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60.買い物デート?

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 人型の晃とデート。

 と言うか、これだと家族と買い物的な感じですね。
 私は心の中で肩を竦めた。

 私のエスコート役はお財布さん……改め藤原先生。 田舎なので先生が日頃注文しているような高級店は無く、私や晃、親良が試着を繰り返し、あれやこれやお互いの好みを語って、着替えてを繰り返していた。

「何故だろう。 オマエ達二人は、本当にスーツが似合わないね」

 どこか呆れたように言う先生だが、それでも正式な仕事用だとスーツを1着ずつ購入されていた。

「こんな事に金を使わなくても、ある程度は自力で再現できる」

「再現は出来ても、妖力で作れば。 勘が良い人は体調を崩しますから、人に合わせる事も重要ですよ」

「俺は部下に送ってもらいますよ」

「以前から思っていましたが、私の護衛をするなら相応の恰好をして下さい」

「晃、晃、次、コレ着てくれます?」

「親良の方が似合うんじゃないのか?」

「俺は大抵何でも似合いますから」

 シンプルな薄い色合いのサマーセーターに麻生地のパンツを合わせる。 コレから暑く成る季節黒ばかりはね……と思った訳。 私の貯金は皎一さんに預け、私は皎一さんのカードを借りているので、晃の服の3つや4つ購入できる。

 溜息と共に晃は試着室に入って行き直ぐに出て来た。

「黒くないね~」

 悪くはないけれど、シンプル過ぎるのかなんだか似合っていないような気がして首を傾げた。

「落ち着かない……」

「だね? 何が悪いんだろう。 装飾品でも加えればいいのでしょうか?」

「こういう生物は、こう言う存在であると言うレッテルが重要になります。 黒になさい。 カラスの妖とはそういうものです」

「なんだかツマラナイものね……。 親良はそう言う問題はないの?」

「俺を何だと思っているんですか……俺は、普通に人ですから、何でも着る事ができますよ?」

 そういうから、清楚なワンピースを差し出してみたら……頬を摘まみ引っ張られた。

「ソレは違うでしょう」

「有言実行は?」

 先生が笑いながら煽ってくる。

「着ませんよ」

 他愛ない会話と買い物。

 サイズ調整をしてもらっている間、お茶をする事にした。 リーズナブルなお値段のカフェ。 店から匂うお茶の香りには香料が混ざっていて……余り美味しそうに感じない。

 もともと良い物を知るようにと味覚は皎一さんに鍛えられていたけれど、最近はご近所さんからのお裾分けを超えるお裾分けに、贅沢になっているからなぁ……。

「どうします?」

 イヤだなぁ~と言う意見の意味合いの質問。

「少しお高めの中華店がありますから、そこで軽食とお茶をしましょう」

 藤原先生の提案にコクコクと頷いた。

 先生もソレなりに食事にはこだわっている人だ。 この中で一番こだわらないのは……晃かしら? 割とジャンクな物を食べたがると言うか……流石にゴミは漁らなけ行けれど、ファーストフードとか食べたがるんですよね。

 中華店へと向かい歩き出せば、結構大きな声で呼び止められた。

「雫さんじゃないですか!! 今日は買い物ですか?」

 声をかけて来たのは、私と年の近い人達。

 女性3人、男性2人。

 女性は薄い色に髪を染め夏向けのファッションの身を包んでいる。 ミュールとワンポイントになっているアクセサリーがカワイイ。 口紅はナチュラルな色だけど、まつ毛は2枚重ねと結構張り切った感じ。 私もチャレンジしてみたいなぁ……。 皎一さんから却下されそうだけど。

 男性2人は晃に却下されたシンプルで涼しそうな恰好をしていた。 シンプルだが……今見て来たばかりだから言える!! 結構お高い……。

「こんにちは新見さん」

 親良に挨拶する女性達。

 私と親良に挨拶をするとなると、共通すべき事は大学で行っていたパソコン教室で知り合っている相手なのだと思う。 あの時期は本当に多くの人とあっていて、葛城ゼミ以外の人の名前どころか顔も覚えていない。

「課題は順調ですか?」

 親良の問いに女性達はキャーキャー言う感じで返事をしていた。

「親良さんにパソコンを習ったおかげで順調ですぅ~」

「それは、良かった。 俺も教えたかいがありますよ」

 殆ど記憶に残らないパソコン教室で出会った人たちだけど1人だけは……記憶に残っていた。 まぁ、パソコン教室以前に出会っていたからと言うか、少しばかり衝撃的な出会いだったからだけど。

 そう、車でナンパをしてきた人。
 えっと……江崎波留でしたよね?

 彼は、カラスに怯える事は無かった。 むしろ、カラスによる攻撃ともいえる行動を喜んでいた。 だから覚えている。

「皆さんも買い物ですか?」

 車ナンパの青年改め江崎が、いつの間にか私の横まで来て問いかけて来た。 反対側には先生がいて、一歩下がった後ろには晃と親良。 女性達は若い2人の方に集まっていて、先生は見事無視されている。

 心理学講座の人ではないから、仕方がないのかな?

 分からない名前を避けながら、無難な会話で済ませようと考えていたのだけど、向こうから少し強い口調で聞いていた。

「雫さんは、そちらの臨時講師の方とどういう関係なんですか?」
 胡散臭いと言われているような……。

 先生が大学の臨時講師としてきた頃から、私は大学に行くのを控えていたため、知り合いと言うのは広まっておらず、多分、初めての問いかけだと思う。 名前も知らない相手だけど、患者だと知られるのは嫌だなぁ……。

 心理学、精神科、神経内科、まぁ……その手の医療は日々受け入れられているけど、やっぱり偏見の目で見られそうで……イヤだなぁ……なんて考えながら先生のスーツの裾を掴み一歩下がってしまった。

 自分で適当な言い訳をすればよかった!!

 と、気づいたのはあとの祭り?

「親戚関係……姪っ子のようなものです」

 ここで、偽造されたのはパパ教授と藤原先生の親戚説。 顔立ちは全然似ていませんけどね。

「えっと、だと新見さんのお兄さんって事になるのでしょうか?」

「うちは代々、子供の多い家系なので……年の離れた従兄弟と言えるかもしれません」

 曖昧な言葉で先生は返している。

「えっと、でしたら、そちらの男性も?」

 視線が、いっせいに晃へと向けられていた。

「俺は、雫の……婚約者だ」

 攻撃的な江崎の視線が、晃へと向けられた。
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