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07.ナンパ
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電話から2時間後。
私は大学の駐車場に設置された地図を見上げていた。
免許証は高校在学時18歳になると同時に取得している。 とは言え、今所有している免許証には『葛城雫』と書かれていた。 しばらくココに居るようにと言った皎一さんが、私の所在を隠すために葛城正巳教授の隠し子として偽造用免許証を作成して送り付けて来たのだ。
私の色々な荷物と一緒に。 そう説明を受けたのですが、実際には皎一さんがパパ教授で遊んでいるようにしか思えないのは気のせいではないはず。
私の前では、どこか怖いくらいの人だったのに……パパ教授には子供のような姿を見せているのかと思えば少しばかり複雑な気分になって……拗ねてしまえばパパ教授は緑の瞳で優しく微笑み言うのだ。
『雫ちゃんが皎一君の宝物なのは確かですよ。 ずっと惚気を聞かされていた僕が言うんですから確かです。 まぁ、少々不器用ではありますが……、今度思い切って甘えてみてはいかがですか……』
化け物なのに?
声に出さない私の思いを悟って、パパ教授は私の頭を撫でてくれる。
そんな時、とても不思議な気持ちになる。
1月も経たない時間で、私の中では大きく何かが変わっていた……。
他愛ない日常はどんなことも新鮮。
私の気持ちが変わるだけで、こうも違うものなのでしょうか?
そんな事を考えながら、到着を伝える連絡を入れて置く。
もう何度もパパ教授と克己の勤務先……大学に通ってきた結果、迎えに来てと連絡を入れる事にした。 車内で待たないのは駐車場が広すぎて、私自身何処にいるか説明できないし、パパ教授も克己も私を探せないから。
なぜ、そんな面倒臭い事を始めたかと言うと構内を1人で歩いていると色々と声がかけられ、私はパニックを起こしてしまうから。
地元なら呪われた娘と言われて、声をかけてくる人なんて皆無だったんだけどなぁ……と、孤独に泣いていた過去すら懐かしくなっているあたり、人間って贅沢な生き物ですよね……。
そんな理由から、私は大きな地図の前で迎えを待っていた。
ユックリと車高の低いスポーツモデルの外車が近づいてくる。 車は私の目の前に停まり窓が開き、そして声がかけられた。
「どうしたの? そんなところで。 1人? 良かったら一緒に食事をしない? 今、なんとなく一人で居たくないんだ」
ナンパと言うと軽薄と言う印象が私にはあったのですが、目の前の青年は……疲れ切った表情をしているだけでなく、同情を促してくる。
「そんな疲れた顔をした人の車には乗りたくありません。 貴方も運転より休息を取られる事をお勧めしますわ」
「わかっているけど、癒しが欲しい気分なんだ……」
「その軽さが不快です。 それに見ず知らずの私に声をかけなけれ友達もいないと言う人間性も問題に思いますわ」
「お友達はいるけど、可愛い子が目の前にいたら声をかけるよね?」
「貴方の身勝手な気分で、私が不快を感じるのは納得いきませんわ。 私は出会いを求めているのではなく約束があるからココに立っていますの」
「約束? それって断れないの?」
「では、私のパパに貴方が交渉してください」
ニッコリと笑って見せた。
「そ、れは……ふふふふ。 へぇ……どんな条件なら、君の時間を僕に貰える?」
下卑た嫌な笑いだと思った。
いえ、疲れているだけなのかな?
「条件って?」
「幾ら?」
私はシバラク悩み、そして答えにたどり着く。
「パパは、パパでも血縁上のパパよ」
車の青年は顔をヒクッとひくつかせた。
「それは、流石に重いかな……でも、まぁ、君は可愛いから挨拶ぐらいで食事に付き合ってくれるなら、少し頑張ってみてもいいかな?」
素っ気なく視線を合わせないように言ってはいたけれど、私はずっと中の人を伺っていた。 化粧、アクセ、服、随分とこだわっている人だった。
お洒落と言うよりも、自分を偽っている印象が強い。
でも、こんな田舎で、派手派手しい恰好をすれば視線を集め不名誉なレッテルを張られるだけ。 いえ、差別的なレッテルを操作し、人をより分ける材料にしているなら……ありかもしれない。
あぁ、そうか……会話を成立させてしまった時点で、彼は私が流されやすいと感じたのか……。 ただ、人との距離感が理解できないだけなのですけどね。
「そう、なら……今からパパと食事を一緒にするんだけど、貴方も同席する?」
そう言いながら、この土地での保護者であり葛城正巳教授と一緒に写した写真を見せた。
「そう言えば、教授の隠し子がどうこうって、騒いでいたな……君がそうなの?」
私は微笑んで見せた。
「そうよ。 ようやくパパと会えたの。 パパは親子の時間を大切にしているから、遠慮しておくべきだと思うわ」
「そう、そうか……でも、新しい土地で新しい生活を送っているなら、友達は作るべきじゃないかな? 友達の1人もいないようでは教授も心配だろう? その点、僕は親もしっかりとしている。 教授も安心するだろう」
「今からご飯をパパと克己と食べる予定なの。 だからバイバイ」
手を振って見せる様子を切りが良いと思ったのだろうか? 少し距離を置いた場所から事の成り行きを見て居ただろう4人組の女性が、克己と言う名前に駆け寄って来て声をかけてきた。
「克己様との食事、私達も一緒できませんか?」
面倒ごとはまだまだ続くらしい。
私は大学の駐車場に設置された地図を見上げていた。
免許証は高校在学時18歳になると同時に取得している。 とは言え、今所有している免許証には『葛城雫』と書かれていた。 しばらくココに居るようにと言った皎一さんが、私の所在を隠すために葛城正巳教授の隠し子として偽造用免許証を作成して送り付けて来たのだ。
私の色々な荷物と一緒に。 そう説明を受けたのですが、実際には皎一さんがパパ教授で遊んでいるようにしか思えないのは気のせいではないはず。
私の前では、どこか怖いくらいの人だったのに……パパ教授には子供のような姿を見せているのかと思えば少しばかり複雑な気分になって……拗ねてしまえばパパ教授は緑の瞳で優しく微笑み言うのだ。
『雫ちゃんが皎一君の宝物なのは確かですよ。 ずっと惚気を聞かされていた僕が言うんですから確かです。 まぁ、少々不器用ではありますが……、今度思い切って甘えてみてはいかがですか……』
化け物なのに?
声に出さない私の思いを悟って、パパ教授は私の頭を撫でてくれる。
そんな時、とても不思議な気持ちになる。
1月も経たない時間で、私の中では大きく何かが変わっていた……。
他愛ない日常はどんなことも新鮮。
私の気持ちが変わるだけで、こうも違うものなのでしょうか?
そんな事を考えながら、到着を伝える連絡を入れて置く。
もう何度もパパ教授と克己の勤務先……大学に通ってきた結果、迎えに来てと連絡を入れる事にした。 車内で待たないのは駐車場が広すぎて、私自身何処にいるか説明できないし、パパ教授も克己も私を探せないから。
なぜ、そんな面倒臭い事を始めたかと言うと構内を1人で歩いていると色々と声がかけられ、私はパニックを起こしてしまうから。
地元なら呪われた娘と言われて、声をかけてくる人なんて皆無だったんだけどなぁ……と、孤独に泣いていた過去すら懐かしくなっているあたり、人間って贅沢な生き物ですよね……。
そんな理由から、私は大きな地図の前で迎えを待っていた。
ユックリと車高の低いスポーツモデルの外車が近づいてくる。 車は私の目の前に停まり窓が開き、そして声がかけられた。
「どうしたの? そんなところで。 1人? 良かったら一緒に食事をしない? 今、なんとなく一人で居たくないんだ」
ナンパと言うと軽薄と言う印象が私にはあったのですが、目の前の青年は……疲れ切った表情をしているだけでなく、同情を促してくる。
「そんな疲れた顔をした人の車には乗りたくありません。 貴方も運転より休息を取られる事をお勧めしますわ」
「わかっているけど、癒しが欲しい気分なんだ……」
「その軽さが不快です。 それに見ず知らずの私に声をかけなけれ友達もいないと言う人間性も問題に思いますわ」
「お友達はいるけど、可愛い子が目の前にいたら声をかけるよね?」
「貴方の身勝手な気分で、私が不快を感じるのは納得いきませんわ。 私は出会いを求めているのではなく約束があるからココに立っていますの」
「約束? それって断れないの?」
「では、私のパパに貴方が交渉してください」
ニッコリと笑って見せた。
「そ、れは……ふふふふ。 へぇ……どんな条件なら、君の時間を僕に貰える?」
下卑た嫌な笑いだと思った。
いえ、疲れているだけなのかな?
「条件って?」
「幾ら?」
私はシバラク悩み、そして答えにたどり着く。
「パパは、パパでも血縁上のパパよ」
車の青年は顔をヒクッとひくつかせた。
「それは、流石に重いかな……でも、まぁ、君は可愛いから挨拶ぐらいで食事に付き合ってくれるなら、少し頑張ってみてもいいかな?」
素っ気なく視線を合わせないように言ってはいたけれど、私はずっと中の人を伺っていた。 化粧、アクセ、服、随分とこだわっている人だった。
お洒落と言うよりも、自分を偽っている印象が強い。
でも、こんな田舎で、派手派手しい恰好をすれば視線を集め不名誉なレッテルを張られるだけ。 いえ、差別的なレッテルを操作し、人をより分ける材料にしているなら……ありかもしれない。
あぁ、そうか……会話を成立させてしまった時点で、彼は私が流されやすいと感じたのか……。 ただ、人との距離感が理解できないだけなのですけどね。
「そう、なら……今からパパと食事を一緒にするんだけど、貴方も同席する?」
そう言いながら、この土地での保護者であり葛城正巳教授と一緒に写した写真を見せた。
「そう言えば、教授の隠し子がどうこうって、騒いでいたな……君がそうなの?」
私は微笑んで見せた。
「そうよ。 ようやくパパと会えたの。 パパは親子の時間を大切にしているから、遠慮しておくべきだと思うわ」
「そう、そうか……でも、新しい土地で新しい生活を送っているなら、友達は作るべきじゃないかな? 友達の1人もいないようでは教授も心配だろう? その点、僕は親もしっかりとしている。 教授も安心するだろう」
「今からご飯をパパと克己と食べる予定なの。 だからバイバイ」
手を振って見せる様子を切りが良いと思ったのだろうか? 少し距離を置いた場所から事の成り行きを見て居ただろう4人組の女性が、克己と言う名前に駆け寄って来て声をかけてきた。
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