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序章

望まれたのは精神の死

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 暗い闇に私は溶ける。
 そこは孤独で何もない世界。

 な、ハズだった。

 生まれた時から不死だった私は孤独だった。
 人は私を人ではなく、実験動物として見ていたから。

 幼少期に時塔ときとう皎一こういちと言う青年に救われた事で、皮膚を裂き、肉を抉り、内臓を引きずり出し、頭蓋を割り、脳に電極を差す……不死の正体を探るために行われた実験は5歳の時に終わりをつげた。

 友達も出来た。
 1人だけど。

 だから研究対象に向けられる視線も、隙あらば不死を溜めそうとする悪意も見て見ぬふりが出来た。

『私は貴方のその死んだような魂が好きなの、なのに貴方は変化をしようとしている。 許せない……貴方に生きる喜び等必要無いと言うのに……。 ねぇ……私のために孤独の中に眠って……』

 唯一の友達が望んだのは、私の精神の死だった。



 もう、いいや……。



 溶けるように闇に拡散し眠りにつけば、それは死と同義ではないだろうか? 不死の呪いを生まれた時から負っている私は、不死を研究する者達が与える痛みや苦しみから逃げるためにずっと死を望んでいた。

 彼女の愛は歪で独占的だった。

『肉体は不死であっても、貴方は生きてはいない。 だから愛される事はない。 アナタを愛しているのは私だけ』

 だから他の誰とも仲良くなれなかった。
 なのに彼女は、私に絶対的な孤独を望み……そして私は……生きる事を諦めた。



 諦めた先。



 闇に抱きしめられた夢を見る。
 闇に拡散しかけた意識は収縮した先に幸福を感じた。
 温かな腕の中で私は愛されていると思ったのだ。

 弱くて……そして不安定で強い……愛しい存在。

 幸福な夢。

 死とも、生とも言えぬ状況。

 幸福しかない夢の中にどんな不安があるだろうか。
 むしろ守られていると安堵する。



 溶けて……混ざって、温かな闇が抱きしめてくる。
 愛を囁く声が甘く切ない声を聞いた気がした。

 不死と言う呪われた私を愛してくれた人。

 ……彼は誰だったろうか?
 本当にそんな人はいたのだろうか?


【雫(しずく)】

 それでも、この甘い幻聴に耳を傾ければ、私は呪いから解放され溶けて流れて闇に還る事が出来るような……そんな気がしていた。

『姫……晃殿の命令により転送を行います。 場所の指示は皎一殿より事前設定がなされているため、そちらが優先されます。 到着の衝撃にご注意下さい』

 アナウンスのような声。

『待って!! 何、どういう事?!』

 聞き返すが返事は無く……私は痛む胸に疑問を覚える。

 晃って……誰?

 例え的外れな返事であっても返事を返してくれるだけ、AIの方が親切なのではないだろうか? そんな意味のない事を考えるのは混乱しているからだろう。



 そして



 私は、青空の中に放りだされた。
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