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02.捨てる神あれば拾う神あり?

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 地面に落下しても死なない私と言うのも問題だけど……。

 フワリとした羽毛のような闇に包まれユックリ落下する様子はどう見られるものなのでしょう? ソレはソレで憂鬱な気分になったのだけど……落ちてくる私を見たその人は迷う様子もなく私に腕を差し伸べようとしていた。

 危ない人ですね……。

 自分の事を横に置きそんな事を考えてしまう。

「すみません、危ないので退いて下さいませんか?」

 そう叫ぶ私も私だろうけど。

「多分大丈夫だろうから、おいで」

 優しく微笑んで見せる彼もオカシイ人だろう。

 

【葛城 克己(かつらぎ かつみ)】

 地面に近づくにつれ闇で作られた羽根は剥がれ落ちながら大気に溶けて行っていき……下で待ち伏せている青年が、ふわりと浮かぶ羽毛を抱きしめるように私に触れて来た。

 伸ばされた腕は青年としては細く、落下し終えた私にまとわりついていた闇の羽毛は弾ければ私は人の重さを取り戻し、受け止めた人間に負担をかけてしまう。

「おっと……」

 バランスを崩してぐらつきならが、その人は私を身体全体で抱きしめるように受け止めた。 背は高いが細身の骨格、柔軟な身体付き、甘いベリィの香り……ソレが触れ合った印象。

 カラスの声が高らかに響き、羽音と共に無数のカラスが飛び去る音がして、私は驚いたように空を見上げる。

 なんだか、別れを告げられたように胸が切なくなった。
 彼等は……私にとって家族だったから。

「いない……」

 カラスは音だけを残し、その姿は見せずに去って行った……風に思えたのだ。 そんな様子を寂しがっていると思ったのだろうか? 私を受け止めた相手は、小さな子をあやすように抱きしめて手のひらで頭や背を撫でて来た。

「よ~しよし」

「えっと……」

「大丈夫? 寒いよね。 何か着るもの……私の上着を貸してあげればいいのだろうけど、そうすると地面にアナタを一度置かないといけないから」

 ハスキーな声が心配そうに言いながら、見上げる私の顔を覗き込んできた。

 うん、ご都合主義的な感じで美形だ。 いっそこれが噂の異世界転生だと言われても、納得してしまいそうな気がする。

 薄い赤茶の癖のある髪はとても柔らかそうに見えた。 白い肌……中性的な顔立ちは整い繊細過ぎる。 そして、私を見つめる瞳は緑色をしている。

 心の中で青年とか彼とか考えていた私だけど、この人の性別は……どっちなのでしょう?

 この状況で余裕なんか欠片も持てるはずがないのに、そんな事を考える余裕があるのは空から落ちて来た私が当たり前のように受け入れられているから。 一番恐れていた状況を回避された事で、多少なりと私に余裕が生まれたらしい。

「克己、どうしたんだい? 騒々しいですね」


【葛城 正巳(かつらぎ まさみ)】

 青年の声を少しだけ低くして、年齢と共に柔らかさを備えていったかのような声が聞こえれば、青年は声をかけて来た40代くらいの男に言うのだ。 

「教授、空から女の子が!」

「やりたかったのは分かりますが、そう言うのは必要ありませんよ」

 非現実的な状況に、穏やかに会話する2人。

「どうして、この状況で冷静なんですか? 少しはオカシイと思うべきですよね?」

 助けられておいて責めるのは流石に違うと思うけど、余りにも能天気な様子に大丈夫なのかしら? と、思ってしまったのだ。

「世の中は色々な不思議に満ちていますからねぇ~」

 教授と呼ばれた男性が、マッタリとした様子で照れながら答える。

「褒めていませんわ……」

 そして青年は青年でニッコリ笑って言うのだ。

「そうだねぇ……。 ほら、1度はやってみたいじゃない? 空からって奴が、こう物語の主人公みたいで素敵だと思わない?」

 脳内妄想と現実は違う。
 普通に考えれば警察案件ですから!!

 け、警察かぁ……また迷惑かけちゃうと思い出すのは、全ての苦痛から私を救いだしてくれた保護者、時塔ときとう皎一こういちの顔だった。

 私の憂鬱を他所に青年が呑気な返しをするから、私は溜息をつかざるを得ない。

「まともじゃないわ……」

「よしよし、余り怒るとお腹がすくよ」

 全く相手にされない様子に、私は何処か諦めた。 と、言うより、騒ぎにならないなら、ソレはソレで良いわよね? と、前向きに考える事にした。 だって現状を前向きに考えても何も現状を改善しないから。

「それは困ったわ。 スマホも財布も持ってないようだし……」

 それどころか、なぜかパジャマ姿だし……。

 状況が理解できない私を置き去りに、いえ……そもそもこの2人だって理解している訳がないんですよ。

「ほら、女の子」

 まるで猫が庭に入り込んできたかのように、私は両脇に手を入れられ抱えあげられたまま年配の男性へと見せつけられる。

 どうなんでしょう? この扱い。
 ぶらぶらと宙づり状態で私は憮然としてしまっていた。

「おや、よく来たね。 雫ちゃん」

 名を呼ばれて私は首を傾げる。
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