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14.ニートと呼ばないで!!
しおりを挟むそして、生徒達と入れ違いに1人の教師がやってきた。 桧垣日和助教授だった。
「日和ちゃんが来るなんて、雷がおちるんじゃないの?!」
そう大げさに驚く克己。
「私だって、用事があれば来る」
視線をそらしながらボソリと桧垣助教授が言っているのを、私は完全に無視しながら弁当を広げ始めた。
今日はフキノトウ味噌を別に持ってきたのでオニギリに付けて食べる予定。 オカズは小松菜と人参と厚揚げの生姜炒め、味噌味付きのミニハンバーグ、冷しゃぶ風豚バラのキャベツ巻き、定番の卵焼き、浅漬けの入った重箱やタッパーを並べ、豚バラのキャベツ巻き用にポンポンと、ポン酢と胡麻ドレッシングを並べて置き、2人の助教授に紙皿と割り箸を渡した。
「それで、どんな用事なんですか?」
今日は早々にカラカウのを止めたらしい克己と始終眉間に皺を寄せる桧垣助教授に、私はほうじ茶を出す。
「論文のためのパソコン講習をしていると耳にした」
だからどうだ? と、機嫌の悪い時なら言いたくなるような口調だけれど、彼自身には悪気がないのは克己との会話を幾度か聞いて理解しているので……一応、返事をするわけです。
「論文に必要になる操作マニュアルを作って提供して、それでも分からない部分をフォローしているんです。 初めて1週間ですが、もう少し疑問のパターンが欲しいところですねぇ。 お茶熱いので気を付けて下さい」
「すまない。 ところで、うちも資料作り用のマニュアルを使わせてもらえないだろうか? 葛城ゼミ以上にうちのゼミ生は、大学で学んだことを活用し就職すればパソコンを避けては通れない。 にも拘わらずだ!!」
深い溜息が全てを語っていた。
「なら、うちで払っているバイト料の一部負担を引き受けてもらうってのでどうです? 一応、うちのゼミの生徒は質問も一通り落ち着いて、資料で対応できるようになっていますから。 イジメない、イジメられないよう側にいると約束できるなら雫ちゃんを貸しますよ」
勝手に貸すな~と言いたいのですが、人と関わり知識が増えれば、何処にも所属していない扶養家族の苦悩に囚われる。 でも、まぁ、実験動物より、人間しているって考えれば、前向きに悩む気になると言うものです。
「幾らだ?」
「日和ちゃん、申請が面倒だからってポケットマネーで済ませるつもりでしょう。 やだやだ、実家が金持ちだからって」
そう言う克己だって、と、言うか……パパ教授の方だって不動産を所有していて不労所得が入ってくるし、出版している書籍が大学の講義にも採用されているから印税も入ってくるのでそこそこ恵まれた人……ってパパ教授は克己の叔父さんになるから、収入は関係ないのかな?
克己に言われ、桧垣助教授が顔をしかめた。
「折角のご飯ですよ。 まずそうに食べないで下さい」
私が不満そうに言えば、
「いや、美味いよ。 だが、コレは葛城教授の分じゃないのか?」
「今日は編集からの御呼出しで、食事をご馳走になるそうです」
「では、遠慮なくいただこう」
「そういえば、そっちのゼミの派手な子。 見かけなくなったけど、元気にしているの?」
克己が言えば、日頃から眉間を寄せ続けているような桧垣が一層表情をしかめた。
ちなみに派手な子と克己は表現したが、克己にかなり積極的にアピールしていた女性らしい。
「ゼミどころか講義もサボっているそうだ」
「おや……どうしたんだろうね? 風邪かい?」
「彼女とよく一緒にいる子から聞いたんだが、しばらく代返を頼むと言われたらしい。 それも、もう10日以上前だそうだ。 代返がバレたところで連絡をいれたけど返事が無いって言っていた。 流石にテスト前には出てくるだろう」
「でも、単位が足りなくなるんじゃないのかい?」
「そうなれば学生課から連絡が行くんじゃないのか?」
毎年誰かが遭遇するさして珍しくもない内容だとサラリと語っていた2人だけど、学生課から連絡が取れない状況に、保護者へと連絡、生徒の行方不明が確定される事となる。
行方不明となった女性の友人が言うには、元々代返を周囲に頼み頻繁にサボっていたそうだが、バイト等はしていなかったと言う話。
ただソレだけの話。
よくある話。
だけど、その女性……井本愛莉の保護者は、留年の書留が届いた事で学生課に暴れ込ん出来たのだった。
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