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26.妖に飲みにケーションは効果抜群らしい 03

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 親良がパパ教授達と面識があることもあり、挨拶は適当に済まされた。

 縁側に調理済の料理と酒が持ち込まれる。

 大学内で生き生きと生えていた雑草は、家守をしている小さな妖達が、今もせっせと処理をしてくれている。 ただで労働させるのは後が怖いですし……お供え物として私はパパ教授の酒を小皿に注いで地面に置き、少し多く作った料理も地面に並べる。

 そうすると、草むしりの速度が上がりだした。

「彼等は心優しい存在だから余計な心配はいりません。 さぁ、そのお酒をこちらに渡してください」

 パパ教授が真剣な様子で迫ってくる程度に良い酒ならしい。
 飲まないから良く分からないのですよね。

「彼等はパパ教授に甘いだけです。 妖は付き合い方を間違えたら大変なんですからね、襲われたらどうしてくれるんですか!! だからダメ」

 プイッとソッポを向いて見せた。

「なら、せめて、コッチの酒で!!」

 そう言って差し出されたパック詰めの焼酎を却下すれば、親良が笑いだす。

「本当元気そうだね。 まぁ、雫ちゃんは晃がいるから被害にあう事は無いでしょう」

 その晃はと言えば、今は妖カラスの状態に戻っている。 妖らしい妖の姿の方が教授は喜ぶだろうと言う理由からなのだけど、触らせて欲しいと願うパパ教授の願いは激しい突き攻撃で拒否されていた。

「四六時中一緒にいるとも限らないでしょう。 先住民がいるから他のカラス達も来ませんし」

 だからこその不安だってあった訳ですし……。

「マーキングがあるから大丈夫でしょう。 克己さんもそうでしょう?」

 親良の問いに酒をちびちび飲んでいた克己が慌てた。

「ぇ、私? まぁ、そうだねぇ……。 晃君の主張が激しすぎて、うちのは少しばかりイライラしてはいるけど、お互いの縄張りを干渉しなければ平気でしょう」

「そういうもの?」

 晃本人に聞けば、カラスが首をかしげていた。

「さぁ? 俺は色々と疎いものでな」

「そういう存在なのに?」

「俺の事が知りたい?」

 カラスなのに、カラスなのに、良い声で囁くな!! と叫ぶのは我慢した……耳に悪いのです……。 いくら妖だとしてもカラスに翻弄されるなんてのは……どうにも許せないと言うものだ。

「はいはい、折角の飲みの場です。 楽しく飲もうじゃないですか。 うちに身を寄せる多くの自然物たちは、賑やかなのが好きな子が多いですからね」

 夕暮れ時。

 空が赤から紺へと色を変えていけば、ぽっ、ぽっ、と小さな妖が発光する。 知らない人が見たらきっと大変ですよねぇ~~。 と、心の中で呆れていたのは秘密。

 他愛ない会話と共にパパ教授は、炭火で鮎を焼き続けていて順番に振る舞われる。

「皎一君からは、雫君を含め3名を保護して欲しいと頼まれています。 学生寮として使おうと思っていた時期もありますし遠慮せずに過ごしてください。 あと皎一君からの伝言です親良君。 親良君と晃君には皎一君のカードを1枚ずつ送るからソレが来るまでは、自分のカードもスマホも痕跡をたどれそうなものは使用禁止との事でした」

「まぁ、俺は持ってないがな」

 晃がポツリと言うが、カラスはスマホをどこに持ち歩くのでしょうね?

「なるほど……この機会に新車でも買うのも悪くないですよね……」

 ニヤリと悪い表情をする親良。

「車を買うなら、ファミリーカーにするようにと言っていましたよ」

「……」

「コチラは車が無いと生活できませんからねぇ~予測済と言う奴ですね。 ところで晃君はどの程度飛べるのですか?」

 晃はカラスの姿だけど、器用にビールを飲み色々と料理を食べていた。 

「さぁ? 素面の時にでも計測してみますよ」

 素面の時と言うか、今は食べて飲んでが忙しいからが本音なのでは? と思う訳です。



 くちゅん!!



 少し寒くなってきた。

「大丈夫かい? 雫ちゃん。 温かな飲み物でもどう?」

 そう言って温かな酒を渡してくる克己。

「未成年ですから……上着をとってきます」

 室内に戻ろうとすれば、カラスの羽根に包まれたかと思うとソレが上着になった。

「……ありがとうございます」

 軽くて暖かい……。

「おや、羨ましい。 私にも一着作ってくれませんか?」

 そう言ったのはパパ教授。

「雫限定だ」

「それは、残念ですねぇ」

 妖カラスが首をかしげながら、ちょんちょんとジャンプしながら親良の方へと向かっていく。 何をするのかと思えば、風下で隠れるように煙草を吸っている親良から煙草を奪いとっていた。

「カラスになってまで吸うんですか……」

 呆れたように言う親良と、強奪するカラス。

「習慣だ、習慣」

「ソレに今の俺は財布も給料も無い。 諦めろ」

「……経費で落ちると良いのですが……」

「なんか、仲良しで羨ましいぞっ」

 ガシッと背後から妖カラスを掴み抱き上げれば、銜えたばこのまま文句を言われた。

「火が危ない」

「大丈夫、ソレぐらいすぐに治るから」

「治るのと痛くないのは別だろう」

 そう言って、一気に煙草を吸いきった。

「肺に悪そうな吸い方です」

 不満そうに言えば、私の言葉に親良が続く。

「勿体ない吸い方をしないでくださいよ」

「もうどこに肺があるかわかりゃしないからな」

「そう言えば、晃君は少し前まで人間だったんですよね」

 パパ教授が言えば、妖カラスは溜息をつく。

「姿こそこれだが、俺は俺以外の何物でもない……」

 そう言いながら赤い瞳で私を見て来た。

「何?」

「こんな姿でも、受け入れてくれた事に感謝する」

 真剣に言われればなんだか少し気まずかった。

「……いえ……」

 受け入れるも何も私にとってカラスは家族で、一番の味方だったわけで……晃だからという訳ではなくて……でも、こういうのは言わない方が良いんですよね?

「そう言えば、ゼミの方に刑事が聞き込みに来ていたそうだね」

 克己が言う。

「ぁ、はい」

 私はその時の様子、会話を説明した。
 沙織さん……怒るかなぁ……とか思いながらも、包み隠さず話をする。

「あぁ、あの子の事ですか。 私も纏わりつかれた事があるけど、動揺せずに通報するふりをすれば去っていくんだよね。 やっぱり学生は対応が甘いなぁ~。 迷惑な子だったけど無事に見つかるといいねぇ……両親は純粋に心配しているだろうし」

 克己に声をかけていたと言う事は、学生だけに声をかけている訳ではないのですね。 でも……単純に面食いと言う可能性もありますか……。

「ご飯も食べさせていないのに心配って、もしかして、親に言われてやっていたとか?」

「あぁ、ソレは誤解ですよ雫ちゃん。 余りにも生徒が被害にあうんで、児童相談所から保護者に連絡を入れて貰ったところ、保護者に問題があるのではなくて、あの状況で自分が特別な存在になって誰かを従える状況が快楽だったようです」

「両親は止めなかったのか?」

 こう聞いたのは晃。

「うちの子に限ってそんな事をするわけがない。 証拠を出せ。 と言う感じで取り合ってはもらえなかったと言う話でしたね~」

 雑談と、酒と料理に、夜は更けていく。

 行方不明の少女の話は、パパ教授も克己も色々聞いていたらしく、その話を聞くたびに沙織さんと上田から聞いた人物像にブレが生まれていくのだった。


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