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41.子の不満、親の不満

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 藤原法一助教授の問いに妖カラスが答える。

「どちらの犯人も、入念な調査……いや、接触を繰り返した後に連れ去っている。 なんらかの痕跡は残っているはずだ。 ソレに気づくかどうかが問題ではあるが」

 私は肩に乗る妖カラスに話しかけた。

「小学生の子の方は聞き込みをしていましたし、捜索がされているなら捕まるのではありませんか?」

「そうだな……。 いや、えっと、どこだ? あぁ、コレコレ」

 一枚の書類を示す。

「捜索願いから1週間ほどで子供達は帰ってきているから失踪届に記載されていない」

「えっと……捜索願が出されたら戻って来ると?」

「そういう事だ」

「どういう事なのでしょうか?」

「この犯人は、親に問題がある子供を狙っている。 親に問題があれば親は捜索願を出さないし、出せない。 実際に、捜索願が出された子供は数日後に発見され、祖父母か離婚した父母に引き渡されている。 だから前例に沿って言うなら、その子は戻って来る。 なので俺達は上田の現状を把握に動くのが良いだろう」

「うん」

 良く分からないままに頷けば、妖カラスは首を傾げ考えていた。

「大学生男子となると、本当に行方不明でも優先順位は低くされる。 特に苦学生で大学に通いバイトにも励んでいたとなれば、なんらかの悩みはあっただろうと。 落ち着けば帰ってくるだろうとシバラク様子を見る。 だから、とりあえず上田に連絡を取る事を優先しなければいけない。 連絡が取れなければバイト先への確認だな」

「大学生の誘拐事件の方は、何時もは女性らしいですよ」

 親良がそう言いながら、失踪者リストではなく大学の退学・休学リストをたどり医療記録、住民票移転、電子取引が行われていない人間……ようするに痕跡が見当たらない人間をリストにした資料をテーブルの上に置いた。

「なるほど……どことなく似ていないか?」

「あれ?」

「どうした? 雫」

「大学失踪者リストの女性が、今、捜索かかっている小学生の子と似ているような気がして……」

「少し待ってください。 最近失踪した小学生女児の資料は……あぁ、コレですね」

 親良が手にしていた書類の束から3枚の紙がテーブルの上に置かれた。

 篠崎礼美(10) 身長、体重、失踪時の服装が掲載されている。 身長は調べた時点で既に158センチあり、体重は36キロと細身。 特出すべきはモデル事務所に所属しており、化粧をしたモデル活動時の写真が、女子大生失踪者達と同系列の顔立ちをしているように見えた。

「コレは……、もしかして逆か? 女子大生誘拐事件の犯人に攫われたのはこっちの篠崎麗美で、小学生誘拐の方に攫われたのが上田の可能性もあると言う事か?」

「両方とも、大学生誘拐事件の犯人がって事は?」

「ソレは無い。 どちらも事前の誘拐の頻度、感覚から言って随分長い調査期間をとっている。 それに女子大生誘拐事件の方は失踪前に必ずと言って良いほど、高価な持ち物がSNSの記録に残されていた。 資料はコレな。 例え性別が異例であったとしても、上田にそんな痕跡は?」

「ありませんでしたね」

「誘拐の法則にあっていない」

「でも、上田さんは小学生誘拐犯の条件にもあっていないのでは? 大学生男子で自立していますし……簡単に誘拐できそうにありませんよ?」

「どうだろうな……小学生誘拐の方は、小学生ながらSNSを利用しSOSを配信している」

「それは正しい行動では? でも、まぁ、教師や児童相談所に相談すればいいのにとは思いますが」

「教師側の資料を見る限り、親にも問題があるが、子供にも問題行動が見られたとある。 周囲を見下し馬鹿にし、口喧嘩、罵り、暴力行動が見られた。 教師からも注意が行われていたが改善なし。 登校拒否を行ってからのSNSの記録は、周囲ば馬鹿過ぎて自分を理解してくれないと不満を言っている」

「少し早い中二病って奴?」

「そう考えるのが普通なんだろうが……、SNSの小学生の登録は基本禁止されている。 その時点でスマホ、パソコンを自由にさせていると言う一種恵まれた環境にある。 そんな中での不満だ……」

【子の視点からの不満】
 両親共稼ぎで、帰ってくるのが遅い。
 何もしてくれないのに、親が過干渉過ぎる。
 他の兄弟と比べ差別されている気がする。
 同級生達は自分を理解してくれない。
 食事が粗末、出来あいのもので不満。
 親、家族の愛を感じない。
 自分は孤独だ。
 などなど

【親の不満】
 反抗的な子の対応に困っている。
 学校に行かないから日中どうしているか不安。
 三食家で食事をとるため、手間と費用が掛かる。
 子供の将来が心配。

「親の方は現実から目を背ける大義名分を仕事に求め始め子供から逃げ始める。 子供の方は、親の不理解に対してストレスを大きくしていく。 で、大人への不信感が出来上がる。 まぁ……一部のパターンだが……。 そういう相手は誘拐の対象になっていない」

「本人に危険が無いから?」

「……いや……本人の悲劇とは裏腹に、彼等は特別ではないから、かな。 問題があるのは、祖父母の援助がある、母親が正社員ではない、生活は出来るが贅沢は出来ず子供には危険なSNS等に近寄らせたくないとスマホを買い与えていない。 そして、不登校対してカウンセリングの形跡があり、親、教師、世間的な評判も良い子とされている」

「危険に思えない……ね」

「それでも親の干渉をかいくぐり、SNS内で的確な相談を行っている。 ようするに、感情的でも衝動的でもなく、周囲の目をしっかりと理解し物を考えて行動しているんだ。 年齢を抜きにして上田はどうだ?」

「誰かに自分が不幸だと相談しているのは聞いた事はありませんが、あてはまっているような気がします。 えっと、私が知っている上田と言う人は」

 正義感がある。
 無茶な行動はしない。
 面倒見はいいけど、無茶は引き受けない。
 存在感が薄い。
 バイトの掛け持ちをして学費、生活費を稼いでいる。

「こんな感じでしょうか?」

「親良、雫のこういうのはどれだけ信頼できる?」

「失礼なカラスですねぇ~」

「雫ちゃんには友達が居ませんでしたが、常に友達をほしがっていたので観察は良くしている方だと思いますよ」

 親良がニッコリと笑って言うか、側にあった豪華な刺繍入りのクッションを投げつけた。

「子供の捜索は警察に任せ、俺達はまず上田の所在確認を行い、バイト先を中心に彼の生活圏内を探った方がよさそうだな」

「子供の方はいいの?」

「あぁ、前例通りであれば……もう死んでる。 だろう? 先生」

 妖カラスの問いかけに、藤原先生は満足そうに微笑んでいた。
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