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57.解体の考察 01
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「オマエが、犯人か?!」
森山刑事が声を震わせ言うから、私達は何故そうなるって感じで呆れてしまう。
面倒臭い問答が始まるのかと思ったが、悲痛な彼の同僚……山田刑事の叫びで、森山刑事は崩れ落ちるように床に膝をついた。
「先輩!! 止めて下さい!! 本当にそう思っているんですか?! 説明をされ、状況を見れば……俺にだって理解できる。 俺達の捜査は間違っていた……俺達は知識も経験も無いずっと空回り、犯人への怒りだけで何も考えずに捜査を続けて来た。 先輩の彼等への態度は……八つ当たりにしか見えませんよ!!」
余程感情移入をしていたのか、慣れない捜査に限界だったのかは分からない。 彼等は、謝罪と共に帰って行った。 色々と見直さなければいけない事があると言い訳を残して……。
「大人の男の人も泣くのね」
結局、晃と親良は、今日課せられるはずだった仕事を藤原先生の部屋から出る事なく、終えてしまったことになる。 先生と2人きりにならなかった事に、少しだけホッとした。
そして、私達は結局部屋から出る事はなく、ルームサービスで注文した昼食を食べている。
散々、肉の写真を見ていたのに、国産牛ステーキ重を頼む3人は……強い。
因みに、私は卵サンドを頼んだ……。
そんな昼食中の会話である。
「泣くでしょう。 晃なんかよく泣いていましたよ」
今は既に妖カラスに戻った晃が、クエッ?!と声をあげた。
もっと……人の姿を見ていたかった。
カラスとは違う温もりと、私に触れる手。
思い出してドキドキして、今はとても心地よい黒モフモフに戻っているのに……なんだか残念に思えてしまう。
「泣くのですか?」
私は妖カラス本人ではなく親良に聞きながら、妖カラスの首元に手を伸ばし撫でる。
「声を上げて泣く事はしませんでしたけど。 なかなか揺さぶられるものがありますよ」
そう静かに微笑んで見せる親良に、嫉妬を覚えてしまう。
私も、見て見たいなぁ……晃が泣いた姿。
「止めろ……」
呻くような妖カラスの声に、撫でる手を離せば、そうじゃないと平和な会話が続く。
「晃は泣く事への突っ込みを止めて欲しがっているのですよ」
「そう、でも……親良ばかりズルイです」
「私も見たことがありますが?」
先生も参戦?
「え~~、ズルイなぁ……」
拗ねたように言えば、妖カラスの瞳が、本当やめてくれとでも語っているように見えた。 そして、妖カラスは嘴を肉に突っ込む。
可愛いなぁ~~。
コレはコレで嫌いではないのよね……でも……妙にドキドキとしたあの感じも……。
藤原先生がクスッと笑う。
「先生、今回の事件も事前にご存じだったのですか?」
心を覗き見られたかのような気分に焦り私が聞けば、親良が苦笑いをする。
「ストレートに聞きますね~~」
「3割ほどの確立です」
「それは、藤原先生が答えをくれる確率ですか?」
「はい」
「先生、雫に甘くないですか?」
驚いた表情の親良。
私は不思議そうに親良を見る訳で……。
そんな私達を見て藤原先生は静かに笑う。
「何も考えずに答えを求めるなら相手にしない。 ですが、返事をする事で状況が動くなら私だって出し惜しみはしないさ」
「それで、今回の事件は? 知っていたのですか?」
「柑子市に保管されている過去のデータには、彼のような欲求を持つ人物の記録はありませんでした」
「犯人は誰なんですか?」
私の問いは適度に無視をされた。
「後天的発症者。 成熟過程になんらかの転換期を経て、他者の感情への共感性を失い、罪悪感を覚える事がなくなった人物」
先生は食後のコーヒーを静かに飲み語る。
「人格に影響を与えるための事件に遭遇した人と言う事ですか?」
私が問えば、先生は微笑む。
「事件とは限らない。 多感な年ごろでは些細な事柄であっても精神的なダメージを受けます」
「物事の捉え方は人によって違いますから……難しいですねぇ……」
親良が小さく呻いた。
「そうですね。 そして、彼は価値観の変革期を迎えた。 ですが、行動は変わっても、その人物が持つ癖、好み、生活習慣等は、変化するものではありません。 例えるなら、死体処理の方法が変化しても、積み重ねられた解体技術が失われる事が無いように」
「それは、女子連続失踪事件の加害者の身に変化が起きたと言う事ですか?」
晃は静かに肉を食べていて、先生に質問するのは私と親良の2人。 だけど先生が語り掛けるのは、私と親良に向けてではなく晃に向けてだった。
「まぁ、頑張りたまえ……君達の捜査が遅れるごとに被害者は増え続ける。 犯人は、女性を殺すたびに絶望し、飢え、渇望し……欲求を強めている。 次の犯罪は直ぐだ……」
森山刑事が声を震わせ言うから、私達は何故そうなるって感じで呆れてしまう。
面倒臭い問答が始まるのかと思ったが、悲痛な彼の同僚……山田刑事の叫びで、森山刑事は崩れ落ちるように床に膝をついた。
「先輩!! 止めて下さい!! 本当にそう思っているんですか?! 説明をされ、状況を見れば……俺にだって理解できる。 俺達の捜査は間違っていた……俺達は知識も経験も無いずっと空回り、犯人への怒りだけで何も考えずに捜査を続けて来た。 先輩の彼等への態度は……八つ当たりにしか見えませんよ!!」
余程感情移入をしていたのか、慣れない捜査に限界だったのかは分からない。 彼等は、謝罪と共に帰って行った。 色々と見直さなければいけない事があると言い訳を残して……。
「大人の男の人も泣くのね」
結局、晃と親良は、今日課せられるはずだった仕事を藤原先生の部屋から出る事なく、終えてしまったことになる。 先生と2人きりにならなかった事に、少しだけホッとした。
そして、私達は結局部屋から出る事はなく、ルームサービスで注文した昼食を食べている。
散々、肉の写真を見ていたのに、国産牛ステーキ重を頼む3人は……強い。
因みに、私は卵サンドを頼んだ……。
そんな昼食中の会話である。
「泣くでしょう。 晃なんかよく泣いていましたよ」
今は既に妖カラスに戻った晃が、クエッ?!と声をあげた。
もっと……人の姿を見ていたかった。
カラスとは違う温もりと、私に触れる手。
思い出してドキドキして、今はとても心地よい黒モフモフに戻っているのに……なんだか残念に思えてしまう。
「泣くのですか?」
私は妖カラス本人ではなく親良に聞きながら、妖カラスの首元に手を伸ばし撫でる。
「声を上げて泣く事はしませんでしたけど。 なかなか揺さぶられるものがありますよ」
そう静かに微笑んで見せる親良に、嫉妬を覚えてしまう。
私も、見て見たいなぁ……晃が泣いた姿。
「止めろ……」
呻くような妖カラスの声に、撫でる手を離せば、そうじゃないと平和な会話が続く。
「晃は泣く事への突っ込みを止めて欲しがっているのですよ」
「そう、でも……親良ばかりズルイです」
「私も見たことがありますが?」
先生も参戦?
「え~~、ズルイなぁ……」
拗ねたように言えば、妖カラスの瞳が、本当やめてくれとでも語っているように見えた。 そして、妖カラスは嘴を肉に突っ込む。
可愛いなぁ~~。
コレはコレで嫌いではないのよね……でも……妙にドキドキとしたあの感じも……。
藤原先生がクスッと笑う。
「先生、今回の事件も事前にご存じだったのですか?」
心を覗き見られたかのような気分に焦り私が聞けば、親良が苦笑いをする。
「ストレートに聞きますね~~」
「3割ほどの確立です」
「それは、藤原先生が答えをくれる確率ですか?」
「はい」
「先生、雫に甘くないですか?」
驚いた表情の親良。
私は不思議そうに親良を見る訳で……。
そんな私達を見て藤原先生は静かに笑う。
「何も考えずに答えを求めるなら相手にしない。 ですが、返事をする事で状況が動くなら私だって出し惜しみはしないさ」
「それで、今回の事件は? 知っていたのですか?」
「柑子市に保管されている過去のデータには、彼のような欲求を持つ人物の記録はありませんでした」
「犯人は誰なんですか?」
私の問いは適度に無視をされた。
「後天的発症者。 成熟過程になんらかの転換期を経て、他者の感情への共感性を失い、罪悪感を覚える事がなくなった人物」
先生は食後のコーヒーを静かに飲み語る。
「人格に影響を与えるための事件に遭遇した人と言う事ですか?」
私が問えば、先生は微笑む。
「事件とは限らない。 多感な年ごろでは些細な事柄であっても精神的なダメージを受けます」
「物事の捉え方は人によって違いますから……難しいですねぇ……」
親良が小さく呻いた。
「そうですね。 そして、彼は価値観の変革期を迎えた。 ですが、行動は変わっても、その人物が持つ癖、好み、生活習慣等は、変化するものではありません。 例えるなら、死体処理の方法が変化しても、積み重ねられた解体技術が失われる事が無いように」
「それは、女子連続失踪事件の加害者の身に変化が起きたと言う事ですか?」
晃は静かに肉を食べていて、先生に質問するのは私と親良の2人。 だけど先生が語り掛けるのは、私と親良に向けてではなく晃に向けてだった。
「まぁ、頑張りたまえ……君達の捜査が遅れるごとに被害者は増え続ける。 犯人は、女性を殺すたびに絶望し、飢え、渇望し……欲求を強めている。 次の犯罪は直ぐだ……」
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