5 / 73
01
02.捨てる神あれば拾う神あり?
しおりを挟む
地面に落下しても死なない私と言うのも問題だけど……。
フワリとした羽毛のような闇に包まれユックリ落下する様子はどう見られるものなのでしょう? ソレはソレで憂鬱な気分になったのだけど……落ちてくる私を見たその人は迷う様子もなく私に腕を差し伸べようとしていた。
危ない人ですね……。
自分の事を横に置きそんな事を考えてしまう。
「すみません、危ないので退いて下さいませんか?」
そう叫ぶ私も私だろうけど。
「多分大丈夫だろうから、おいで」
優しく微笑んで見せる彼もオカシイ人だろう。
【葛城 克己(かつらぎ かつみ)】
地面に近づくにつれ闇で作られた羽根は剥がれ落ちながら大気に溶けて行っていき……下で待ち伏せている青年が、ふわりと浮かぶ羽毛を抱きしめるように私に触れて来た。
伸ばされた腕は青年としては細く、落下し終えた私にまとわりついていた闇の羽毛は弾ければ私は人の重さを取り戻し、受け止めた人間に負担をかけてしまう。
「おっと……」
バランスを崩してぐらつきならが、その人は私を身体全体で抱きしめるように受け止めた。 背は高いが細身の骨格、柔軟な身体付き、甘いベリィの香り……ソレが触れ合った印象。
カラスの声が高らかに響き、羽音と共に無数のカラスが飛び去る音がして、私は驚いたように空を見上げる。
なんだか、別れを告げられたように胸が切なくなった。
彼等は……私にとって家族だったから。
「いない……」
カラスは音だけを残し、その姿は見せずに去って行った……風に思えたのだ。 そんな様子を寂しがっていると思ったのだろうか? 私を受け止めた相手は、小さな子をあやすように抱きしめて手のひらで頭や背を撫でて来た。
「よ~しよし」
「えっと……」
「大丈夫? 寒いよね。 何か着るもの……私の上着を貸してあげればいいのだろうけど、そうすると地面にアナタを一度置かないといけないから」
ハスキーな声が心配そうに言いながら、見上げる私の顔を覗き込んできた。
うん、ご都合主義的な感じで美形だ。 いっそこれが噂の異世界転生だと言われても、納得してしまいそうな気がする。
薄い赤茶の癖のある髪はとても柔らかそうに見えた。 白い肌……中性的な顔立ちは整い繊細過ぎる。 そして、私を見つめる瞳は緑色をしている。
心の中で青年とか彼とか考えていた私だけど、この人の性別は……どっちなのでしょう?
この状況で余裕なんか欠片も持てるはずがないのに、そんな事を考える余裕があるのは空から落ちて来た私が当たり前のように受け入れられているから。 一番恐れていた状況を回避された事で、多少なりと私に余裕が生まれたらしい。
「克己、どうしたんだい? 騒々しいですね」
【葛城 正巳(かつらぎ まさみ)】
青年の声を少しだけ低くして、年齢と共に柔らかさを備えていったかのような声が聞こえれば、青年は声をかけて来た40代くらいの男に言うのだ。
「教授、空から女の子が!」
「やりたかったのは分かりますが、そう言うのは必要ありませんよ」
非現実的な状況に、穏やかに会話する2人。
「どうして、この状況で冷静なんですか? 少しはオカシイと思うべきですよね?」
助けられておいて責めるのは流石に違うと思うけど、余りにも能天気な様子に大丈夫なのかしら? と、思ってしまったのだ。
「世の中は色々な不思議に満ちていますからねぇ~」
教授と呼ばれた男性が、マッタリとした様子で照れながら答える。
「褒めていませんわ……」
そして青年は青年でニッコリ笑って言うのだ。
「そうだねぇ……。 ほら、1度はやってみたいじゃない? 空からって奴が、こう物語の主人公みたいで素敵だと思わない?」
脳内妄想と現実は違う。
普通に考えれば警察案件ですから!!
け、警察かぁ……また迷惑かけちゃうと思い出すのは、全ての苦痛から私を救いだしてくれた保護者、時塔皎一の顔だった。
私の憂鬱を他所に青年が呑気な返しをするから、私は溜息をつかざるを得ない。
「まともじゃないわ……」
「よしよし、余り怒るとお腹がすくよ」
全く相手にされない様子に、私は何処か諦めた。 と、言うより、騒ぎにならないなら、ソレはソレで良いわよね? と、前向きに考える事にした。 だって現状を前向きに考えても何も現状を改善しないから。
「それは困ったわ。 スマホも財布も持ってないようだし……」
それどころか、なぜかパジャマ姿だし……。
状況が理解できない私を置き去りに、いえ……そもそもこの2人だって理解している訳がないんですよ。
「ほら、女の子」
まるで猫が庭に入り込んできたかのように、私は両脇に手を入れられ抱えあげられたまま年配の男性へと見せつけられる。
どうなんでしょう? この扱い。
ぶらぶらと宙づり状態で私は憮然としてしまっていた。
「おや、よく来たね。 雫ちゃん」
名を呼ばれて私は首を傾げる。
フワリとした羽毛のような闇に包まれユックリ落下する様子はどう見られるものなのでしょう? ソレはソレで憂鬱な気分になったのだけど……落ちてくる私を見たその人は迷う様子もなく私に腕を差し伸べようとしていた。
危ない人ですね……。
自分の事を横に置きそんな事を考えてしまう。
「すみません、危ないので退いて下さいませんか?」
そう叫ぶ私も私だろうけど。
「多分大丈夫だろうから、おいで」
優しく微笑んで見せる彼もオカシイ人だろう。
【葛城 克己(かつらぎ かつみ)】
地面に近づくにつれ闇で作られた羽根は剥がれ落ちながら大気に溶けて行っていき……下で待ち伏せている青年が、ふわりと浮かぶ羽毛を抱きしめるように私に触れて来た。
伸ばされた腕は青年としては細く、落下し終えた私にまとわりついていた闇の羽毛は弾ければ私は人の重さを取り戻し、受け止めた人間に負担をかけてしまう。
「おっと……」
バランスを崩してぐらつきならが、その人は私を身体全体で抱きしめるように受け止めた。 背は高いが細身の骨格、柔軟な身体付き、甘いベリィの香り……ソレが触れ合った印象。
カラスの声が高らかに響き、羽音と共に無数のカラスが飛び去る音がして、私は驚いたように空を見上げる。
なんだか、別れを告げられたように胸が切なくなった。
彼等は……私にとって家族だったから。
「いない……」
カラスは音だけを残し、その姿は見せずに去って行った……風に思えたのだ。 そんな様子を寂しがっていると思ったのだろうか? 私を受け止めた相手は、小さな子をあやすように抱きしめて手のひらで頭や背を撫でて来た。
「よ~しよし」
「えっと……」
「大丈夫? 寒いよね。 何か着るもの……私の上着を貸してあげればいいのだろうけど、そうすると地面にアナタを一度置かないといけないから」
ハスキーな声が心配そうに言いながら、見上げる私の顔を覗き込んできた。
うん、ご都合主義的な感じで美形だ。 いっそこれが噂の異世界転生だと言われても、納得してしまいそうな気がする。
薄い赤茶の癖のある髪はとても柔らかそうに見えた。 白い肌……中性的な顔立ちは整い繊細過ぎる。 そして、私を見つめる瞳は緑色をしている。
心の中で青年とか彼とか考えていた私だけど、この人の性別は……どっちなのでしょう?
この状況で余裕なんか欠片も持てるはずがないのに、そんな事を考える余裕があるのは空から落ちて来た私が当たり前のように受け入れられているから。 一番恐れていた状況を回避された事で、多少なりと私に余裕が生まれたらしい。
「克己、どうしたんだい? 騒々しいですね」
【葛城 正巳(かつらぎ まさみ)】
青年の声を少しだけ低くして、年齢と共に柔らかさを備えていったかのような声が聞こえれば、青年は声をかけて来た40代くらいの男に言うのだ。
「教授、空から女の子が!」
「やりたかったのは分かりますが、そう言うのは必要ありませんよ」
非現実的な状況に、穏やかに会話する2人。
「どうして、この状況で冷静なんですか? 少しはオカシイと思うべきですよね?」
助けられておいて責めるのは流石に違うと思うけど、余りにも能天気な様子に大丈夫なのかしら? と、思ってしまったのだ。
「世の中は色々な不思議に満ちていますからねぇ~」
教授と呼ばれた男性が、マッタリとした様子で照れながら答える。
「褒めていませんわ……」
そして青年は青年でニッコリ笑って言うのだ。
「そうだねぇ……。 ほら、1度はやってみたいじゃない? 空からって奴が、こう物語の主人公みたいで素敵だと思わない?」
脳内妄想と現実は違う。
普通に考えれば警察案件ですから!!
け、警察かぁ……また迷惑かけちゃうと思い出すのは、全ての苦痛から私を救いだしてくれた保護者、時塔皎一の顔だった。
私の憂鬱を他所に青年が呑気な返しをするから、私は溜息をつかざるを得ない。
「まともじゃないわ……」
「よしよし、余り怒るとお腹がすくよ」
全く相手にされない様子に、私は何処か諦めた。 と、言うより、騒ぎにならないなら、ソレはソレで良いわよね? と、前向きに考える事にした。 だって現状を前向きに考えても何も現状を改善しないから。
「それは困ったわ。 スマホも財布も持ってないようだし……」
それどころか、なぜかパジャマ姿だし……。
状況が理解できない私を置き去りに、いえ……そもそもこの2人だって理解している訳がないんですよ。
「ほら、女の子」
まるで猫が庭に入り込んできたかのように、私は両脇に手を入れられ抱えあげられたまま年配の男性へと見せつけられる。
どうなんでしょう? この扱い。
ぶらぶらと宙づり状態で私は憮然としてしまっていた。
「おや、よく来たね。 雫ちゃん」
名を呼ばれて私は首を傾げる。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2024/12/11:『めがさめる』の章を追加。2024/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/10:『しらないこ』の章を追加。2024/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/9:『むすめのぬいぐるみ』の章を追加。2024/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/8:『うどん』の章を追加。2024/12/15の朝8時頃より公開開始予定。
2024/12/7:『おちてくる』の章を追加。2024/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2024/12/6:『よりそう』の章を追加。2024/12/13の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/5:『かぜ』の章を追加。2024/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる