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02.

06.告白

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「何をする!! 彼女は私の婚約者だぞ!!」

 勢いのままバウマン様が声を荒げる様子は、一言で言えばらしくはない。

「公共の場で女性を怯えさせるのは、どうかと思うが?」

 割って入ったのは、入学式典でダンスのフォローをしてきた大公ブラーム・クライン。

「王族の方がこのような場で何をなさっているのですか? 王族の方には王族の方専用の寮がありますよね?!」

「私は、王族よりも1段下の存在として見られ居るからな。 仕方のない話だ」

「婚約者同士が、交流を深めようとしているのです。 邪魔しないで下さい」

「毎年、何人か誤解をする者がいると聞いているが、仲良くと言うのはそういう事ではない。 むしろソレは減点内容となるが? 幾ら、寛容をもって失敗が許されるとしているが、他者を不快に付することを許されている訳ではない。 これを報告すれば、どうなるか……一度調べてみてはどうだ? チェックするべき大人達は彼方此方にいる事を忘れるな」

 言われてバウマン様が視線を巡らせれば、食堂の店員がコチラを見ていたらしく焦りを見せた。

「ぁ、も、申し訳ございません……。 生徒会での失態で……」

「気にするな。 生徒会とは言っているが、そこで行っているのは王政の模擬行為。 大抵のものは、上手くできる訳等無い。 その中から稀にいる特別を探しているのに過ぎない」

 ソレはソレで特別ではないのだと言われた訳で、バウマン様は肩を落とす。

 シュンっと肩を落としたバウマン様は、私に向かって頭を下げた。

「申し訳なかった。 焦ってしまって……マティル……」

「はい」

 ブラーム様の少し後ろにいる私に、落ち込んだ様子のままバウマン様が問いかけて来た。

「私の得意とするべき事とはなんだろう?」

 最初から要求するばかりの彼に対して面倒臭さを感じている私ではありますが、それでも私が婚約者と言う役割を演じ続けるのは、婚約者の関係性を築くための時間を提供されたこの場所は、婚約者との関係性が無理・ダメとなった場合、家同士の利益関係を無視し、王家の後ろ盾によって婚約の破棄を行う事が出来ると言う特殊事項があるから。

 弱者の救済の場ではあるものの、態度が悪ければ自分が置かれている状況が不利となる。 だから、前向きに関係性を築こうとしていると言う態度がどうしても必要になる。

「そうですね。 センス? でしょうか?」

 誰にでも良いところはあるものです。

 入園式典から何かと失態続きのバウマン様だが、男性からの評価は悪いが、女性からの評価は下がってはいない。 馬鹿みたいな外見の良さとソレに際立たせるような立ち居振る舞い、なによりも際立つのはそのセンスだ。

 貴族達が集まる学園ではありますが、服装に対しては金銀宝石で装飾を行う貴族としての体裁を必要としておらず、基本となる制服が定められている。 だからと言ってソレが絶対と言う訳ではありません。

 基本はベースのブレザーの、ネクタイ、ベスト、ボタン、スカートそのものを変える等の変更も許されており、私であればタイトなロングスカートをベースに裾やスリットを中心に同系色の糸で目立たせることない刺繍が入っている。 そして上着は、裾の短いブレザー。

 コレは、入学前にそんなダサい恰好で私の横に立つつもりかと怒り出したバウマン様指示によって改造を行った制服で彼自身も、ブレザーを全体的に絞り、襟部分は細くし、同系統の糸でさりげない刺繍が入れられている。 ネクタイも私同様指定のものではなくループタイを使いモチーフに校章を入れていた。

「立ち姿がセクシーだと女生徒の間で噂になっておりますよ」

 失態続きで頼りなく自信を無くしている時ですら、身についた立ち居振る舞いと言うものは無意識で行っているのだ。

「そう、なのか……」

 バウマン様は照れた様子で嬉しそうな姿を見せて来た。

「どうすれば、失態を取り戻せると思う?」

 過去多くの人間が学園を出入りしているにも関わらず、失態例も成功例も不思議にも噂になる事は無かった。

 他者の成功を障害と考える傾向がこの国の者達の心の奥底に染みついている。 ソレが原因かしらと私は考えているのだけど……。

 最年長であり、婚約の有無に関係なく、王族の権限として王立貴族学園に関係しているブラーム様の表情をチラリと覗き見る。

「どうかしたか?」

「いえ……。 そうね、バウマン様。 ブラーム様なら王家専用の制服をどう変えます?」

「ぇ?」

「せっかく、ここに居らっしゃるのですから。 マイナス報告がなされるだろうピンチをチャンスとさせていただくのはどうかしら?」

「そうですねぇ……。 筋肉量の多さが、通常のスーツだと少しばかりやぼったくなるので、騎士団の制服、アレの型を応用するのがいいでしょう。 全体的に大胆にメリハリのある色味を使う。 絞るところは実際に調整してみないと、どの程度がちょうど美しく見えるかはわかりませんが……」

 そう言って真面目に考えだした。

「ほぉ……面白いな」

 バウマン様に対して不快感ばかりが先行していたように見えたブラーム様の表情が少しばかり変わってきた。

「よろしければ、全体のコーディネートを彼に任せてはいただけませんか? 閣下」

「マティルが同行すると言うなら許可しよう」

「仕方ありませんわね」

「感謝します。 準備のために戻らせて頂いてよろしいでしょうか?」

 バウマンは頭を上げ、

「構わないが、事前に予定を立ててもらえなければ困る」

「では、明日!! 明日のランチ前までプランを作成します!! 明日もここでよろしいでしょうか?」

「あぁ、分かった」

 いそいそと去っていく背には、私の姿は全く入って等いなかった。






「愉快だな」

 ブラーム様はバウマンが完全に去っていくのを見てから、抑えたように笑い席に座る。 食堂の店員がテーブルの上の品を片付けるのを横目で見ながら、ブラーム様は言う。

「お茶を一緒していいかな?」

「えぇ」

「では、お茶をもう1杯。 フルーツベースとした甘いものを彼女に」

 店員は頭を下げて去っていった。

「マティル、俺は俺の意志でアンタをお茶に誘っている」

「えぇ、分かっているわ」

「分かってない。 なぜ、俺の意志を無視してアンナ奴と婚約をした。 俺の気持ちは伝えていた。 俺はずっとアンタのために努力してきた」

「貴方は、とても素敵な人だわ。 世間の期待に良く答え……本来ならば王の子として認められる事のない生まれでありながら、貴方は王にソレを認めさせた。 貴方が必要だと認めさせた。 私には、そんな貴方の妻にはふさわしくありません」

「俺には出来た。 俺を愛していたなら……アンタにも出来るはずだ」

「無理よ」

 私は、愛なんてわかっていないもの。 彼が私を愛していると言っている間、私はただ幼いままに彼を見上げていたのだから。

「愛している」

「私は、貴方が怖い」

 命を救い、命を救われた男性。 好意はあったけれど、ソレは愛とは違う。 愛情なんて分からない。 分からないから……バウマン様がちょうどいい……。

「愛している」

「私には無理よ」

「それでも愛している」
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