49 / 73
06
46.真実の自分 01
しおりを挟む
晃と親良の2人は、上田のバイト先の1つへと向かった。
沙織とミケが事前情報を与えてくれていた。
大学の近くにある洋食屋。
量が多いが、低価格。
味は、可もなく不可もなく。
若く綺麗な女性が多く雇われているが、全員子持ち。
客のいない準備時間を狙って急ぎ訪問した。
隣家に面した小さな庭先には小学生と思われる子供が数人ソレゾレ好きな事をしている。
「何をしているのでしょう?」
時間は10時少し前。
授業は当然始まっている。
「子供を預かっているんだろう」
店の前を通り過ぎ駐車場へと向かう途中、店の入り口には『子ども110番』のステッカーが貼られている。 それだけ見れば子供好きの店主が経営している店だろう。
「晃、飲食店にカラスは連れ込めません? その姿、なんとかなりませんか?」
「無理だ。 上手く化けられない。 隠れて一緒に行く」
そう言うと同時に親良の影に黒いカラスの色が重なり、そして溶け消えた。 時折赤い目がチラチラと影に見え……晃の存在を親良は実感する。
「すみません」
「開店はまだだよ!!」
不機嫌そうな男の声は厨房から。
そして、清掃をしている女から歓喜の混ざった騒めき。
女達の声に反応したか、店主が顔を出してきた。
不快な顔から一転笑顔を見せる店主。
「もしかしてバイトの応募かね」
「いえ、上田達也と言う男について知りませんか?」
「急にバイトを止めるって言われてコッチも困っているんだよ。 アンタ、上田の知り合いなら責任とって準備ぐらい手伝ってくれないか?」
ニヤニヤと笑っていた。
ただで話を聞けると思うな。 そんな感じだろうか?
「では、話しを聞く間手伝いましょう」
親良は厨房に向かい、野菜の下ごしらえの説明を受け、野菜の皮をむき始める。
「それで、上田達也についてですが……」
言葉は店主にさえぎられた。
「へぇ、アンタいい手つきしてるなぁ~。 顔もいいし給仕も手伝って行ってくれないか?」
「勘弁してください。 ゼミでグループを組んでいるのに連絡が取れない!! そう言って妹が心配だと騒いでいるんです。 久々の休みに駆り出され俺も迷惑しているんですよ」
そう言って親良は肩を竦めてみた。
「へぇ、で、兄ちゃん仕事は?」
「上田達也は、無断欠勤を?」
「教えて欲しければ……」
親良はズボンの裾を引かれた気がした。
視線を落とせば、影の中に赤い瞳を見た気がする。
「これ以上、ココに留まる必要はないようですね」
そう言って親良は包丁を置く。
「連絡先を教えてくれないか? 上田から連絡が来たら教えてやるからさぁ~」
ヘラヘラとした愛想笑いを店長は親良に向けた。
「いえ、必要ありません。 アナタに連絡が来るなら、妹の方にも当然連絡が来るでしょうからね」
そう言って店を出た親良。
親良は駐車場から近くのパチンコ店に車を移動させ、洋食店の雇用状況を確認すると同時に、近隣の不登校児の情報を調べれば、オープンスペースに居た子供達は、店長やバイト女性の子供達だと言うのが分かった。
「助成金の申請までちゃっかりと……と、言うかコレを目的にした求人をかけているのか?」
女性の職場進出はここ何年も社会的な課題となっている。 ようするに課題としなければならないだけの問題がそこにあるのだ。 そして、それらには助成金が定められている場合がある。
「明らかに助成金を目的とした書類の偽装が見られますね……」
助成金の一部を報酬として、代理申請をする者の存在は少なくはない。
不正は確実だが、今は関係がない。 と、親良は割り切らなかった。 店主の態度が気に入らなかったから……というのが大きいだろう。 本部にいる部下に告発をしておくようにと伝えた。 そうこうしているうちに晃が戻ってきてコツコツと嘴で窓を叩く。
助手席の扉を開きながら親良は言う。
「おかえり」
「ただいま」
親良が去った後、
上田達也の情報を調べに、顏の良い男が来たと噂になっていた。 上田達也は何をした? どうした? 彼にもう一度連絡を取る方法は? そんな会話がなされれば上田達也の噂にも当然のようにつながると言うものだ。
「バイトの方だが、実家の両親が事故にあったから大学を辞めると連絡があったそうだ」
「嘘ですね。 彼の実家の両親、祖父母、弟妹達、全員が健在であると確認済です」
「問題は本人が連絡をしてきたところだろう」
「残りのバイト先も調べてきましょう」
そして残り2件のバイト先も巡り事情を集めて来た。
どのバイト先でも上田達也本人がバイトを辞めると連絡してきたと言う。
「こっちにも都合があるんだ、急に止めると言われても迷惑なんだ!! アンタ、上田の知り合い? なら責任をとって……」
そんな会話が行く先々で繰り返され、結局影に潜んだ妖カラスが噂話を集める事が情報収集の要となっていた。
「任せてばかりで申し訳ありませんね」
「いや、適材適所だ」
「結局、本人の意志だった事が確定されただけですね」
苦笑紛れに親良が言えば、
「すべての情報に意味があると考えるべきだろう?」
「なぜ、そんなに……」
真剣なのだ? と、親良は声に出さなかったが思わずにはいられなかった。
「そういえば、オマエの顔面のお陰で皆口が軽くなっていた。 なかなか便利な顔だな」
「失礼な言い方ですね」
そう言いながらも親良は笑っている。
「得もあるだろう。 誇って居ろよ」
笑う事は、良い気分転換、空気の変換となった。
だが、話しは直ぐに戻る。
「結局、分かった事は、バイトを辞めたのは本人の意志と言うこと。 その理由の全てが嘘。 彼は善人、良い人……周囲からは、そう都合の良い人と思われていた」
妖カラスの声には、同情、自虐、見下し、嫌悪、様々な感情が渦巻いていた。
「そこから何が分かります?」
妖カラスが、息苦しそうに毛並みに空気を含ませ身震いをしてみせる。
「親良は、上田達也が本当に善人だったと思うか?」
沙織とミケが事前情報を与えてくれていた。
大学の近くにある洋食屋。
量が多いが、低価格。
味は、可もなく不可もなく。
若く綺麗な女性が多く雇われているが、全員子持ち。
客のいない準備時間を狙って急ぎ訪問した。
隣家に面した小さな庭先には小学生と思われる子供が数人ソレゾレ好きな事をしている。
「何をしているのでしょう?」
時間は10時少し前。
授業は当然始まっている。
「子供を預かっているんだろう」
店の前を通り過ぎ駐車場へと向かう途中、店の入り口には『子ども110番』のステッカーが貼られている。 それだけ見れば子供好きの店主が経営している店だろう。
「晃、飲食店にカラスは連れ込めません? その姿、なんとかなりませんか?」
「無理だ。 上手く化けられない。 隠れて一緒に行く」
そう言うと同時に親良の影に黒いカラスの色が重なり、そして溶け消えた。 時折赤い目がチラチラと影に見え……晃の存在を親良は実感する。
「すみません」
「開店はまだだよ!!」
不機嫌そうな男の声は厨房から。
そして、清掃をしている女から歓喜の混ざった騒めき。
女達の声に反応したか、店主が顔を出してきた。
不快な顔から一転笑顔を見せる店主。
「もしかしてバイトの応募かね」
「いえ、上田達也と言う男について知りませんか?」
「急にバイトを止めるって言われてコッチも困っているんだよ。 アンタ、上田の知り合いなら責任とって準備ぐらい手伝ってくれないか?」
ニヤニヤと笑っていた。
ただで話を聞けると思うな。 そんな感じだろうか?
「では、話しを聞く間手伝いましょう」
親良は厨房に向かい、野菜の下ごしらえの説明を受け、野菜の皮をむき始める。
「それで、上田達也についてですが……」
言葉は店主にさえぎられた。
「へぇ、アンタいい手つきしてるなぁ~。 顔もいいし給仕も手伝って行ってくれないか?」
「勘弁してください。 ゼミでグループを組んでいるのに連絡が取れない!! そう言って妹が心配だと騒いでいるんです。 久々の休みに駆り出され俺も迷惑しているんですよ」
そう言って親良は肩を竦めてみた。
「へぇ、で、兄ちゃん仕事は?」
「上田達也は、無断欠勤を?」
「教えて欲しければ……」
親良はズボンの裾を引かれた気がした。
視線を落とせば、影の中に赤い瞳を見た気がする。
「これ以上、ココに留まる必要はないようですね」
そう言って親良は包丁を置く。
「連絡先を教えてくれないか? 上田から連絡が来たら教えてやるからさぁ~」
ヘラヘラとした愛想笑いを店長は親良に向けた。
「いえ、必要ありません。 アナタに連絡が来るなら、妹の方にも当然連絡が来るでしょうからね」
そう言って店を出た親良。
親良は駐車場から近くのパチンコ店に車を移動させ、洋食店の雇用状況を確認すると同時に、近隣の不登校児の情報を調べれば、オープンスペースに居た子供達は、店長やバイト女性の子供達だと言うのが分かった。
「助成金の申請までちゃっかりと……と、言うかコレを目的にした求人をかけているのか?」
女性の職場進出はここ何年も社会的な課題となっている。 ようするに課題としなければならないだけの問題がそこにあるのだ。 そして、それらには助成金が定められている場合がある。
「明らかに助成金を目的とした書類の偽装が見られますね……」
助成金の一部を報酬として、代理申請をする者の存在は少なくはない。
不正は確実だが、今は関係がない。 と、親良は割り切らなかった。 店主の態度が気に入らなかったから……というのが大きいだろう。 本部にいる部下に告発をしておくようにと伝えた。 そうこうしているうちに晃が戻ってきてコツコツと嘴で窓を叩く。
助手席の扉を開きながら親良は言う。
「おかえり」
「ただいま」
親良が去った後、
上田達也の情報を調べに、顏の良い男が来たと噂になっていた。 上田達也は何をした? どうした? 彼にもう一度連絡を取る方法は? そんな会話がなされれば上田達也の噂にも当然のようにつながると言うものだ。
「バイトの方だが、実家の両親が事故にあったから大学を辞めると連絡があったそうだ」
「嘘ですね。 彼の実家の両親、祖父母、弟妹達、全員が健在であると確認済です」
「問題は本人が連絡をしてきたところだろう」
「残りのバイト先も調べてきましょう」
そして残り2件のバイト先も巡り事情を集めて来た。
どのバイト先でも上田達也本人がバイトを辞めると連絡してきたと言う。
「こっちにも都合があるんだ、急に止めると言われても迷惑なんだ!! アンタ、上田の知り合い? なら責任をとって……」
そんな会話が行く先々で繰り返され、結局影に潜んだ妖カラスが噂話を集める事が情報収集の要となっていた。
「任せてばかりで申し訳ありませんね」
「いや、適材適所だ」
「結局、本人の意志だった事が確定されただけですね」
苦笑紛れに親良が言えば、
「すべての情報に意味があると考えるべきだろう?」
「なぜ、そんなに……」
真剣なのだ? と、親良は声に出さなかったが思わずにはいられなかった。
「そういえば、オマエの顔面のお陰で皆口が軽くなっていた。 なかなか便利な顔だな」
「失礼な言い方ですね」
そう言いながらも親良は笑っている。
「得もあるだろう。 誇って居ろよ」
笑う事は、良い気分転換、空気の変換となった。
だが、話しは直ぐに戻る。
「結局、分かった事は、バイトを辞めたのは本人の意志と言うこと。 その理由の全てが嘘。 彼は善人、良い人……周囲からは、そう都合の良い人と思われていた」
妖カラスの声には、同情、自虐、見下し、嫌悪、様々な感情が渦巻いていた。
「そこから何が分かります?」
妖カラスが、息苦しそうに毛並みに空気を含ませ身震いをしてみせる。
「親良は、上田達也が本当に善人だったと思うか?」
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる