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三章『世界旅行編』

第二十四話『再び海へ』

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 ホテルが燃えた日、僕とホアイダは魔の土地を馬を使って移動した。
 休憩として、観光をしながら北西を目指したが、一番近い海岸付近に来るまで三日掛かった。
 魔の土地の『角』と言われる海岸付近から、竜の土地まで海を渡るのには近い方だ。

 ただ、神の土地とも近いので、好んで角から海を渡る者は居ない。
 そこには港も無いが、敢えてそこから渡ろうと思う。
 魔の土地の西側方面まで行くのには、馬では一週間以上掛かったてしまう。
 だから早めに海に出る。

 ただし、今日はもう夜遅い。
 近くのホテルで一泊して、翌日に海を渡る。

「くくっ、呑気な奴だ」

 部屋のお風呂で、ホアイダが入浴している。
 僕はポム吉を手に持ち、音を立てず静かに風呂場のドア前まで足を運んだ。
 風呂場のドアからホアイダは見えないが、鼻歌とシャワーの音は聞こえる。

「行くぜ」
「きゃぁ!」

 ドアに勢い良くポム吉を押し付けると、ポム吉の鼻とドアがぶつかる大きな音が鳴る。
 風呂場から見れば、ドア越しにポム吉の顔が潰れて見えるだろう。

「照れちゃう!」

 ポム吉の声真似をしてみる。
 裏声で出す声……正直、結構上手いと思う。

「マレフィクス!!出てって下さい!」
「違うよ!僕!ポム吉だよ!」
「ぽっ、ポムちゃん?なら尚更出てって!このエロ吉!」

 いつものことだが、ポム吉だと言えば、少し嫌なことでも付き合ってくれる。

「ほわぁ~!」

 ドア越しに水をかけられたので、しっかりとやられたふりをする。

 * * *

 翌日、僕らは朝8時にホテルを出た。

 海岸付近には、漁業を営む漁師や船乗りがたくさん居た。
 朝早く、何隻かは海を出ている。

「おじさん、そのキャラック船いくらしたの?」

 船に荷物を運んでいた男に話掛ける。

「買ったのは俺じゃないよ……俺の家計の船だからな。けど、お金にするならだいたい金貨30枚かな」

 ここで、世界のお金について話をしよう。
 この世界の通貨は全世界共通だ。

 紙幣は無く、硬貨が三種類だけ。
 価値が高い順に、金貨、銀貨、銅貨。
 日本の価値にすると、銅貨は100円、銀貨は1万円、金貨は100万円、といった感じだ。

 今この男は、船の値段が金貨30枚と言った。
 つまり、この船はだいたい3,000万円ということになる。

「かなりボロいね」
「何十年も使ってるからな」
「この船買いたいんだけど、いくら出せばいい?」
「「え?」」

 男もホアイダも、たまげた声を出して僕の方を見た。

「金貨30は出してもらう。けど、流石に冗談だろ?旅行者がそんなに持ってるはずが無いし」
「彼の言う通りです。そんなお金ありませんよマレフィクス」
「あるさ」

 僕はバックから大きな布を三枚取り出し、それを能力番号19『衣類を生物に変える能力』で三頭の馬に変える。

「この馬はディナシーという値段が高い種類の馬だ。一頭金貨15枚くらいする。三頭で金貨45枚、大量のお釣り付きだよ」
「この馬なら知ってる!俺毎月一回競馬に行くくらい競馬とか馬が好きなんだ!だから知ってる!本物だ……本物、間違いない」
「話が早いね。売って金に変えれば新しい船も買える。どうだい?」
「待て、一つ聞く。この馬、能力か魔法で創ったろ?寿命が短いとか、性能が違うとか無いよな?」
「無い。心配なら硬貨に変えるまで、ここで待っててあげようか?」
「その言葉が聞けただけ十分……信じるよ。物々交換成立だ」
「どうも」

 予定通り、物々交換が成立した為、キャラック船を一隻入手することが出来た。
 まったく、能力というものは本物に便利な力だ。

「操縦できるのですか?」

 ホアイダが心配そうに言った。
 何しろ、この船には僕とホアイダしか乗らないのだ。
 心配になるのは当然のことだ。

「昔から何でも出来た。一回読んだ本や教科書は一文字たりとも忘れないし、楽器もゲームもスポーツも全て誰よりも上手に熟せた。出来ないことはたった一つだけ……けど、つい最近は唯一出来ないことも出来るようになったんだ」
「……その出来ないことって何ですか?」
「自分であること」

 そう、僕は生まれた時から何でも出来たのだ。
 前世からね。
 出来ないことは……悪役で居ること=自分であること。
 それも息を吐くように出来るようになってしまった僕は、人の領域を出たのだろう。
 神や悪魔が居るなら、僕はそれすらを超える存在を目指す。
 誰だろうと僕より上に立たせはせず、僕に恐怖してもらう。
 この旅行は、それを実行する為の一歩でもある。

 *(ヴェンディ視点) *

 マレフィクスとホアイダが、二人だけで船に乗ったのが見えた。
 どうやら二人は、漁師の男と取り引きしたようだ。

「ハハッ!二頭は売って、一頭は可愛がろうかな~」
「さっきの少年達は、たった二人で乗ったのですか?」

 機嫌良さそうな男に話しかける。

「え?あぁ、そうだけど……二人の知り合いか?」
「はい。彼ら二人、どちらが操縦してるか分かります?」
「確か赤い目をした子だよ。教えた訳でもないのに、当然のように船を操縦出来てたな」
「ありがとうございます」
「あぁ」

 まだ船はそこまで遠くに行ってない。
 見失わず、かつ見つからずについて行かなくてはならない。
 俺の能力ならどちらも可能にできる。

 折り紙を解除し、元の姿――スナイパーライフルにすると、船に向けて銃口を合わせる。

「おい!何やってんだ!?」
「大丈夫、問題は起こしませんよ」

 引き金を引くと、弾丸が静かに船にめり込んだ。
 銃口から弾丸に、見えない細さの糸がワイヤーが長々と付いている。
 銃口に付いているワイヤーを切り、自分の腕に巻き付ける。

「行くか」

 そして、自分自身を紙にし、小さな紙の船になる。
 俺はそのまま船に引っ張られ、海に浮かんで進む。

 *(マレフィクス視点)*

 船に乗って六日経った。

 船を操縦してると、海賊映画の主人公になった気分になれる。
 キャラック船も海賊船ぽいし、異世界ということもあり、より僕の心を踊らせてくれる。
 海賊達は自由と略奪を仕事とした者達、僕との共通点だらけだ。

「あっ、あと何日で……着きますか?」

 船酔いしたホアイダが、今にも吐きそうな表情をして聞いてきた。
 もう何日もこの調子だ。

「この調子ならあと一日で着く」
「あと一日……」

 海には、お魚さん達だけじゃなく魔物も居る。
 海は人間にとって戦いずらい場所だから、それほど強くない魔物でも苦戦する。
 冒険者の中には海のクエスト専門の変わった奴も居る。
 その理由としては、人気の無いクエストだから、報酬が高いからなどが挙げられる。

「うっ、吐きそうです」
「吐くなら海に吐け」
「うっ、すみませんお魚さん」

 ホアイダは船から海を見下ろし、いつでも吐ける準備をする。

「ん?魚……の死骸?」

 ホアイダが目にしたのは、海に浮かぶ魚の死骸だった。
 無惨にも、食い殺されたような死骸で、海に血が流れ出ている。

「マレフィクス、何か変です」
「変?それって君のことか?今に始まったことじゃないだろ」

 ホアイダの目の前の死骸は、一匹二匹と海の底から浮かんで増えてくる。
 僕はそんなことも知らず呑気に船を操縦しながら、高いワインを飲んでいた。

「影!?海の下に何か居ます!魚を食べた犯人が居ます!」
「は?魚を食べた?それは鮭か?鮭ならお前の相棒のポム吉だと思うぜ……クマは鮭が好きだからな」

 冗談を言いながらホアイダの方を振り返る。
 僕はその時、初めて魚の死骸を目にした。
 船の背後には食い散らかされた魚の死骸が浮いてあり、その魚の死骸の下には大きな影が見える。
 船の一回りも二回りも大きい影だ。
 海の下に何か居るのは確実……それも化け物と呼ぶのにふさわしい存在だ。

「ホアイダ、妙な叫び声を上げるな……慌てず僕の方に来い。いつでも飛べるようにな」
「なっ……まっ、マレフィクス……」

 ホアイダは叫び声を上げていないが、僕の方を見て足が震えている。
 叫び声を上げてないというより、声を奪われるほどの恐怖に直面したという感じだ。

「その目線の方向……そゆことね」

 振り返ると、僕の目の前には化け物が居た。
 ワニと竜のハーフみたいなブサイクな顔が、海から出ていて僕のことを見ている。

「がぅぐるるる」
「僕はこの船の船長、キャプテンマレフィクス!ほぉら、壊してみろ!僕に壊される前に……できるならね」

 この竜からは逃げはしないし、逃がしもしない。
 能力番号19『衣類を生物に変える能力』でこの竜を創れるようにしたいってのもある。
 けど、単純に僕の方が怖くて強いって証明したい。

 もしかして僕が思う以上に、僕は戦いが好きなのかもしれない。
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