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序章

01.場違いな誓い

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 王立貴族学園の入園式典。
 王立貴族学園とは、予行演習の場。


 学園の運営者である未婚の王族達が並ぶ席に近寄る美貌の青年が1人。

「我が身命にかけ王家に仕え、王家のため盾となり鉾となる事をここに誓いましょう」

 青年は、第二王女シュカを前に膝をついて宣言した。

 王女の表情には一瞬驚きが浮かぶが、幼い子を見るように目を細めクスリと笑う。

「あら、嬉しい。 でもぉ、その誓いは私にではなく兄上に捧げるものではないかしら?」

 言葉だけを取れば王女一人に向けられた言葉ではないものの、青年のウットリとした表情を見れば青年が何を思っているのか誰にでも理解できるものだった。

「殿下、ファーストダンスの栄誉をこの私にお与えください」

 妖艶系美女である王女シュカは隣国の先王に嫁いでいたが、王の死と共に国に返された身分。 王の子ではあるものの王族の中では少しばかり微妙な立場にいる。 友好関係を築くには少々微妙な相手で、だからこそそこに恋情があるように思われてしまうと言うのは仕方のない事でしょう。



 ヴィッテル国の王立貴族学園の入園条件の1つにはこのようなものがある。

 婚約者と揃って入学する。

 これはパートナーとの関係性を示すもの。

 大切にするべき人への態度を知れば、人柄を理解できる。 なんて事を考えているかどうかわからないけれど、学園は婚約者同士の関係を重視し、同時に学園生活中に関係性が悪化するなら婚約破棄の応援までしてしまうのだと言う。

 青年の行動は、明らかに学園の趣旨から外れていた。
 いや、それ以前にマナー違反である。



 周囲が騒めく。

 顔は良いが、愚かとしか言いようのない行動をする青年に王族はどう対応するのか? だれもが固唾を飲んで見守っていた。 もし、彼が上手く王族とお近づきになれるなら、彼の行動は深い意味を生み出し、他の者達は一歩出遅れる事になる。

 どうなる?

 人々は騒めき見守る。

 そして、青年はシマッタと言う表情を一瞬浮かべた。

 だが、やってしまったものは仕方がない。 そう青年はすぐに切り替え、とっておきの柔らかな笑みを浮かべ言葉を続けた。

「王女の美しさに心が奪われはしましたが、私の王家に対する忠誠は疑いようの無いものです。 どうか、愚かな私の心をお受け取り下さいませ」

 本来であればパートナーに渡される胸元を飾る一凛の赤いバラのコサージュを王女シュカに差し出さして見せる。 ソレはファーストダンスの申し込みを示すもので、王女は困った子ねと少しだけ笑い、その花を髪に飾らせる事を許可した。

 青年の行為は本来であれば咎められて当然。 だがこの場は失敗に対して寛容な場であり、失敗を前提とする場ですらある。 誰も青年を咎める事が出来ない事は彼にとって幸い。



 でも、私の心はヒヤリと冷える。
 馬鹿にされた……。
 惨めな思いで残された。

 パートナー専用の花を受け取る予定だった私、マティル・スタールの立場はどうなるのでしょう。 彼を愛している訳ではない……まだ、そんな関係等築けてなどいない……なのに、苛立ちと不安ばかりが胸の中を渦巻いて行く。

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