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2章 精霊の愛し子

06.化け物 01

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 精霊ロノスとの生活は突然に終わりを告げる事となる。 私はそれを自分の意志で、幸福をつかむために行うものだと思い込んでいたのに……。 運命とはこうもままならないものなの?





 王家の者達が、いつまでたっても魔力の未熟な……魔導士の素質を持つ子供以下であるアリアメアに疑問を覚えたのだ。 それでも、王様、王妃様、王子、侍女に教師達、多くの者がアリアメアに優しかく、彼女はなんて幸せなのだと思えば、嫉妬を覚えた。

 ただ、その嫉妬を明確に表してしまえば、ロノスが機嫌を害して小精霊に八つ当たりをするだろうから、壁一面に王宮の、いえ……アリアメアを映し出し眺めているロノスから私は視線を逸らす。

「何か覚醒のためのきっかけが必要なのかもしれん」

 王様が言えば王妃様も共に疑問を呈した魔導士を宥める。

「えぇ、そうですとも、この子の周りには精霊が集まっていますもの。 まだ時ではないだけですわ」

「婚約者として今まで教育してきた者を、こちらの手違いだった。 お前は聖女ではなかったから帰れとでもいうのか!!」

 婚約者である王子は魔導士達に怒鳴り、アリアメアを抱きしめる。

「ジュリアン様!!」

 幸福そうな顔が壁一面に見せつけられれば、王宮内で起こっている事を抜きに、ロノスはカワイイっと呟く。



 馬鹿みたい。


 なんて、つまらないの。

 私は真剣に、壁一面に映し出された人間世界を、いえ、アリアメアを見ているロノスをチラリと見てすぐに視線をそらした。

「妹が責められているのに気にならないのですか? それは恩義や情で動く人間らしくないとは思わないのですか」

 いや、あんた今カワイイとかって言っていましたよね?

 イラっとした私は肩を竦めて見せる。 会った事もないのに恩や情が芽生えるはずもない。 むしろ、いつも比較されて、下げられていては、嫌いになると言うもの。 その原因を作っている人……いえ精霊が何を言っているのだろうか?

 そんなことを思えば、光の玉状態の精霊が私の周りを慰めるようにぷよぷよと飛ぶ。 私はそれを手で払い退ける。 悪気があるわけではない……小精霊が私に構うと自立心が養われないとか言って怒るから。

 形も満足に持つことが出来ない精霊は、ロノスが感情を荒ぶらせるだけでかき消えてしまう。 そんな存在が、くだらない感情の乱れに巻き込まれて消えるのは余りにも可哀そうだ……。

 それに比べ、アリアメアに対しては小精霊に常に側に控え守るようにと命じている。 全てが違う。 この違いを生み出しているのがアリアメアではないし、アリアメアはただ自分の思いを、感情を、人に伝えているだけ、周囲が彼女の言う事をきくことに彼女の罪はない……。

 ないのかな?

 ふと、疑問に思った。

 そして私は慌てた。 慌てて、意識を手元へと移した。

 別世界のハンドメイド細工本の中から学んだつまみ細工と言う手法。 それでアクセサリーを作っているのだ。 ちなみに材料は、小精霊達に仕立て屋さんから端切れを集めて貰い、魔力の糸で縫ったり貼ったり(下手だから)するので、材料費は無料。

 針と糸が欲しいと言ったら、人間なのだからお金で購入するようにと言われたのは8歳の頃。 魔力で糸を作ったのは苦肉の策。 芸は人を助けると言う言葉があると言うが、コレのおかげで結構な金額をため込み、手芸用の糸とカギ針を買い刺繍も覚えた。 小さな手ではいろいろと不便で、生活できるほどまでの金銭にはならないけれど、ここを出る頃までには何とかなるかもしれないし、最悪、ここにある魔法所の知識を魔法使い達に売ってしばらくの生活費にするのも悪くはないだろう。

 何時からか、私は育ての親である精霊ロノスを見ているのが、話をするのが、嫌になってきていて、人の世界で生きる事ばかりを考えるようになっていた。 人の世界なら、私だってアリアメアのように大切にされるかもしれない。



 そう夢見るようになっていた。



「なぜだぁ!!」

 ロノスが突然に大声を出した。

「どうして信用しない。 精霊をあれほどに従えていると言うのに!!」

 私は呆れていたが、それを顔に出す事はない。 そもそも聖女様と言われているが、彼女は聖女ではない。 その資格があるのは私だ。 私なんだ……。 ロノスだって人と精霊の世を救えるのは私だと言っているのに、アリアメアを見て興奮状態になってしまえば、事実は意味をなくしてしまう。

 ちらりと壁一面に映し出された王宮には、幾人もの老いた魔導士が現れ、王様を責めるように言い放つ。

「陛下、その子は違いますぞ!!」

「では、オルコット公爵が本当の子を、預言の子を隠していると言うのか!!」

「私共はオルコット公爵の元に確認に出向き尋ねたのです」

 これもまた王様を責めるような口調だった。

「それで、どうした……」

「オルコット公爵はこう申されたのです。 子供は2人いる。 私にはどちらが預言の子か分からない。 一方は化け物のような外見をした赤ん坊で、一方は天使のような外見をした赤ん坊です。 どちらをお望みですか?と、そして陛下は未来の聖女だ天使に決まっていると手紙を送ってきたと伺い、その手紙も見せていただきました。 おろかな……聖女だから外見が美しいと、そんな適当な事を申し付けられるとは……」

 馬鹿な事をと魔導士の目が語っていた。

「それの何が悪い、だれが化け物のような子を聖女だと言うのだ。 化け物が必要なら、化け物が必要だと言わなかった預言の魔導士が悪いのだろう!!」

「国を人を救う聖女が常任であるはずはありません!!」

「それが、なぜ化け物につながる!!」

 私は知っている。
 彼等が話をしているのが、私の事だと。
化け物、化け物、繰り返されれば心が痛い……。

「私共とて、そこまで精霊に愛されている者が、まさか偽物だとは思いませんとも!」

「お前達に分からぬものを、私が分かる訳ないだろうが!! そして、本物の聖女はどうした……」

「妻を殺した汚らわしい化け物だと、公爵が赤子を殺そうとしたため、弟君が精霊界に逃がしたと……」

 謁見室には不安と苛立ちの感情が乱れた。

「では……この国はどうなる……」

 絶望の混ざった王の声に、誰も答える事は出来なかった。
 そして、誰も責任を取る気はなかった。

 救いのはずだった少女には、何も救う力がない。

 厳しい視線がアリアメアに集まれば、流石に、気の毒にと思った瞬間……。 私は、私の身体の時間を急激に進められ。 5歳の身体が着ていた服を10歳の私が着れるはずもなく、魔力の暴走が体内で起こり、魔力により血管がやぶけ、皮膚から血が溢れ出れば、服もまたドロドロにとけきり、全裸状態の私の身体は、魔力による損傷と回復を休息に繰り返す。

 そして、私は叫ぶ……。

 時空の歪みで生まれるガラスの板に映し出される私の姿は、岩の化け物だったから……。
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