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06.

43.契約書

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 ブラームの地位、私達3人の関係性を考えれば、マティルは助けてとは言えなかった。 助けてと言ってバウマンが顔をそむけたなら、私はきっと傷つき、裏切られたと、バウマンを嫌ってしまうでしょう。



 バウマンには、後が無かった。
 助けてと言われたら終わりだ。

 甘い声で恥じらいながらも喘ぐマティルの視線は助けを求めていた。 気づいてはいたけれど、助ければ……バウマンは終わりだ。 そして、助けなくてもバウマンの人生は終わり。

 薬の効果を上回る絶対的な絶望に、バウマンの体温が下がって行った。

 バウマンの表情が歪む。
 歩みが遅くなる。

「なぜ、そうきっちりと制服を着ているんだ?」

 抱きしめたマティルを腕の中で弄びながらブラームはバウマンに笑いかけていた。

「知っておいででしょう」

 声は乾き引きずっていた。

「喉が渇くなら、水でもどうだ」

 ブラームが視線でサイドテーブルにある水を飲めと伝えれば、バウマンは軽く首を横に振っていた。

 バウマンの緊張を、マティルの喘ぎが引き裂けば、俯き視線を背けた。

「ぁ……んっ……いや……ぁぁ」

 ドレスの中に入り込ませたブラームの腕はマティルの肌を撫でていた。 手を動かすごとに、上着ははだけ脱げ落ちる。 ブラームはマティルの首筋に唇を寄せ、舌を這わせ、甘く噛みつき、バウマンに見せつける。

「閣下!!」

 責めるようなバウマンの叫び。

 ふふふっと声に出して笑い、ニヤリとした表情をブラームが作った。

「どうした?」

「なぜ、こんなことを?」

 バウマンの声が震えていた。

 怒り?
 恐怖?

 そして……薬以上の興奮。

「なぜ? そんな事を、自分の身体に聞いて見ろ。 それよりも、カワイイとは思わないか?」

 剥き出しとなった上半身、零れ出る白い胸をブラームの大きな手で弄ばれマティルは快楽と、興奮に、息を荒げていた。

 ブラームは右手でマティルの胸を弄りながら、左手で顎を固定し、そして口内に指を潜ませ、マティルの視線をバウマンへと向けた。

「くっ……ふっ」

 マティルはこの状態で壊れる未来を恐れていた。
 3人の関係性が変化するしかない状況に泣きたくなった。

 引く事の無いブラーム。 だから、バウマンに助けて欲しいと、視線で語る。

 なのに、バウマンは赤面しながら顔をそむける。 それは、見せつけられた2人の姿に欲情を煽られると言う、不純な思考を知られる事を恐れたから。

 でも、マティルは見捨てられたのだと思った。

 怖い……怖い……いや、助けて……

 胸を撫でていた手が両足の間へと滑り込ませ、煽るように挑発するように敏感な蕾を指先でひっかいた。

「んっ、ふぅっ、ふぅ、ぁあああああ」

 辛い……、もう、いい……溺れてしまおう……だって、辛いから……。

 ブラームの手に合わせて、マティルは楽器の音色のように甘い声で、切なく啼いていた。

「バウマン、そんなに反応しておいて、恰好つけるなよ」

 ブラームは笑って見せれば、バウマンは声を荒げた。

「何を、したいのですか!!」

「俺の質問に全然答えず、文句ばかりだな」

「貴方が、余りにも非常識だから……」

「人のせいにするな。 何故、上着を着ている? 襟元まできっちりとしめてさ」

「見られたく無いからです……」

「俺やマティルが気にするとでも?」

「私は、醜いから……」

「隠すつもりか? 俺達に? 信用してもらえなければ、救えない」

「何を、言っているのか、分からない!!」

「脱げ」

「なぜですか!!」

「信用できないか?」

 意味が分からない、感情が高まり、体温が高まり、興奮が高まっていく。 収集のつかぬ感情に上着を脱ぎ捨てた。

「これで、これで、いいんですか!!」

 ブラームは笑い、そして告げる。

「あぁ、ソレでいい。 なら、次の質問だ。 マティルはカワイイだろう? ほら、見るんだ。 白い肌が興奮に赤味を帯びるのは美しいか? それとも怖いか? さぁ、見るんだ」

「ぁっ、んっぐふ」

 マティルの口に含まされ唾液に濡れたブラームの右手が胸へとおとされ、撫でられ、興奮に固くなった胸の先端がこりこりと指先で弄りだす。

「赤く実った果実のようで、美味しそうだと思わないか?」

「あぁ、カワイイですよ!! マティルはカワイイ!! 素敵だ!! その才能だけではなく、白い肌も、滑らかな髪も、伏せられた瞳も、全部素敵ですよ。 それが何だと言うんですか!!」

「いいや、確認した(だけだ)」

 興奮気味になったバウマンは、泣きそうな顔で立ち尽くし、ポツリ、ポツリと言葉を続ける。

「だけど、どうしろと言うんですか……私は強くない……マティルと婚約したからと言っても、何の権限も無い、それどころか……マティルすら食い物にされかねない。 婚約なんて、婚姻なんて無理なんです。 何を望めと言うんですか……」

 ブラームは、声を上げて高笑いする。

「今日、俺はベール侯爵家に向かって1つの契約を行った。 感謝するといい。 今日から、俺をお父様と呼べ」

「はっい?」

 呆れた声をバウマンが吐き出す。

「サイドテーブルの一番上の棚を開いて見るといい」

 ブラームが言えば、バウマンはまるで操られているかのように棚を開いた。 一番上に置かれた書類を取り上げ、中身を確かめた。 

 内容は、
 ベール侯爵がバウマンとの関係を絶縁すると言う書類。
 ブラーム・クラインとの養子縁組の書類。
 金銭受け渡しのための書類。
 今後バウマンに関わらないと言う書類。

 最後に、ブラームと、ベール侯爵家、そして未届け人となった大公殿下のサインがなされて書類は終わる。

 そこに記入された金額は、ベール侯爵領の年間収益金額。 先日、バウマンが売却したデザイン額と金額は変わらないが、侯爵がバウマンに認めている価値と比較すれば破格の額である事は確かだった。

「これは……」

「お前の未来を買った。 ただソレだけの事だ」

「なぜ、こんなことを……」

「なぜって? 俺は、マティルを愛している。 他の女性を妻に求める気はない。 ソレは俺のために作られた大公家の終わりを意味している。 ならばあとを継ぐ養子が必要だ」

 ブラームはマティルの肩口に唇を落としたまま笑って見せ、視線をバウマンに向けて問うた。

「さぁ、お前は自由だ……俺が保証しよう。 で、お前は、どうしたい? どうする?」

 バウマンは掠れる声で、薄く呟いた。

「マティル……キスを、していいでしょうか?」
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