【R18】婚約者は私に興味がない【完結】

迷い人

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02.

07.彼への好意は仕方がない

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 愛している。

 嫌いな相手であれば拒絶も簡単。

 だけど……、嫌われたくない相手だからこそ辛くなるとは思いませんか? そう、ブラーム様本人に問いかけ、要求を突きつけるのもまた卑怯な気がして黙り込む。

 嫌える訳等絶対にない。
 彼との絆を無かった事にできる訳ないもの。

 だから私は彼の甘い部分に期待し、そして拒絶する……。



 今は大公の地位についているブラーム・クライン様ですが、彼の少年時代は病の母のため、日々スタール男爵家で務めていた少年でした。 彼は王族特有の腕力を持っており、そこに目を付けた父は、彼を特別な使用人になるだろうと迎えていたのです。

 彼が使用人として我が家に来たばかりの頃、事件は起きました。

 王族の方々は出自に関係なく、商人でありながら男爵家に婿入りした父に高い評価を与えて下さいました。



 過去にしがみつくだけの貴族への当てつけのように……。



 ソレは他の貴族達の嫉妬となり、狂気を含み、幼い私へと発奮されてしまったのです。

 誘拐。
 側付きの侍女の死。
 そして、脅迫。

 その脅迫は、私の命と、我が家の財産と地位に危険をもたらすもの。 犯人にしてみれば、私の命を放棄しても財産を投げ出しても、どちらにしても面白い結果だったと思います。 いえ、むしろ娘の命を蔑ろにする方が父を再起不能へと落とすことが出来るため期待していたのでしょう。

 薄情な言動で娘を殺した。
 ソレを求めるよう、様々な誘導が行われたのです。

 そんな場から私を助けてくれたのがブラーム様でした。

 色々あった結果、彼は私の命を助け、私も彼の命を助ける事となりソレは信頼関係へと繋がりました。

 彼は命と財産の恩人として、屋敷で住まう事が許され、母親には治療が与えられ、彼には教育が与えられ、そして彼は王家の騎士となり自らの力のみで功績をあげ、王の子として認められるようになり、王位継承の放棄と共に大公の地位が与えられたのです。

 騎士になるまで、彼は私の護衛で……家族よりも近しい人でした。



「愛している」

 繰り返される言葉。

「ダメ……なの……受け入れられない」

 拒絶を続ければ嫌われてしまう恐怖に折れそうになる。

 ダメ……。

 精神的に追い詰められた私は、逃げ出そうと席を立てば、溜息と共に私の良く知る兄の顔をブラーム様は見せ微笑んだ。

「せっかく注文したんだ。 俺は仕事に戻るから食べていきな」

「……でも……」

「いいよ。 覚えていて欲しいと言っただけだ」

 苦痛の伴う笑みを向けられれば罪悪感を覚え痛かった。

「ごめんなさい」

 瞳を見る事ができずに俯けば、ゴツゴツとした手が頬を撫で唇に触れ、顔を上げさせる。

「な、に?」

「俺の事好き?」

 婚約者を持つ身で、自分に愛を語る男性に好きと語るのは、例えソレが家族の情であったとしても誤解の元となるのですから許されるはずがありません。

「本当の事を言わないと、この場でキスをするぞ」

 冗談だよと言うように笑うブラーム様。 私は彼に何度となく唇を撫でられ、彼の指先が唇を分けて中に入ってこようとしたから私は慌てて答えた。

「ぇ、っと……。 兄様のようなと言う意味なら、好きですし……尊敬しています」

「ソレでいい。 また、明日」

 そう言いながら立ち上がったブラーム様は、顔を寄せて私の目じりに口づけてくる。 ひゃぁ!なんて声が上がりそうになれば、大きな手が口を塞いできた。

 視線だけで睨みつけようとすれば、顔が近くて、顔を反らしてボソリと述べる不満。

「わ、私には婚約者が……」

「この程度挨拶だろう?」

 赤くなる頬を撫でながらブラーム様が笑う表情は、幼い頃から良く見かけるもので、強張った心の中がふにゃりと崩れそうになる。

「いい子だ」

 もう一度額に口づけをしたブラーム様は、ヒラヒラと手を振りながら去って行った。



 空気を読んでいたらしい給仕役の人は、ブラーム様の姿が完全に見えなくなった頃を見計らいデザートを持ってきたのだけど、私は顔を合わせる事もできずに俯いた。

 カタンと置かれるフルーツタルトと、入れ直された紅茶。

「ありがとう」

「……」

 頭を下げ去って行こうとする給仕の背に私は問いかける。

「あの……」

「何か?」

 私は大きく息を吸って問いかけた。

「私は、悪い子かしら……」

 婚約者がいるのに……。

「この学園は自分の気持ちと向かい合う場でもあります。 貴方を責める方は存在しません」

 王立貴族学園にいる大人達は、商業区の店員、出入りの業者を除けば多くの者達が生徒達を見守り評価する者達なのだ。 下手な事をすれば社会的に大問題となる。

 言われた意味を理解しきれない私は、きっと不安そうな顔をしていたのでしょう。 入寮から1度だって笑顔を見せたことのない給仕が一瞬だけ笑みを向けてくれた。 おかげで私はフルーツタルトを美味しく味わえたのだけれど……。

 明日を思えば、憂鬱な気分になる。
 嫌いではないのに……。
 好きなのに……。
 会いたくないって、とても変だわ。

 そんな事を考えながら、私は午後からの錬金術の授業へと向かう。
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