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21.私と言う存在とは?

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「殺されてもって、何を……言っているんですか! そうまでする意味がどこにあるんですか」

 何を、言っているのだろうか? 理解出来なかった。

「君を無理やりに縛ってしまったからね。 できるなら、殺す前に俺の夢をかなえてくれたら嬉しいかな」

「夢ですか?」

「そう、妻と街に行って食事をし、妻のドレスを選び、一緒に観劇を見たり、そうだなぁ……社交界へ顔を出すのも悪くはない。 せっかく妻を得たのだから、そういう当たり前のことをしてみたい」

「私でいいんですか?」

 何しろ全てが成り行き。

「君がいい……あぁ、そうだ……君、名前は?」

「ノエル・ルーマン……。 ……南方にある小さな……領地、村3つ分ほどの領地を持つ男爵家の娘です」

 ズイブンと長い間『フラン・レイバの婚約者』と名乗っていた気がする。 そして、いつの間にか私の存在意義となっていた事を実感し、軽くだがショックを受けた。 だからと言って人は良いが領主には向かない父と母の娘であると伝える事に違和感を覚えてしまう……。

「あぁ、人助けをしたら、とても良い娘を息子のために得る事ができたと。 レイバ辺境伯が喜んでいたのを覚えている。 なるほど、大体の理由は想像がついた。 俺の名は、クルト・クヴァンツ。 そうだなぁ……悪魔公と言えば分かりやすいか」

「それで、私はどうなるんですか?」

「驚かないんだね」

「想像はついていました」

 顔の4分の1を隠す仮面に手を伸ばせば、反射的に私の手を払いのけようとし、そしてクルト公爵はとどまった。

「変わった子だな。 俺が気持ち悪くないのか?」

「別に……。 フレイは本気で怒ると炎を纏って周辺を焼くんです。 それに比べれば平和的です」

 クルト公爵は声に出さず笑った。

「それに、今なら同じ事ができます」

「それは、どういう?」

 クルト公爵との間に交わした契約は、語られるよりも身体の中に感じる彼の魔力が物語っている。 熱っぽい理由は、長旅や、昨日の行為のせいもあるでしょうけど、体内を巡る過剰な魔力も影響している事は実感できる。

 膨大な魔力を持っていないが、私は魔力を使うのは上手いと思う。 何しろ10歳のころレイバ領に住まうようになってから、常に怪我人や病人の相手をしていた。

 溜め込んだ魔力、いっそ外に出してしまえば楽だろうと、私はクルト公爵がしていたように身体から放出した魔力を体表で硬質化させてみせた。

 身体全体が透明な水晶の鱗に覆われる。

「なんだ、コレは!!」

 想像以上にクルト公爵が焦りだし、泣きだしそうな顔で私を抱きしめる。

 彼には色々異名があって、竜になると言うものもあったけれど、体表を硬質化させた魔力で覆うだけで竜になれるはずなどない。

「俺は、なんて……ことを……」

 その声は、絶望と言っても良い声で、私は驚いてしまう。

「どう、されたのですか」

「君を俺と同じ化け物にするなんて、どう詫びればいいのか……」

「ぇ……っと、コレ、剥がせますよ? かさぶたって分かります? それのようなもんですから。 まぁ……それよりも大気に溶かす方が楽ですけど」

 パリンッ

 ガラスの割れる音が、鈴のように響き渡り空気に溶けていく。

「ぇ……」

「公爵の身体にも、もう鱗はないじゃないですか」

 私の不幸を嘆く公爵に私は笑って見せた。

 変な人だ……。

 辺境伯よりも若いが、私よりもズイブンと年上だろう。 悪魔公の噂はよく聞く、というか子供の寝物語として『悪い子は悪魔公に取って食われる』なんて語られるほどだ。

 お日様の下を歩けない存在であるかのように白い肌、だけれど身体はしっかりと鍛えられており、そして血のように赤い瞳と、血を啜ったように赤い唇が印象的であり、年齢と言う概念から外れた存在だと言われれば、時折見せる幼い様子も納得してしまうかもしれない。

 私の言葉にクルト公爵は自分の顔を身体を触れていた。

「どういう、ことだ?」

「さぁ、私は……余り、魔術は……」

 出来るのと、知ることは別だ。 詳しくないと言おうとすれば、私のお腹が激しく健康的な主張をした。

 恥ずかしい……。

 顔を真っ赤にして、布団に潜り込もうとすれば、抱きしめられて邪魔される。

「すまない。 食事も風呂もしたいだろう。 今日はユックリと過ごすといい。 世話をするように伝えておこう」

 もう一度私を抱きしめた後、クルト公爵はベッドの上に私を残し立ち上がった。

「あの、私は、これからどうすればいいんですか!!」

「俺の妻になって欲しい。 とは思うけれど、君……ノエルには色々としてしまったし、色々としてもらった。 コレ以上、無理を言うのも気が引ける。 もし、帰りたいと言うなら、ファローグに、あぁ……レイバ辺境伯の元に無事に送り届けよう」

「あの……」

「なんだい?」

「少し、考える時間を頂けますか?」

「あぁ、いいとも。 いつまでも迷っていていいんだからね」

 そう、男は妙に透明な印象で笑って見せた。
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