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09.そして6人去って、1人現れる
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少しずつ集まりだすカラス。
そう、ですか……。
私は彼等に見捨てられた訳では無かったのね。
呪いと関係のある存在でありながら、カラスは私にとって大切な存在だった。
呪われていたから。
カラスが一緒にいたから。
だから、人は私には近づかず人が話しかけてくる経験すら少なかった。 それでも、私の周囲の人達は何時も注目を集めてしまう人ばかりで……だから知っている。
適当に、曖昧にしてしまうと、後が面倒になると言う事を。
「私達は貴方のためを思って……」
『善意の押し売り、拒否すれば悪人。 人は簡単にそういう心理的誘導を行うもの。 では、雫……貴方はどうやって回避をします?』
そう私に問いかけたのは、肉体をグチャグチャにされ実験動物だった私の心のケアをしてくれた精神科医。
「私は、長くパパと離れていた……大切な時間なの。 理解、出来ませんか?」
情に訴える。
「私達は、貴方と仲良くなろうとしているだけなのに!!」
「私は、子供としての時間を取り戻したいの」
祈るように視線を伏せた。
どうして彼女達は克己と同じ席で食事をする事にこれほど必死になるのだろう? そんな疑問を持てば、私の中ではムキになっているだけという答えが出た。
だけど、彼女達は余りにも強引に私の荷物に手をかけてきた。
「どうして(そこまでするの?)」
疑問は最後まで声にはならなかった。
カラスがその手に向かって飛んできたから。
大きな嘴が、女性の手を啄もうとしたのだ。
「きゃぁああああああ」
いつの間にかカラスが集まり、騒めき、甲高い声で叫び、異常を演出する。 風が髪や木々を揺らし暗い雨雲を運んでくる。
何の害も無い。
人が何もしなければ。
周囲には十数羽のカラスが集まり、今も何処からとなく集まってきている。
「パパ教授は……妖怪ととても仲良しなの……知らない?」
静かに微笑み、雰囲気バッチリに語って見せる。
ヒクッと雫を囲んでいた人達の頬が恐怖に歪んだ。
これ以上何かすれば、カラスは人を襲いだす。 彼等は私を守ってくれるけれど、興奮しはじめれば私の言う事を聞いてくれなくなる。
「問題は、起こしたくはないのよ?」
普通なら妖怪が等と語っても誰が信用するだろう?
だけど教授と克己には変わった噂が幾つも積み上げられていた。 そして2人の声は、妖の世界の水先案内人のように深く、重く、繊細に揺れ動き、甘く心に語り掛ける。
それを恐ろしいとする人もいる。
それを美しいと考える人もいる。
あぁ、この人達は酔ったのか……。
もう一度、陶酔に身を置きたいと思ったのか……。
可哀そうに、そう思いはしても、彼女達のために何かを使用とは思わなかった。
「ねぇ、お願い、引いて」
「ぁあっ……ぁ……」
不安定に心を揺らす女性達の中にもリーダー格と言うものが存在していて、私はその相手の耳元近くに軽い足取りで一歩進む。 私が歩くに伴いカラスが羽を広げれば……不安を促された彼女達にどんな姿に見えただろうか?
「ねぇ……早く何処かに消えた方がいいわ」
耳元で囁くように、私は小さな声で語りかける。
カー―!!
ヒィッと女性達は逃げ出した。
レインウェアを着た葛城ゼミの青年『上田達也』と、車自慢の青年『江崎波留』は、女子生徒達が去った後も残っていた。
むしろ江崎は、車から降りて雫の側に足早に寄ってきていたくらいだ。 慌てた様子で上田が私の前に立ち江崎が私に触れようとするのを阻んだ。
「や、止めなよ……。 怖がるだろう」
私以上に怯えながら上田は声を震わせながら言い、私はと言えば一歩二歩と下がってしまっていた。 そうしたくなるほどに江崎の表情が真剣だったのだ。
「素敵だ……。 なんて面白い…… いや、ごめん、失礼だねこんな言い方だと。 感情が溢れ出てしまって、君の嫌がる事はしない。 時間は君の都合に合わせる。 今度、僕のために時間を取ってくれないかな?」
車の男がそう言って、名刺を手渡してきた。
上田が、どうするの?とでもいうように私を見つめるから私は首を横に振って見せた。
「い、要らないって彼女は言っている……よ」
必死に盾になってくれているが、視線は合わせないから、江崎と私は結局見つめあう事になる。
「オマエにやるとは言ってないだろう!!」
「私は、葛城教授の娘さんが嫌がっているのを放置できない!!」
この間も、私達はジッとお互いを見ていた。
変な形の硬直状態が続いていた。
「いいわ……受け取るだけ受け取っておく」
もう面倒臭くなってきた。
「そう、僕は結構便利な男だ。 何か困った事があった時、僕に連絡を頂戴」
そう言って江崎は去って行った。 そして上田も大きく息をつき私の方を向き、肩で深呼吸をして去って行った。
「また、お会いしましょう」
自転車で去っていく上田を見て、私は大きく息をついた。
なんだか疲れたわ。
疲れているのに……砂利の踏む音が聞こえた。 一難去ってまた一難……ですか。 と、思いながら、自分に自意識過剰よ!! と言い聞かせる。
「騒々しいから来てみれば……」
苛立ち交じりの声だった。
「葛城と言う名を持つ者は、迷惑をかけずにはいられないのか……」
ボソボソとした不満満載の呟き。
私が悪い訳では無いと思うのと、私は看板を見るふりをして不貞腐れた。
そう、ですか……。
私は彼等に見捨てられた訳では無かったのね。
呪いと関係のある存在でありながら、カラスは私にとって大切な存在だった。
呪われていたから。
カラスが一緒にいたから。
だから、人は私には近づかず人が話しかけてくる経験すら少なかった。 それでも、私の周囲の人達は何時も注目を集めてしまう人ばかりで……だから知っている。
適当に、曖昧にしてしまうと、後が面倒になると言う事を。
「私達は貴方のためを思って……」
『善意の押し売り、拒否すれば悪人。 人は簡単にそういう心理的誘導を行うもの。 では、雫……貴方はどうやって回避をします?』
そう私に問いかけたのは、肉体をグチャグチャにされ実験動物だった私の心のケアをしてくれた精神科医。
「私は、長くパパと離れていた……大切な時間なの。 理解、出来ませんか?」
情に訴える。
「私達は、貴方と仲良くなろうとしているだけなのに!!」
「私は、子供としての時間を取り戻したいの」
祈るように視線を伏せた。
どうして彼女達は克己と同じ席で食事をする事にこれほど必死になるのだろう? そんな疑問を持てば、私の中ではムキになっているだけという答えが出た。
だけど、彼女達は余りにも強引に私の荷物に手をかけてきた。
「どうして(そこまでするの?)」
疑問は最後まで声にはならなかった。
カラスがその手に向かって飛んできたから。
大きな嘴が、女性の手を啄もうとしたのだ。
「きゃぁああああああ」
いつの間にかカラスが集まり、騒めき、甲高い声で叫び、異常を演出する。 風が髪や木々を揺らし暗い雨雲を運んでくる。
何の害も無い。
人が何もしなければ。
周囲には十数羽のカラスが集まり、今も何処からとなく集まってきている。
「パパ教授は……妖怪ととても仲良しなの……知らない?」
静かに微笑み、雰囲気バッチリに語って見せる。
ヒクッと雫を囲んでいた人達の頬が恐怖に歪んだ。
これ以上何かすれば、カラスは人を襲いだす。 彼等は私を守ってくれるけれど、興奮しはじめれば私の言う事を聞いてくれなくなる。
「問題は、起こしたくはないのよ?」
普通なら妖怪が等と語っても誰が信用するだろう?
だけど教授と克己には変わった噂が幾つも積み上げられていた。 そして2人の声は、妖の世界の水先案内人のように深く、重く、繊細に揺れ動き、甘く心に語り掛ける。
それを恐ろしいとする人もいる。
それを美しいと考える人もいる。
あぁ、この人達は酔ったのか……。
もう一度、陶酔に身を置きたいと思ったのか……。
可哀そうに、そう思いはしても、彼女達のために何かを使用とは思わなかった。
「ねぇ、お願い、引いて」
「ぁあっ……ぁ……」
不安定に心を揺らす女性達の中にもリーダー格と言うものが存在していて、私はその相手の耳元近くに軽い足取りで一歩進む。 私が歩くに伴いカラスが羽を広げれば……不安を促された彼女達にどんな姿に見えただろうか?
「ねぇ……早く何処かに消えた方がいいわ」
耳元で囁くように、私は小さな声で語りかける。
カー―!!
ヒィッと女性達は逃げ出した。
レインウェアを着た葛城ゼミの青年『上田達也』と、車自慢の青年『江崎波留』は、女子生徒達が去った後も残っていた。
むしろ江崎は、車から降りて雫の側に足早に寄ってきていたくらいだ。 慌てた様子で上田が私の前に立ち江崎が私に触れようとするのを阻んだ。
「や、止めなよ……。 怖がるだろう」
私以上に怯えながら上田は声を震わせながら言い、私はと言えば一歩二歩と下がってしまっていた。 そうしたくなるほどに江崎の表情が真剣だったのだ。
「素敵だ……。 なんて面白い…… いや、ごめん、失礼だねこんな言い方だと。 感情が溢れ出てしまって、君の嫌がる事はしない。 時間は君の都合に合わせる。 今度、僕のために時間を取ってくれないかな?」
車の男がそう言って、名刺を手渡してきた。
上田が、どうするの?とでもいうように私を見つめるから私は首を横に振って見せた。
「い、要らないって彼女は言っている……よ」
必死に盾になってくれているが、視線は合わせないから、江崎と私は結局見つめあう事になる。
「オマエにやるとは言ってないだろう!!」
「私は、葛城教授の娘さんが嫌がっているのを放置できない!!」
この間も、私達はジッとお互いを見ていた。
変な形の硬直状態が続いていた。
「いいわ……受け取るだけ受け取っておく」
もう面倒臭くなってきた。
「そう、僕は結構便利な男だ。 何か困った事があった時、僕に連絡を頂戴」
そう言って江崎は去って行った。 そして上田も大きく息をつき私の方を向き、肩で深呼吸をして去って行った。
「また、お会いしましょう」
自転車で去っていく上田を見て、私は大きく息をついた。
なんだか疲れたわ。
疲れているのに……砂利の踏む音が聞こえた。 一難去ってまた一難……ですか。 と、思いながら、自分に自意識過剰よ!! と言い聞かせる。
「騒々しいから来てみれば……」
苛立ち交じりの声だった。
「葛城と言う名を持つ者は、迷惑をかけずにはいられないのか……」
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