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04.
26.王女殿下来襲
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懲罰房での期間は、閉鎖的な場所での1月と少し。
私もバウマン様も、周囲も変化していた。
だけれど、こんな事になる事等想像していただろうか?
授業に出向こうと準備をしているところに来客が訪れた。
ノックの音が響く。
「はい」
扉の向こうには御年13歳となる王女殿下。 侍女2人を背後に従えて仁王立ちで彼女はこういう。
「お茶を飲みに来てあげたわ!!」
「ぇ?」
「安心して、お茶もお茶菓子も自分で持ってきたから」
それは、どうなんだろう? と思いつつ部屋に招きいれれば好奇心まるだしで周囲を見回し、退屈そうに肩を落とした。
「随分とシンプルね」
戸惑う私を誰が責める事ができるでしょうか?
商人として王族との縁は強くはあるものの、商売第一に考える父親は王族相手の商売に私を同行させる事はなく……どうすればいいの?! と、内心焦るばかりなのだけど。
「もっと、カワイイのを想像していたのに」
ぶーと頬袋に餌を溜めこんだリスのような顔をする王女ゾフィーに、気も緩むと言うものです。 ですが、礼儀を忘れてはいけません相手は王族ですから。
「流石に、アレを自室に広げ立てるのは、はばかられますわ」
そういいながら、ソファーへと誘った。
「ほら、カップを出しなさい。 と、言うか見せなさい!!」
少し間を置く。
「ぁ……」
別に考えこむまでの必要はないのだが、少しばかり心のリセットが必要だとようやく思い至った私は、大きく息を吸って吐いて……微笑んだ。
「しばらくお待ち下さい」
せっかくバウマン様の描いたものをアピールする機会を得たのだ。 それも、最もアレを愛らしいと感じるだろう年ごろの少女であるゾフィー王女殿下であれば、チャンスだ!!
カップは、幾つもの仕切りが作られた木箱にしまわれている。 木工彫刻を得意としていた番人の青年が作ってくれたのだ。
箱は3×3の箱が5つ。 花、風景、鳥、蝶、小動物の5種類ある。 が、万が一欲しいと言われる可能性だってありえる。 ひと月の間に婚約者贔屓が増し増したマティルは、物凄い素早さで、どうしても人様に譲りたくない箱を1箱作った。 華麗な動作で。
懲罰房内での日常。 ただバウマン様を見ていただけでも、お使いをしていただけでもありませんわ。 散々言われてきた礼儀作法の勉強もしっかりとしていたのですから、おじけづくことなんてありません!!
「お待たせいたしました。 お好きなカップをお選び下さい」
「へぇ、綺麗ね……」
ヴィッテル国の貴族達が策略を巡らせ、弱った者に追い打ちをかけ、集団で追い回し陥れるソレが当たり前になったのは、先々代の頃に大きな気候異常が起こったためと言われている。 とは言え、今は生活に困る事はなく、良い領主が統治する地域であれば、庶民でも娯楽に興じる事が出来る時代になっている。
華美とまではいかなくても、少しぐらいは『好き』な事に目を向ける余裕を持つぐらいは良いのではないだろうか? と、言う売り込みで、バウマン様の評価を高めていこうと考えていた。
少し早くなっただけ。
「コレにするわ!!」
選ばれたのは、トカゲをひょうきんにデフォルメして描かれたカップだった。 描いてもらっていた時は、
『コレは、無いと思いますわ』
『そうですか? 見慣れるとカワイイですよ?』
なんて会話を交わしたのを覚えている。
だが、何故にトカゲ? を選びます? もっとカワイイの沢山ありますよ?
「独特なものをお選びになられるのですね」
「だって、当たり前は退屈でしょう? まぁ、この国では、シンプルこそが美徳とするツマラナイブランドばかりなんだけどね。 そういうのってどう思っている訳? スタール男爵令嬢としては」
「私は……王女殿下の意見に賛同ですわ」
「だからぁ、そんな退屈な返事はいらない。 もっと踏み込んできなさい」
前のめりにニンマリと笑ってくる。
「……個人的にいえば、シンプルな中に豪華1点主義も悪くはございませんが、もっとカワイイ物が好きですわ……。 他国では、美しいものに付加価値が与えられ、高値を付けている商品が多々あります。 飢えなければ良い、凍えなければ良いではなく、もう少しゆとりをもって好きを追求しても良いのではないでしょうか?」
「へぇ……」
ニヤニヤしながらジッと見つめられれば、次の言葉が待たれていると言うのが分かった。 息を大きく吸い。
「国を導く立場にある王女殿下であらせる方に……」
「そういう、面倒な前置きはいらないわ」
「そう、ですか……。 では、失礼します。 カップを作ると言うのであっても、シンプルで均一なものを求めるのではなく、こういう絵付けに意味を持てば、職業の幅が広がると言うものです。 他国では芸術に宝石と同等の対価をつける国もございます」
シュカ王女が戻ってきた以上、他国の知識は十分にあるはず。 あえて説明する必要も感じないが、要求されれば語るべきでしょう。
「売れると思う?」
「売れます。 庶民の間では、木製カップ、髪飾り、ハンカチ、等をプレゼントする際に、可愛らしい模様をアクセントに入れる事がひそかに流行って居ます。 庶民発の流行なため、貴族的にはプライドが許せないと言うのがあるのかもしれませんが、ワンランク上の品を容易すれば必ず流行ると私は考えております」
「ふむ、同意見よ!! 私だって、こういうのを貰えたなら嬉しいわ」
「お好きなのがございましたら、ぜひお持ち下さいませ」
「では、遠慮なく。 貴方達、これを生徒会室へ」
「殿下!! 王女殿下ともあろう方が、配下のモノを奪うなどおやめください」
「あら構わないわよ。 大切なものはちゃんと退かしてある物ねぇ?」
言われて私はニッコリと笑い……心の中ではばれていたかと舌を出していた。
私もバウマン様も、周囲も変化していた。
だけれど、こんな事になる事等想像していただろうか?
授業に出向こうと準備をしているところに来客が訪れた。
ノックの音が響く。
「はい」
扉の向こうには御年13歳となる王女殿下。 侍女2人を背後に従えて仁王立ちで彼女はこういう。
「お茶を飲みに来てあげたわ!!」
「ぇ?」
「安心して、お茶もお茶菓子も自分で持ってきたから」
それは、どうなんだろう? と思いつつ部屋に招きいれれば好奇心まるだしで周囲を見回し、退屈そうに肩を落とした。
「随分とシンプルね」
戸惑う私を誰が責める事ができるでしょうか?
商人として王族との縁は強くはあるものの、商売第一に考える父親は王族相手の商売に私を同行させる事はなく……どうすればいいの?! と、内心焦るばかりなのだけど。
「もっと、カワイイのを想像していたのに」
ぶーと頬袋に餌を溜めこんだリスのような顔をする王女ゾフィーに、気も緩むと言うものです。 ですが、礼儀を忘れてはいけません相手は王族ですから。
「流石に、アレを自室に広げ立てるのは、はばかられますわ」
そういいながら、ソファーへと誘った。
「ほら、カップを出しなさい。 と、言うか見せなさい!!」
少し間を置く。
「ぁ……」
別に考えこむまでの必要はないのだが、少しばかり心のリセットが必要だとようやく思い至った私は、大きく息を吸って吐いて……微笑んだ。
「しばらくお待ち下さい」
せっかくバウマン様の描いたものをアピールする機会を得たのだ。 それも、最もアレを愛らしいと感じるだろう年ごろの少女であるゾフィー王女殿下であれば、チャンスだ!!
カップは、幾つもの仕切りが作られた木箱にしまわれている。 木工彫刻を得意としていた番人の青年が作ってくれたのだ。
箱は3×3の箱が5つ。 花、風景、鳥、蝶、小動物の5種類ある。 が、万が一欲しいと言われる可能性だってありえる。 ひと月の間に婚約者贔屓が増し増したマティルは、物凄い素早さで、どうしても人様に譲りたくない箱を1箱作った。 華麗な動作で。
懲罰房内での日常。 ただバウマン様を見ていただけでも、お使いをしていただけでもありませんわ。 散々言われてきた礼儀作法の勉強もしっかりとしていたのですから、おじけづくことなんてありません!!
「お待たせいたしました。 お好きなカップをお選び下さい」
「へぇ、綺麗ね……」
ヴィッテル国の貴族達が策略を巡らせ、弱った者に追い打ちをかけ、集団で追い回し陥れるソレが当たり前になったのは、先々代の頃に大きな気候異常が起こったためと言われている。 とは言え、今は生活に困る事はなく、良い領主が統治する地域であれば、庶民でも娯楽に興じる事が出来る時代になっている。
華美とまではいかなくても、少しぐらいは『好き』な事に目を向ける余裕を持つぐらいは良いのではないだろうか? と、言う売り込みで、バウマン様の評価を高めていこうと考えていた。
少し早くなっただけ。
「コレにするわ!!」
選ばれたのは、トカゲをひょうきんにデフォルメして描かれたカップだった。 描いてもらっていた時は、
『コレは、無いと思いますわ』
『そうですか? 見慣れるとカワイイですよ?』
なんて会話を交わしたのを覚えている。
だが、何故にトカゲ? を選びます? もっとカワイイの沢山ありますよ?
「独特なものをお選びになられるのですね」
「だって、当たり前は退屈でしょう? まぁ、この国では、シンプルこそが美徳とするツマラナイブランドばかりなんだけどね。 そういうのってどう思っている訳? スタール男爵令嬢としては」
「私は……王女殿下の意見に賛同ですわ」
「だからぁ、そんな退屈な返事はいらない。 もっと踏み込んできなさい」
前のめりにニンマリと笑ってくる。
「……個人的にいえば、シンプルな中に豪華1点主義も悪くはございませんが、もっとカワイイ物が好きですわ……。 他国では、美しいものに付加価値が与えられ、高値を付けている商品が多々あります。 飢えなければ良い、凍えなければ良いではなく、もう少しゆとりをもって好きを追求しても良いのではないでしょうか?」
「へぇ……」
ニヤニヤしながらジッと見つめられれば、次の言葉が待たれていると言うのが分かった。 息を大きく吸い。
「国を導く立場にある王女殿下であらせる方に……」
「そういう、面倒な前置きはいらないわ」
「そう、ですか……。 では、失礼します。 カップを作ると言うのであっても、シンプルで均一なものを求めるのではなく、こういう絵付けに意味を持てば、職業の幅が広がると言うものです。 他国では芸術に宝石と同等の対価をつける国もございます」
シュカ王女が戻ってきた以上、他国の知識は十分にあるはず。 あえて説明する必要も感じないが、要求されれば語るべきでしょう。
「売れると思う?」
「売れます。 庶民の間では、木製カップ、髪飾り、ハンカチ、等をプレゼントする際に、可愛らしい模様をアクセントに入れる事がひそかに流行って居ます。 庶民発の流行なため、貴族的にはプライドが許せないと言うのがあるのかもしれませんが、ワンランク上の品を容易すれば必ず流行ると私は考えております」
「ふむ、同意見よ!! 私だって、こういうのを貰えたなら嬉しいわ」
「お好きなのがございましたら、ぜひお持ち下さいませ」
「では、遠慮なく。 貴方達、これを生徒会室へ」
「殿下!! 王女殿下ともあろう方が、配下のモノを奪うなどおやめください」
「あら構わないわよ。 大切なものはちゃんと退かしてある物ねぇ?」
言われて私はニッコリと笑い……心の中ではばれていたかと舌を出していた。
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