てくれなかったんですか?!」
その声は甘えるように責める言葉。
「それに、なんて恰好をしているんですか。 例え幽霊だったとしても、もう少し恥じらいを持ってください。 私は、誰も貴方に触れる事ができなくても、貴方の裸を人に見られるのは嫌です」
「私、貴方なんて知らない」
「ユリア!! なんでそんなことを!!」
「知らない、知らない、知らないって言っているでしょう!!」
感情の揺らぎと共に、魔力が揺れた。 意識体であるから良かったが、本体であれば一体を吹き飛ばしていたかもしれない。
このオルコット公爵は、私を化け物だと最初に言った男。 その男を睨みつければ、男は私にすがるような視線を向け。 瞳に涙を浮かべていた。
「どうして……私の事を忘れてしまったのですか?」
私の欲しいものをくれなかった人。
知らない。
知らない。
「貴方なんか知らない。 私の前から消えて、いえ私が消えます」
「待ってくれ!! どうか話だけでも、いや……話はどうでもいい……せめて服を着てくれ。 服をプレゼントさせてくれ!! 頼む、お願いだ!! どんな服でもプレゼントしよう。 どんな服がいい? あぁ、私は女性の服に疎いとよくユリアは怒っていたな。 店に行こう。 君が選ぶといい」
愛情に満ちた視線を私に向ける。 リヨン・オルコット公爵。
「貴方なんて知らない。 貴方からは何も受け取らない。 もう、十分に受け取ったから……」
「ユリア!!」
何を考えたのか、それは歓喜の声だった。
「えぇ、貴方からは十分に受け取りましたよ。 公爵。 憎悪と狂気と殺意と化け物と言う名称をね」
私がそっと、優しく、耳元に囁けば、オルコット公爵は幸福に震えていた。 だが、次の瞬間にはものすごい表情で私を見た。 その表情を表す言葉を私は知らない。
そんなシリアスな傍らで、幼女の母親は幼女に聞いていた。
「聖女様は、その、服をきていらっしゃらないのかい?」
「うん、お風呂のようにすっぽんぽんだよ~!! ぽんぽんぽ~ん」
元気に告げる幼女の親は困り切り、私は少しイラっとした。
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