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23.0.3%の婚姻 02

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 気づけば下着姿で十字架にかけられ、男は椅子に座って私を眺めていた。

 男が、私を見上げている。
 そこに愛は感じられない。
 鑑賞物を眺めるような、そんな……目。

 ……私の身体は震えていた。
 恐怖にではない。
 胸が張り詰め、硬くなった乳首が下着と擦れて快楽となる。
 両足の間からぬるりとした液がながれていた。
 鼓動が早い。

「私に何の薬を使ったのよ!! 早く解放してよ!! 今なら許してあげるわ」

 傲慢に言って見せるが……内心は違っていた。
 私は、初めてまともに見た男の顔に、酔いしれていたのだ。

「私は、今までアナタの我儘に耐えてきた。 次はアナタの番ですよ」

 そう言って彼は……太い縄の束を持っていた。

「な、何よソレ……」

「ごくごく初歩的な拷問道具ですよ。 鞭打ち、シンプルな刑です。 好きでしょう? 海外に行ったときは良くそういう店に出入りしていたじゃないですか」

 そういう趣味は隠してきたつもりだった。 見下す相手に、そういうことをされるのは屈辱でしかなく、気づかれたくは無かった。

「なぜ、私がアナタを選んだと思っているんですか? 見た目だけの醜悪なアナタを。 アナタとなら利害が一致できそうだったからですよ。 アンナ店に行かなくとも、私に言ってくれれば幾らでもせめて差し上げましたのに……実はこうしている間も、興奮しているんですよね」

「そ、そんな訳ないでしょう!! アンタなんかに!! アンタなんか……」

 冴えない見た目の男だった。
 何時だって俯き、猫背。
 背の高さから、覗き見える顏は凡庸。
 凡庸だけならいい、気力の無い目、ヘラリと誤魔化すように笑う口元。

 不気味……。

 皆そう言っている。

「な、なんで……」

 正面から見る彼の顔は、美しかった。

 切れ長の瞳。
 通った鼻筋。
 笑う口元。

 傲慢で不遜、強気でエロい……。

 この男に責められるのかと思えば正直濡れた。
 ジクリと腹の奥が熱くなる。

「この鞭は特別せいです。 拷問に特化し改良されてきた。 鞭の持つ機能を最大限に生かしています」

 鞭が振るわれた。
 重い音が風を切り、バシッと細い女の身体を叩いた。

「きゃぁああああああああ!! あぁああああ、な、な、によ。 いや、いや、止めて!!」

 鞭を受けるまで、そう言うプレイなのだと。
 遊びなのだと。
 お遊戯なのだと思っていた。

「痛い、いたいっ、痛い!! いやっ、もう、ソレはいや、止めて!!」

 それでも鞭は勢いよく振り下ろされ、肉を打ち、皮をめくる音がした。

「きゃあああああああああ、いや、いや、止めて!!」

 こんな傷が残っては……。

 死を彷彿とした痛みだったけれど、それ以上に傷が残っては他の男と遊べない、女王様のようにチヤホヤされないと私は嘆き、弁護士、そうだ弁護士を雇って、コイツの財産を!! そんな事を考えていた。

 いままで何でも言う事を彼は聞いた。

「私の身体に傷をつけたわね!! 許さない、ゆるさないんだからぁああああ!!」

「お互い様ですよ。 私はアナタを楽しませた。 次はアナタの番と言うだけです。 さぁ、頑張って生きて下さい。 私との愛の行為に耐える事ができたら、アナタは私の全てを手に入れる権利を得るのですから」

 口づけられ、唇に甘く噛みつき、誘うように唇を開ければ彼は舌を絡め……そして噛みつき引きちぎった。 痛みに叫んだ。 いつの間にか拘束はとかれていて、私は倒れ込みそうになる。



 彼は私を受け止め、そして抱きしめた。

「さ“ばぁらばあいへ!!」

 彼は楽しそうに喜び抱きしめる。

「あぁ、よく耐えてくれたね」

 私は、そんな彼を跳ね除け逃げようとした。 だけど、彼は許さない。 彼はとても貧相で、凡庸な男……だったはずなのに……。

 その腕はとても強く私を捕らえ抱きしめる。

「どうしたのですか? 私はずっと尽くしてきた。 次はアナタが誠意を見せる番だ」

 恍惚とした甘い声。
 心が震えた。

 彼の声は、こんなにも美しかっただろうか?

 もっと聞き難いボソボソとした声だったはず……。 私は、舌先を失ったと言うのに、その痛みを忘れてウットリとその声を聞いた。

「あぁ、偉い……流石だ。 よく耐えたよ」

 彼は抱きしめ、私の背をなで頭を撫でた。

 だからって……どうして安心できると言うのか……追い詰められたウサギの気分でしかない。

 私を抱きしめる彼の腕は、身体は筋肉質でガッシリとしていた。
 腕の中に包み込まれるような安心感。
 この男は、こんなにも逞しかっただろうか?

 中肉中背と言えばいいが、猫背のせいで着崩れてしまうスーツ姿は、彼を目にする者達に馬鹿にされていた。

「っぃぅううううううあががああああ」

 音にならない音で私は叫ぶ。

 背中を撫でていた指が、私の背に食い込み、力強く……強く……私を壊していく、皮膚を肉を深く抉り、私に消えない痕を残そうとしている。

「白い肌が、飾り付けられ、色づく、この瞬間だけは、オマエのような女も美しくそまる。 さぁ……耐えろ、耐えて、耐えて、生き残れば……私の全ては君のものだ。 おや……残念ですね……アナタは私の花嫁にはなりえなかった。 我侭ばかりの女は……どの道嫌われると言うものですよ」

 あぁ……私は、間違っていた。

 もし、私が……良い子だったら、アナタは普通に愛してくれたのかしら?

 絶対にありえない、身勝手な愛に酔いしれながら、彼女は意識を失い、血を失い、命を失った。

「私は何時、私の愛に応えてくれる花嫁を迎える事ができるのでしょうね?」

 そう男は語り。
 婚姻届けを破り捨てた。

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