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02.
09.紙の束に思うこと
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「呆れた(誉め言葉)……」
そう呟いたのはブラーム様で、私もソレには同意しかない。
ブラーム様は、床に散らばる紙の束を集めて回りながら、1枚1枚を眺め見ており、そんなブラーム様に私は問いかける。
「どう、されます?」
王族は、国父、国母と呼ばれる。 ソレは、単純な敬意を示す言葉ではなく、ヴィッテル国の王族は、立ち入り過ぎなほどに導き、正そうとする気質を持ち合わせているからだ。
「昨日言った通り、幾つか形にすればいい。 思ったより期待できるのは分かった。 金は出そう。 手配してくれ」
「あぁ、ダメです」
大きなハンバーガーを、外見の繊細さからは想像もつかないほど豪快に3個ペロリと食べ終えたバウマンは会話に割って入った。
「何故? 俺のために描いたのではないのか?」
「その通りです!! ですが、閣下のために描いたからこそ、閣下に相応しい布地や糸を選び装飾品を厳選したいのです。 せっかく作らせて頂くなら、妥協したく等ありません。 身体のラインをどう生かすかも色々と試させて頂きたい」
勢いをつけ前のめりに言われれば、私は……いえ、多分、ブラーム様もきっと複雑な気分を胸に抱いたものでしょう。 私達3人の関係に。
「それは、どういう意味だ?」
「意味? 意味等ありません。 言った通りです。 どうせ作るなら最高のモノを作りたい。 マティル、閣下に相応しい職人を手配してもらいたい」
「学園のルール上、外の職人の出入りは許されていませんわ。 学園の敷地内にいるのは、見習いの職人たちです。 ですが、腕は悪くはないと思いますわ」
商業区に住まう職人たちは、未熟な貴族達に相応しい見習いたちだ。
「まったく、使えない!! そんな……中途半端な職人に閣下が袖を通す者を依頼しなければいけないなんて、なんて酷い」
大げさなまでに言うから、私は少しキツく反論する。
「彼等も私達と一緒です」
「はっ、庶民じゃないですか!!」
「才能が認められれば後継人が付き、王族が認めたと言う証が得られる。 その資格へのチャレンジ権利を彼等は実力で獲得したのですよ。 見る前から相手を決めつけるのは良くないと思いますわ。 バウマン様、貴方も……嫌な思いをなされたのでしょう?」
内容が彼にとってキツクあたる分、口調は穏やかなものにした。
「それは……そうですが……そう、ですね。 えぇ、彼等は見習いであってもその道を学んできた者達……。 私よりも余程立派ですね。 私は……王族の方々の前で、何もできなかった……いえ、何を言っているのか理解すらできなかった……」
生徒会で何があったかは分かりませんが、彼は分かりやすく落ち込んだ。 バウマン様が下した王族の方々の評価も仕方がない。
王族の方々が生徒会として行う業務とは学園の運営だけでなく、各領地の突起すべき事項の調査報告を読み把握し、改善・改革が可能だと判断した場合、その案を出し合い、領主である貴族に助言を行う事。
この時、自分の意見を何も出せないようでは、ただのお茶くみと変わらなくなるでしょう。
領地を没落に追いやったベール侯爵家の者が、領地運営に関して有用な知識を持っている訳などありません。 そしてソレはその息子も余程の奇跡が無い限りは同様でしょう。
ちなみに生徒会の行動を知っているのは、各領地の調査報告を行い、改善・改革の相談を父が受けていたから。 そう言うのも含めて父は高い評価を得ているのよね……強欲な方ですけど……。
落ち込むバウマン様を無視して私は室内に散らばる紙を集め終え、紙の入った箱に入れる事にした。
「そこは、違う!! ちゃんと見て下さい。 見て分からないなら聞いて下さい!!」
「ごめんなさい。 では、コレは何処へ?」
「いや、えっと、そうですね……。 今は机の上にでもおいておきましょう。 後で何か入れる箱を準備していただきます」
「ではここに置かせて頂きますね。 ところで、物凄い量の紙ですが、コチラも拝見してよろしいですか?」
膨大な箱の中の紙へと視線を向けながら問いかける。
全てが物になる訳ではないだろうけれど、バウマン様のこの情熱は決して無駄ではないと、経験から得た私の知識が訴えるから、彼が発する言動への不満を横に置き、私は愛想良く尋ねた訳だ。
「どうぞ、ご自由に」
そしてバウマン様の言葉の続きは、視線と共にブラーム様へと向けられる。
「退屈まぎれになれば良いのですが……」
私は彼の態度の差に不快感を覚えていたが、ソレをあからさまにするのは良くないと、肩を竦めて見せる事で私は感情を誤魔化した。 そうやって恰好から入って行けば、やがて心……感情も、諦めへと追いつく……かもしれませんし?
私は、箱の中から紙を束で手に取り椅子に腰かけ、そのデザイン画へと視線を落とす。
そこに描かれているのは女性ものの衣類。
貴族の1日をフォローするような様々なシチュエーションで何枚も何枚も、木箱がいっぱいになるほどに描かれていた。
ソレを見ていた私は溜息をつく。
それはシュカ王女をイメージしたデッサンの数々で、彼女のイメージを深めるためでしょうか? 似顔絵も数多く存在しており、それは本物のシュカ様以上に王女らしく、そして本物以上の美しさを醸し出している。
ソレを見た私は、不思議な感情に囚われる。
その感情はとても不格好で醜く思え、私はその感情から逃げ出すようにブラーム様に問いかける。
「お茶のお代わりは如何ですか?」
「頂こう」
そう短く言葉にしたブラーム様は笑っていた。
そう呟いたのはブラーム様で、私もソレには同意しかない。
ブラーム様は、床に散らばる紙の束を集めて回りながら、1枚1枚を眺め見ており、そんなブラーム様に私は問いかける。
「どう、されます?」
王族は、国父、国母と呼ばれる。 ソレは、単純な敬意を示す言葉ではなく、ヴィッテル国の王族は、立ち入り過ぎなほどに導き、正そうとする気質を持ち合わせているからだ。
「昨日言った通り、幾つか形にすればいい。 思ったより期待できるのは分かった。 金は出そう。 手配してくれ」
「あぁ、ダメです」
大きなハンバーガーを、外見の繊細さからは想像もつかないほど豪快に3個ペロリと食べ終えたバウマンは会話に割って入った。
「何故? 俺のために描いたのではないのか?」
「その通りです!! ですが、閣下のために描いたからこそ、閣下に相応しい布地や糸を選び装飾品を厳選したいのです。 せっかく作らせて頂くなら、妥協したく等ありません。 身体のラインをどう生かすかも色々と試させて頂きたい」
勢いをつけ前のめりに言われれば、私は……いえ、多分、ブラーム様もきっと複雑な気分を胸に抱いたものでしょう。 私達3人の関係に。
「それは、どういう意味だ?」
「意味? 意味等ありません。 言った通りです。 どうせ作るなら最高のモノを作りたい。 マティル、閣下に相応しい職人を手配してもらいたい」
「学園のルール上、外の職人の出入りは許されていませんわ。 学園の敷地内にいるのは、見習いの職人たちです。 ですが、腕は悪くはないと思いますわ」
商業区に住まう職人たちは、未熟な貴族達に相応しい見習いたちだ。
「まったく、使えない!! そんな……中途半端な職人に閣下が袖を通す者を依頼しなければいけないなんて、なんて酷い」
大げさなまでに言うから、私は少しキツく反論する。
「彼等も私達と一緒です」
「はっ、庶民じゃないですか!!」
「才能が認められれば後継人が付き、王族が認めたと言う証が得られる。 その資格へのチャレンジ権利を彼等は実力で獲得したのですよ。 見る前から相手を決めつけるのは良くないと思いますわ。 バウマン様、貴方も……嫌な思いをなされたのでしょう?」
内容が彼にとってキツクあたる分、口調は穏やかなものにした。
「それは……そうですが……そう、ですね。 えぇ、彼等は見習いであってもその道を学んできた者達……。 私よりも余程立派ですね。 私は……王族の方々の前で、何もできなかった……いえ、何を言っているのか理解すらできなかった……」
生徒会で何があったかは分かりませんが、彼は分かりやすく落ち込んだ。 バウマン様が下した王族の方々の評価も仕方がない。
王族の方々が生徒会として行う業務とは学園の運営だけでなく、各領地の突起すべき事項の調査報告を読み把握し、改善・改革が可能だと判断した場合、その案を出し合い、領主である貴族に助言を行う事。
この時、自分の意見を何も出せないようでは、ただのお茶くみと変わらなくなるでしょう。
領地を没落に追いやったベール侯爵家の者が、領地運営に関して有用な知識を持っている訳などありません。 そしてソレはその息子も余程の奇跡が無い限りは同様でしょう。
ちなみに生徒会の行動を知っているのは、各領地の調査報告を行い、改善・改革の相談を父が受けていたから。 そう言うのも含めて父は高い評価を得ているのよね……強欲な方ですけど……。
落ち込むバウマン様を無視して私は室内に散らばる紙を集め終え、紙の入った箱に入れる事にした。
「そこは、違う!! ちゃんと見て下さい。 見て分からないなら聞いて下さい!!」
「ごめんなさい。 では、コレは何処へ?」
「いや、えっと、そうですね……。 今は机の上にでもおいておきましょう。 後で何か入れる箱を準備していただきます」
「ではここに置かせて頂きますね。 ところで、物凄い量の紙ですが、コチラも拝見してよろしいですか?」
膨大な箱の中の紙へと視線を向けながら問いかける。
全てが物になる訳ではないだろうけれど、バウマン様のこの情熱は決して無駄ではないと、経験から得た私の知識が訴えるから、彼が発する言動への不満を横に置き、私は愛想良く尋ねた訳だ。
「どうぞ、ご自由に」
そしてバウマン様の言葉の続きは、視線と共にブラーム様へと向けられる。
「退屈まぎれになれば良いのですが……」
私は彼の態度の差に不快感を覚えていたが、ソレをあからさまにするのは良くないと、肩を竦めて見せる事で私は感情を誤魔化した。 そうやって恰好から入って行けば、やがて心……感情も、諦めへと追いつく……かもしれませんし?
私は、箱の中から紙を束で手に取り椅子に腰かけ、そのデザイン画へと視線を落とす。
そこに描かれているのは女性ものの衣類。
貴族の1日をフォローするような様々なシチュエーションで何枚も何枚も、木箱がいっぱいになるほどに描かれていた。
ソレを見ていた私は溜息をつく。
それはシュカ王女をイメージしたデッサンの数々で、彼女のイメージを深めるためでしょうか? 似顔絵も数多く存在しており、それは本物のシュカ様以上に王女らしく、そして本物以上の美しさを醸し出している。
ソレを見た私は、不思議な感情に囚われる。
その感情はとても不格好で醜く思え、私はその感情から逃げ出すようにブラーム様に問いかける。
「お茶のお代わりは如何ですか?」
「頂こう」
そう短く言葉にしたブラーム様は笑っていた。
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