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05.
37.言い分
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豪華な二頭立ての馬車が走っていた。
馬車の中では、無意識に笑うブラームと、呆れたように苦笑する王太子殿下。
「お付き合い頂きありがとうございます」
正装に身を包んだブラームが、王太子に頭を下げた。
「全く、ツマラナイ事に労力を割く」
「大金を払う価値はありますよ」
「金を払ってでもと言う意味では私も賛成だ。 良い投資だと思うよ。 ただ金額が問題だ。 私達が出向かなければもっと安く付いたと思うんだけど? 代理で十分だったのに、わざわざ私にまでつき合わせて……馬鹿だとは思っていたけれど……はぁ~ぁ、馬鹿をするなら1人でやってくれよ。 不愉快を隠すのにどれほどの労力を必要としたか分かっている訳?」
「お礼に領地にある鉱山の1つでも渡しますよ」
「いらないよ……コレでも僕は、弟妹思いなんでね」
「なら、最初から文句は言わないで下さい」
王太子は肩を竦めて苦笑する。
「報告だけでなく、全体を把握するために直接見ておきたかった」
「その意味するところは?」
「俺は欲深いと言う事ですよ」
そんな事を語っている中、走る馬車にノック音が響いた。 音の方角を見れば、学園の庭師の1人が馬で並走している。
「馬車を止めろ」
御者の方向にある窓に向かいブラームが言えば、速度が緩められ馬車が止まる。 扉が開かれれば、王太子とブラームの2人が馬車から降りた。
「閣下のお気に入りが女性に襲われていますが、どういたしますか?」
「どう、とは?」
ブラームには、イラつきが見られた。
「救助に飛び出そうとしていた影は、止めてあります」
「何故、止めさせた」
「閣下にとってのチャンスだからです。 ライバルがいなくなれば、閣下は愛する方を手に入れる事ができます」
「余計なお世話だ。 殴られない事に感謝しろ。 場所は?」
「いつも、スケッチをしている庭園です」
ブラームは庭師から馬を奪い、飛び乗り学園へと向かう。
マティルは、姫抱っこをされ庭園へ向かい運ばれていた。
抱き上げているのは、アーレント・ブローム伯爵令息。
アーレントがマティルを見つめる視線は、決して愛おしい女性を見つめる視線ではなく、欲情を覚えているような様子も無く、むしろ冷ややかに見下し軽蔑を含んだ視線だった……。
そして、意識を失いながらも不快な肉体の感触にマティルは顔をしかめていた。
気持ち悪い……。
身体に触れる生ぬるい温度は汗を含み肌に張り付くように、腕や足に触れ、夏用の薄い布地で作られた制服を自分以外の体温で温められる。
マティルは、小さく呻き声をあげ、必死に夢から覚めようと眠りの中であがき続ける。
あぁ、気持ちが悪い……。
マティルの呻き声がしっかりとした音になっていけば、アーレントは移動する速度を速め、バウマンとアンベルが居るはずの方向へと迷う事無く進んでいった。
やがてアーレントの耳に聞きなれた甘い声がきこえてきた。
アーレントは無意識にほくそ笑み音を立てずに近寄って行く。
アーレントの耳に聞こえたのは、挑発するアンベルの声と、怯え涙ぐむバウマンの声。
(くっくくく、はっはっはは、なんて惨めな恰好だ)
アーレントは、愉快だと声を出して笑いそうになった。
やっぱり、アレは、その程度の男だと言う事だ。 情けない男だ……あの様子なら、全てが上手くいったあとも、アンベルとの関係は解消する必要が無いだろう。 そんな事を考えるアーレントの思考には女性としてのマティルは完全に除外されていた。
19歳と言う学生の中では最年長である男ではあるが、アーレントにとってバウマンは無知なガキでしかなかった。 そして、アンベルに押し倒され泣きそうな顔をしているバウマンを見れば……。
マティルも王族もバウマンに対して過大評価をしていたようだと笑えて来る。 同時に、そんな男が殿下達に気に入られていると言うのが、腹立たしかった。
デザイナーとして?
はぁ? 馬鹿げている。
本当に彼がデザインしたのか?
いや、そんなものに価値があるのか?
適当に既製品の色を変え、素材を変え、襟の太さを変え、ボタンを隠し、シャツの装飾を一連の模様とする。 ソレがデザインって言うほどの労力か?!
そんな事は、あるはずがない!!
なら、何故、殿下達に気に入られている?
あぁ、誰もが理解している。
マティル・スタールの、いや、彼女の父親のお陰だ……。
アーレントは大きな木を背もたれにするようにマティルを座らせるように下ろし、肩にかけていたバッグから、錠剤と水を口に含みマティルに口づけ流し込み上向かせ、強引に飲み込ませた。
ごほっ、ごほっ、とマティルは咳き込みうっすらと目を開く。
「な、に?」
眉間を寄せ、不愉快そうにアーレントを見上げ、無意識に唇の端から零れた水を拭う。
「アンベルを見つけた」
「そう、なら私は行くわ」
その場を去ろうとしたが、覆いかぶさるように行動を封じられていた。 顔が近づけられれば、マティルはソレを避けるように顔を背け……その先にバウマンを見つけてしまった。
(バウマン?!)
声に出そうとすれば、手で口を塞がれる。
「バウマンとアンベルは、あぁ言う関係だったんだ……。 君は騙されていた」
マティルの耳元にアーレントが囁き、マティルは項垂れる……。
「バウマンは君を利用しているんだ」
「そう……」
力ないマティルの声にアーレントがほくそ笑む。
「可哀そうに……俺が君の力になるよ。 裏切られたもの同士……俺達ならお互いを理解しあう事が出来る。 いいだろう?」
汗ばんだ手がマティルの頬に触れた。
「触らないで……」
嫌悪の表情を向ければ、
「あぁ、傷ついているんだね。 可哀そうに……俺がいるよ」
そう言った瞬間……。
アーレントの背後から蹴りが入れられ、1m程吹っ飛んだ。
「ぐふっ、何をするっ(んだ!!)」
言い終わる頃には黒ローブの集団が、アーレントとアンベルを囲んでいた。
「なんだ!! 何をするんだ!!」
「な、何が起こったの?! 近寄らないで」
アンベルがバウマンに抱き着こうとしたところ、黒ローブが2人を強引に引き離す。 安堵したバウマンは声にならない声で、ありがとうございますと唇を動かしていた。
「ブローム伯爵令息と、ゾンダーハ伯爵令嬢を確保、懲罰房へと連れていけ。 やり過ぎだ」
冷ややかにブラームが命じた。
後日……。
「なぜ、あんなことをしたんですか?」
そう聞いたのは、教師ではなく王太子殿下だった。
「マティル・スタールが、あの女が全て悪いんだ!!」
同席したブラームが殴りそうになるのを、王太子は抑えるように告げる。
「彼女が何をしたと?」
「マティルは、余りにも無知だ。 だから分からせなければいけなかった」
「へぇ……何を?」
「彼女が、商人として正しくあるなら。 あんな愚かな男をプロデュースするなんてありえない。 彼女が本当に力のある商人なら、人を見る目があるなら、俺をプロデュースするはずだった。 俺はバウマンよりも人に愛されている。 人の役に立てる。 見る目がある。 洞察力がある。 行動力がある。 生まれと才能を無駄にするような男と違う。 俺の方がすぐれている。 ソレを正しく評価しないマティルが間違っている!! だから……正しくあろうとしたんだ!!」
アーレントとは饒舌に語り、そして、アンベルはただ微笑んだ。
「愛する事を罪だと、そんな無粋な事をおっしゃるのですか?」
馬車の中では、無意識に笑うブラームと、呆れたように苦笑する王太子殿下。
「お付き合い頂きありがとうございます」
正装に身を包んだブラームが、王太子に頭を下げた。
「全く、ツマラナイ事に労力を割く」
「大金を払う価値はありますよ」
「金を払ってでもと言う意味では私も賛成だ。 良い投資だと思うよ。 ただ金額が問題だ。 私達が出向かなければもっと安く付いたと思うんだけど? 代理で十分だったのに、わざわざ私にまでつき合わせて……馬鹿だとは思っていたけれど……はぁ~ぁ、馬鹿をするなら1人でやってくれよ。 不愉快を隠すのにどれほどの労力を必要としたか分かっている訳?」
「お礼に領地にある鉱山の1つでも渡しますよ」
「いらないよ……コレでも僕は、弟妹思いなんでね」
「なら、最初から文句は言わないで下さい」
王太子は肩を竦めて苦笑する。
「報告だけでなく、全体を把握するために直接見ておきたかった」
「その意味するところは?」
「俺は欲深いと言う事ですよ」
そんな事を語っている中、走る馬車にノック音が響いた。 音の方角を見れば、学園の庭師の1人が馬で並走している。
「馬車を止めろ」
御者の方向にある窓に向かいブラームが言えば、速度が緩められ馬車が止まる。 扉が開かれれば、王太子とブラームの2人が馬車から降りた。
「閣下のお気に入りが女性に襲われていますが、どういたしますか?」
「どう、とは?」
ブラームには、イラつきが見られた。
「救助に飛び出そうとしていた影は、止めてあります」
「何故、止めさせた」
「閣下にとってのチャンスだからです。 ライバルがいなくなれば、閣下は愛する方を手に入れる事ができます」
「余計なお世話だ。 殴られない事に感謝しろ。 場所は?」
「いつも、スケッチをしている庭園です」
ブラームは庭師から馬を奪い、飛び乗り学園へと向かう。
マティルは、姫抱っこをされ庭園へ向かい運ばれていた。
抱き上げているのは、アーレント・ブローム伯爵令息。
アーレントがマティルを見つめる視線は、決して愛おしい女性を見つめる視線ではなく、欲情を覚えているような様子も無く、むしろ冷ややかに見下し軽蔑を含んだ視線だった……。
そして、意識を失いながらも不快な肉体の感触にマティルは顔をしかめていた。
気持ち悪い……。
身体に触れる生ぬるい温度は汗を含み肌に張り付くように、腕や足に触れ、夏用の薄い布地で作られた制服を自分以外の体温で温められる。
マティルは、小さく呻き声をあげ、必死に夢から覚めようと眠りの中であがき続ける。
あぁ、気持ちが悪い……。
マティルの呻き声がしっかりとした音になっていけば、アーレントは移動する速度を速め、バウマンとアンベルが居るはずの方向へと迷う事無く進んでいった。
やがてアーレントの耳に聞きなれた甘い声がきこえてきた。
アーレントは無意識にほくそ笑み音を立てずに近寄って行く。
アーレントの耳に聞こえたのは、挑発するアンベルの声と、怯え涙ぐむバウマンの声。
(くっくくく、はっはっはは、なんて惨めな恰好だ)
アーレントは、愉快だと声を出して笑いそうになった。
やっぱり、アレは、その程度の男だと言う事だ。 情けない男だ……あの様子なら、全てが上手くいったあとも、アンベルとの関係は解消する必要が無いだろう。 そんな事を考えるアーレントの思考には女性としてのマティルは完全に除外されていた。
19歳と言う学生の中では最年長である男ではあるが、アーレントにとってバウマンは無知なガキでしかなかった。 そして、アンベルに押し倒され泣きそうな顔をしているバウマンを見れば……。
マティルも王族もバウマンに対して過大評価をしていたようだと笑えて来る。 同時に、そんな男が殿下達に気に入られていると言うのが、腹立たしかった。
デザイナーとして?
はぁ? 馬鹿げている。
本当に彼がデザインしたのか?
いや、そんなものに価値があるのか?
適当に既製品の色を変え、素材を変え、襟の太さを変え、ボタンを隠し、シャツの装飾を一連の模様とする。 ソレがデザインって言うほどの労力か?!
そんな事は、あるはずがない!!
なら、何故、殿下達に気に入られている?
あぁ、誰もが理解している。
マティル・スタールの、いや、彼女の父親のお陰だ……。
アーレントは大きな木を背もたれにするようにマティルを座らせるように下ろし、肩にかけていたバッグから、錠剤と水を口に含みマティルに口づけ流し込み上向かせ、強引に飲み込ませた。
ごほっ、ごほっ、とマティルは咳き込みうっすらと目を開く。
「な、に?」
眉間を寄せ、不愉快そうにアーレントを見上げ、無意識に唇の端から零れた水を拭う。
「アンベルを見つけた」
「そう、なら私は行くわ」
その場を去ろうとしたが、覆いかぶさるように行動を封じられていた。 顔が近づけられれば、マティルはソレを避けるように顔を背け……その先にバウマンを見つけてしまった。
(バウマン?!)
声に出そうとすれば、手で口を塞がれる。
「バウマンとアンベルは、あぁ言う関係だったんだ……。 君は騙されていた」
マティルの耳元にアーレントが囁き、マティルは項垂れる……。
「バウマンは君を利用しているんだ」
「そう……」
力ないマティルの声にアーレントがほくそ笑む。
「可哀そうに……俺が君の力になるよ。 裏切られたもの同士……俺達ならお互いを理解しあう事が出来る。 いいだろう?」
汗ばんだ手がマティルの頬に触れた。
「触らないで……」
嫌悪の表情を向ければ、
「あぁ、傷ついているんだね。 可哀そうに……俺がいるよ」
そう言った瞬間……。
アーレントの背後から蹴りが入れられ、1m程吹っ飛んだ。
「ぐふっ、何をするっ(んだ!!)」
言い終わる頃には黒ローブの集団が、アーレントとアンベルを囲んでいた。
「なんだ!! 何をするんだ!!」
「な、何が起こったの?! 近寄らないで」
アンベルがバウマンに抱き着こうとしたところ、黒ローブが2人を強引に引き離す。 安堵したバウマンは声にならない声で、ありがとうございますと唇を動かしていた。
「ブローム伯爵令息と、ゾンダーハ伯爵令嬢を確保、懲罰房へと連れていけ。 やり過ぎだ」
冷ややかにブラームが命じた。
後日……。
「なぜ、あんなことをしたんですか?」
そう聞いたのは、教師ではなく王太子殿下だった。
「マティル・スタールが、あの女が全て悪いんだ!!」
同席したブラームが殴りそうになるのを、王太子は抑えるように告げる。
「彼女が何をしたと?」
「マティルは、余りにも無知だ。 だから分からせなければいけなかった」
「へぇ……何を?」
「彼女が、商人として正しくあるなら。 あんな愚かな男をプロデュースするなんてありえない。 彼女が本当に力のある商人なら、人を見る目があるなら、俺をプロデュースするはずだった。 俺はバウマンよりも人に愛されている。 人の役に立てる。 見る目がある。 洞察力がある。 行動力がある。 生まれと才能を無駄にするような男と違う。 俺の方がすぐれている。 ソレを正しく評価しないマティルが間違っている!! だから……正しくあろうとしたんだ!!」
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