【R18】婚約者は私に興味がない【完結】

迷い人

文字の大きさ
上 下
3 / 49
01.

03.控室

しおりを挟む
 時は少し戻る。



 式典控室。

 大人の居ない非正規の社交界。
 婚約披露の模擬パーティ。

 子供のオママゴトのようなものだけど、控室にいる者全員が緊張していた。
 私達は1部屋に5組ずつ計10名が詰め込まれ、式典の開始を待つ。

 時が来れば、順番に会場へと誘導されるのだ。

「皆様、お茶でもいかがですか?」

 この場にいる人達の爵位は高い上は公爵家出身、下は伯爵家だけれど実績のある家系。 私の実家と言えば、実績はあるものの男爵家で、婚約者の地位に合わせて上級貴族の中に紛れていた。

 繊細な上級貴族様は、緊張でガチガチ。

 下品な成り上がりを父に持つ私が、お茶を提案いたした訳です。

 皆が一度婚約者の表情をうかがうように顔を合わせながら、ぎこちなく頷く。 だけれど私の婚約者であるバウマン様と言えば不機嫌そうな表情を向けるだけで、言葉を発する事は無かった。

 ……どういう意味なのかしら?

 何しろ婚約から日も浅く過去3度お会いした程度では、対応の仕方も分かりません。 出会ったうちの2回と言えば、

『侯爵家の妻に相応しいかどうかテストを行わせてもらう!!』

 等と言うもの……。

 正直、そこまでして妻になりたいか? と、問われれば……面倒臭い人と言うのが感想。それでも貴族の婚姻など大抵が政略的なものだと父に言われ、私は私を納得させるしかありませんでした。

 婚約、婚姻、どうせ四六時中一緒にいる訳ではないのですから、どうにでもできますわ。 私は自分に言い聞かせる。

 何しろ父の目的はベール家が持つ爵位なのだから、仲良くできそうにないから嫌だなんて心情を聴いてもらえるはずがありません。

 お茶を入れ、他の方々に提供し、バウマン様に提供し終えると同時に彼の横に腰を下ろせば、不機嫌そうに睨みつけ舌打ちをしてきた。

「ご不満の点でもございましたでしょうか?」

「なぜ、お前が茶をいれる。 なぜ、お前が話しかける」

 あぁ……面倒。

 お茶を淹れるのは最も身分が低い者 = なぜ侯爵家の婚約者が
 最初に話しかけるのは身分が高い者 = 男爵家の娘がなぜ話しかける

 と言う事のようだ。 理由等簡単、他に誰も動かなかったから。 だけれどそんな言葉を口にすれば、他の方々に恥をかかせるだけだ。 ソレは余り良い事ではないと私は周囲に頭を下げた。

「出過ぎた真似をして、申し訳ございませんでした」

「ふんっ」

 バウマン様はソッポを向き、腕を組み、足を組み、瞳を閉ざし、口元をもごもごする事を再開した。

 見た目はよろしいのに、その余裕の無さがどうにも……恰好悪いわ……なんて、婚約者を監察していた。

「いえ、私こそ気を使わせてしまい申し訳ございませんでした」

 最も生まれた爵位が高い公爵家令息が狼狽えながら告げた。

 学園への入学条件は婚約と最低限の知識なだけあり、入学年齢はマチマチだ。 バウマン様は今年19歳を迎えるし、私は17。 公爵家の令息は私と同じくらいで、その婚約者は12.3歳ぐらいでしょうか?

 爵位が高いほど用心深く、婚約の選定に慎重になるそうです。

 年齢を加味するなら、本来周囲に気遣いを見せるべきはバウマン様ではないのかしら? と、思わなくも無いのですが、自分の世界に籠るバウマン様にソレを進言するほどの関係性は私達にはまだ存在しておらず、私は黙りながら様子を見守る。

 公爵令息には軽く頭を下げ、申し訳なく思っているのだと伝えれば、公爵令息は私に少々の哀れみを向けてくださいました。

「バウマン殿、そのように緊張なさらずとも。 学園は学びの場であって、多少の失敗は許されるといいます。 余り厳しい事をおっしゃらなくともよろしいのではないでしょうか?」

 年下であっても相手は公爵家の生まれであればと、バウマン様は少しだけ深く息をつき頭を下げました。

「お見苦しいところをお見せしました。 何しろ私はヨハン様のように若くはないのですよ……」

 嫌味……のように聞こえますが、実はコレ自虐なのです。

 学園に入学できるのは最低限の礼儀と知識、そして婚約者を持っている者。 バウマンの生まれたベール侯爵家は事業の失敗から長く婚約者を得る事が出来ず、学園の入学を許されてはいなかった。

 当然のように学園に入学すら出来ない者が社交界に出れば馬鹿にされるのが習わしのようになっている。 だから、当主を通じた個人的な貴族間の交流はあっても、社交界デビューは学園を卒業してからと言うのが一般的となっている。

 そのため、バウマン様の同年代の者達は既に大人の社交界にデビューを果たし、貴族社会に成果を残し、国に貢献し、王族に認められている者も既に存在しているのだ。

 完全に出遅れ状態のバウマン様にとっては、予行演習だから、オママゴトだから、そんな余裕が無いのだ。

 ソレを理解すれば誰もがバウマン様に同情し、そして……バウマンの緊張は他の者達の緊張を解いた。

『『『『何があっても、彼よりはマシだろう』』』』

 そして彼等は緊張が完全に解けたらしく婚約者に声をかけだす。 後は、見ていて照れ臭くもムズムズしてしまう様子が繰り広げられる。

 触れ合いたいのに触れ合えない恥じらいからの、指先が触れ合いどちらからともなく手を取り合い、頬を染めながら見つめあう。

 うわぁ~~、うわぁ~、うわぁあああ。

 なんだか恥ずかしいと言うか、カワイイと言うか、どう言葉にしていいのか分からないそんな感情が胸をしめ……そしてチラリと横を見れば、顔のいい男がブツブツブツブツと同じ言葉を繰り返していた。

『我が身命にかけ王家に仕え、王家のため盾となり鉾となる事をここに誓いましょう(以下繰り返し)』

 まぁ、良いんですけどね……。

 私は婚約者の顔を見つめながら考えていた。

 もし、ここに婚約者としての愛情が存在していたなら、この状況を不満に思うのだろうなと……。 私は修行中の神官巫女のごとく心を閉ざそうとした。



 無



 それでも多少の惨めさは存在する訳で、恋に恋する乙女達(子息&令嬢達)が、自分の事で頭がいっぱいで、私のこの惨めな気持ちに勘づく者が居ない事を祈るばかりなのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...