化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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2章 精霊の愛し子

05.私は彼女ではないから……。

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 精霊には、人間の生活が理解できない。

 彼等には寿命はあってないようなもの。 特に時空の精霊であるロノス等はやろうと思えば他人の年齢まで操作できるらしい。 食事は必要としないが娯楽として食べる事はできる。 なので、マナー等は知るはずもない。

 お菓子作りの本を見て焼いたマフィンと紅茶でお茶の時間。
 マナー教師は、鏡に映るアリアメアの教師の記録。 人間のことは分からないと言うロノスは、私がマナー教師と同じ動きが出来るようになるまで、

「ダメ、ダメ、また早い、なんか違うんだよね」

 そんな感じで繰り返す。 もう、幾度となく繰り返された手順。 たぶん、ダメの理由なんてのは気分なのでは? と、私は考えている。

 今でこそ、ダンスを踊れるようになったけれど、ダンスも、お辞儀も、歩き方も、色んな事がそんな感じで教師と同じようにできるまで繰り返された。

「できるまで続けるから。 お腹もすかないし、眠たくもなくしておくよ」

 なんて、私は優しいからねとドヤ顔で言うから、私は精神的に疲れてしまう。 こういう時の特訓時間の時ロノスは時間を止める。

 時間を止めないと、翌朝目を覚ますアリアメアと一緒に起きて、一緒に食事が出来ないから。

 結局、ロノスが満足するようにお茶を入れるまで人間時間で3時間を必要とした。 お茶を注ぐ時の動作に優雅さがないとか言われたら、それだけで何十分と言う作業がやり直しだから。

 ちなみに材料は、植物系であれば種を植え、後は時間を進めればできるのだけど。 どうしても人間が作った方がおいしいから、ロノスが下級精霊に伝えとらせてくる。 採る。 獲る。 盗る。 まぁ、いろいろ……。 日常生活に関わる色々は、ロノスが小精霊達を使い準備してくれるが、自分の欲しいものがあるなら、自分でお金を手に入れる算段をするようにと言われている。

 私が人間だから。

 私が人間だから……。
 ロノスは精霊だから。

 ここは眠りも、食事も本来は必要としないから……。 私は、アリアメアの眠っている時間はひたすら本を読む。 そしてロノスは延々とアリアメアの寝顔を見て過ごす。

「流石、未来の王妃だ。 白くて甘い砂糖のように愛らしい」

 そんなことを口ずさむ。

「アリアメアは、すぐに授業をサボるよ」

「その口調はなんだい? アリアメアを見習ってはどうだい?」

 私は言いなおす。

「アリアメア様は、授業を最後まで終える事がありませんのに、それでもロノスにとっては愛らしい未来の王妃様なんですの? ロノスの大好きな完璧とは程遠くはありませんか?」

「王妃は偉いからいいんじゃない? だけど、君は違う。 君は人と精霊を救わなければいけない。 それには人の助力も必要となる。 なら、人に好かれる行動を覚えておくべきだろう?」

 それは矛盾ではないのかな? 私はそう思った。 アリアメアは、何もかも途中で放り出しだけど、仕方がありませんね。 って、許されている。 なら……人に好かれる行動を覚えたないなら、アリアメアのようにするべきではないのかな?

 そう思っていても言えなかった。 矛盾を矛盾として理解せず。 思ったことを口にする。 彼等に私の思考は理解できないから。

 なぜ、そんな事で私を責めるんだい? 私は何時だって君のためを思って~。 そんな感じで私の性格の悪さを責めだすのだ。

「カワイイねぇ~。 そう、思うだろうレティ」

「そうですね」

 私は視線を落とし、本を読む。 この世の知識、別の世界の知識、好奇心旺盛な精霊達が集めた人の生活へと視線を落とし、ロノスの言葉を聞き流す。

 どれだけの時間がたっただろうか?

 荒い息遣いと、空気の暑さに私は視線をロノスに向けた。

「あぁ、カワイイ……なんてカワイイんだ……」

 ロノスはペロリと舌なめずりをしヌルりとした唾液で、唇を濡らし、少しずつ呼吸を乱す。 こういう時のロノスは妙に爬虫類めいて私は嫌で、そっとその場を後にする。



 私は愛されていない。



 愛されていなくてよかった。



 私の本能がそう告げる。
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