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七章『悪の国編』

第六十六話『ベゼを追え』

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 戦える警官隊がゆっくりと立ち上がる。
 さっきまで火がついていた建物や人々は、既に燃え尽きてる。

「ウルティマが倒されたとは本当か?」

 数人居る警官隊の背後から、何十何百の軍隊が現れる。

「ニコシアの軍隊大将トーマスだ。魔の土地から集めれるだけの軍隊を集めて来た」
「魔の土地から?たっ、助かった」

 メディウムに居た警官隊の一人に、軍隊の隊長が服を羽織らせた。
 つまりこいつらは、世界番号20『ニコシア』などから来た援軍ということだ。

「奴は?ベゼか?まさかベゼがウルティマを?」
「あぁ、ウルティマ討伐からベゼ討伐に変わった。奴は瀕死だが転移できる。逃げられる前に始末してくれ」
「大丈夫です。逃げられる心配はありません。俺が居ますから」

 見たことある男が、警官隊と軍隊の前に現れた。
 白いフードを被り、目にはハーフマスクをしている。

「君は?セイヴァー!?」

 男――セイヴァーは左手に地図、右手に剣を持っている。

「俺の魔法は奴の位置を把握してます。奴が逃げても追うことは出来ます。それより援護を頼みます。近付くのは俺一人、皆さんは距離を取りつつベゼと俺を囲んで下さい。いざとなったら俺ごと殺っていいです……俺も犯罪者ですし」
「……ここは君を信じよう。援護は我々に任せろ」
「ありがとうございます」

 羽根を大きく広げてる僕に、セイヴァーがゆっくりと近付く。
 それと同時に、軍隊が僕とセイヴァーを大きく囲った。
 武器や魔道具を構え、準備万端という感じだ。

「やぁ、セイ――」

 セイヴァーは一瞬の隙をついて僕に雷魔法を放った。
 胸が痛み、体が痺れて動けなくなる。

「うっ!」

 魔法の影響で、広げていた羽根が閉じ、僕は地面に落ちてしまった。
 両手と片足を失っていた僕は、残っていた片足から落下して、足の骨が折れる。
 絶体絶命という状況だが、不思議と絶望や恐怖はない。
 きっと、ウルティマを倒した後で気分が良いからだ。

「転移で逃げるか?それとも惨めに人質を利用するか?」
「いや、どちらもしないさ」
「お前が死ぬ今日は、人類の平和が取り戻された日として語り継がれるだろうな」

 セイヴァーの迷いがない目が、傷だらけの僕を見下ろしている。
 しかし僕は、穏やかな笑みが止まらなく、気分が良かった。

「良いのかい?僕が死んだら君は正義ではなくなる。ただの連続殺人鬼の犯罪者だよ」
「それでいい。俺は闇の世界に生き、光の世界を守る。俺自身はどうなっても良い」

 セイヴァーの目には光がなかった。
 ヴェンディの目には光り輝くものがあるが、セイヴァーの時には全てを押し殺しているかのような深い何がある。

「そう……素晴らしい覚悟だね。なら殺すといい……君に殺されて人生の幕が閉じれるなら、かなり幸せだよ」

 本気でそう思えた。
 殺されるって言うのに、後悔が微塵もなかった。

「……お前は、他人の命を何とも思っていないが、同時に自分の命も何とも思っていない様だな」
「じゃあね」

 僕がニコッと笑うと、セイヴァーが乾いた目で剣を握る。
 セイヴァーは僕の首元狙って剣を振るった。
 僕の首に、勢い良く剣が当たる。

 * * * * *

 セイヴァーが振るった剣は、ベゼの首を浅く切った。
 それと同時に、セイヴァーの背中にナイフが刺さる。

「がはぁ!?」
「動くな」

 セイヴァーは何者かに背後を取られ、首元にナイフを当てられ、腕を折られる。
 その上空の空間は、切り裂かれたかのように歪んでいた。

「何だアイツ!?」
「上にまだ何か居る!?」

 上空から現れた魔物――レネスが軍隊に魔法を放つ。
 軍隊に放たれた魔法が爆破し、意図も簡単に蹴散らされる。

「打て!!」
「でもセイヴァーが居ます!」
「本人の命令だ!良いから全員殺れ!!」

 軍隊はセイヴァーが居る中、レネスに弾丸や魔法を放った。
 しかし、その全てが歪んだ空間の中に消えていく。

「何だあの魔法!?あの大きな魔物の魔法か?」
「接近戦だ!!何としてもベゼを逃がすな!!」

 軍隊がベゼ達に近付こうとするが、歪んだ空間が邪魔で近寄れない。
 歪んだ空間は別の空間に繋がっており、人々を別の場所に飛ばしてしまう。

「何やってんの?僕こんなこと命令してないよね?説明して貰おうか、アリア」
「すみませんベゼ様――」

 セイヴァーの背後を取っている者――アリアは申し訳なさそうな声を出した。

「ベゼ様が死ぬのが嫌で、助けてしまいました。どんな罰も受けます……なので助けさせて下さい」
「僕は今考えていたんだよ……人生の最後について。絶頂のまま死にたかった……ウルティマを倒し、倒されるべき敵に倒される……思う存分暴れて、幸せな気持ちになって、皆に注目されながら死ねる……最後に相応しかったのに……君はそれを邪魔した」
「例え貴方様が望んでなくても、貴方様に嫌われようと、私が死のうと、それでも貴方様に生きて欲しかった。どんな罰も喜んで受けます」

 レネスが軍隊の相手をして、セイヴァーが血を吐いて苦しそうにしている中、ベゼとアリアの二人は平然と話をしていた。
 ベゼは不機嫌そうにし、アリアは真っ直ぐな目をしている。

「君がそうしたかいのだから、僕は一切手伝わない。レネスの転移で逃げるのもダメね。もし転移で逃げたら君ら殺して僕も死ぬから……僕は疲れたから寝る」
「……ありがとうございます」

 ベゼは不機嫌そうにしたまま、安らかに眠りについた。

「レネス、戦闘員をこちらに転移して」
「ですが、今ベゼ様が転移を使うなと……」
「転移で逃げるなって言ったの。使うなとは言ってないわ」
「分かりました」

 レネス達を囲っていた歪んだ空間から、多くの人が現れる。
 彼らは皆ベゼの部下だ。

「皆!ベゼ様の為に死んで!軍隊共を蹴散らすのよ!」
「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」

 ベゼの部下は、迷うことなく残りの軍隊に立ち向かって行った。
 大都市メディウムは、再び人間同士の戦地となる。

「セイヴァー、あんたは殺すなと言われてるから生かす。けど、私個人が許せないから、一発殴るわ」

 アリアがセイヴァーの顔面を一発強く殴る。
 セイヴァーは血を吐いて地面に倒れ、アリアは歪んだ空間から出て来た馬に乗る。

「足止め頼んだよレネス。それと、一番近くの海岸に船を呼んで」
「分かりました」

 アリアはベゼを背負い、馬に乗って大都市メディウムを抜け出した。

「ここは俺が居なくても大丈夫ぽいな。アリア様に言われたように船を……あれ?」

 レネスの近くで倒れていたセイヴァーが居なくなっていた。
 良く見れば、周りの地面が紙のような質感になっている。

「まさかセイヴァー……あの傷でアリア様を追いに行ったのか?」

 *(ヴェンディ視点)*

 ナイフで刺された傷は浅い。
 まだ動ける俺は、地面の中を紙にして、その中を進んでベゼの部下――アリアを追っていた。

「ベゼに部下が居たとは……。それはともかく、はやり馬の方が圧倒的に早いな」

 大都市メディウムを抜け出した俺は、折り紙を元の姿――馬にした。
 その馬に乗り、遠くへ行ってしまったアリアを追う。

「今の内傷の手当をしよう」

 手当てをしながら、地図を確認する。
 ベゼの位置が常に分かっているこそ、今アリアを追うことも可能だ。
 例え見えなくなっても、アリアを追える。

「ん?何だあの馬?」

 少し前を、アリアとは別の人間が馬を走らせていた。
 ここからでは良く見えない。

「馬は残り二頭ストックしてる……馬の体力を気にしない方がいいな」

 馬のスピードを上げ、目の前の人間に追い付く。
 恐る恐る、後ろからゆっくりとその人間を目にする。
 その人間は見覚えのある人間だった。

「貴方は?セイヴァー……ですよね?」
「ホアイダ!?」

 目の前で馬を走らせていた人間――ホアイダは俺の顔を観察するように見た。

「何で私の名前を?」

 ――しまった。今の俺は、ヴェンディではなくセイヴァーだった。

 ホアイダの名前を知ってるのは不自然だ……このままでは疑われてしまう。

「いや、ニュースで見た。魔王軍の幹部を三人の少年少女が倒したって……凄い盛り上がりだったろ?」
「あぁ、だから名前を知っていたのですね」

 咄嗟についた嘘だったが、上手くいったようだ。
 ルルーディー討伐の時のニュースを、上手く利用出来て良かった。
 違和感のない嘘だ。

「それより、君もベゼを追っているのか?」
「そうです……見失わない内に私が追跡するのです。警官隊や軍隊はもう少し遅れそうですし」
「奴がどこに逃げようと、俺には奴の位置が分かる。ここは俺に任せて、君は帰るんだ」
「貴方のその負傷、とても戦えると思えません。ベゼの部下を倒さないと、ベゼを倒すことは出来ません。私も行きます」

 確かに、今俺の肩は深く抉れており、出血もしていて思う存分戦える状態じゃない。
 ホアイダの言う通り、アリアに追い付いたところで殺られてしまうのがオチだ。
 やむを得ない……ホアイダの力が必要だ。

「……分かった」

 俺は正体を隠したまま、ホアイダと共にベゼとアリアを追う。
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