上 下
17 / 92
二章『大都市メディウム編』

第十六話『初めてのクエスト』

しおりを挟む
 転送された場所は、見たこともないような、美しい洞窟だった。
 海賊映画や海外の本に出てきそうな、広々とした神秘的な場所だ。

 天井を見上げれば、光が漏れているのが分かった。
 地上と今いる場所は、そう遠くない。
 光は海に反射していて、洞窟の割には明るい。

「おーい!ハンナ!マレフィクス!」

 少し遠くから、エリオットの声が聞こえる。
 周りに、二人が居ないのを見ると、転送場所は一定ではないらしい。

「こっちだよ!」

 また別の方向からハンナの声が聞こえる。
 取り敢えず、二人と合流しよう。

「よし、皆無事だね。それじゃ、下を目指して行こう」

 合流すると、二人は迷いなく道を突き進んだ。
 まるで、目的の鉱石の場所を知ってるいるようだ。

「目的のフローライトの場所、分かるの?」
「バッチシ、何度も行ってるから場所を把握しているんだ」
「何回くらい?」
「たくさん」

 もう慣れっこって表情だ。
 街の道を歩くのと、大して変わらないのだろう。

 道を突き進んでいると、徐々に暗くなってきた。
 光が遠くなり、エリオットは懐中電灯を取り出し、前方に明かりを灯した。

「階段?」

 目の前に現れたのは、古い鉄の階段だった。
 下に行きやすいよう、丁寧に設備されている。

「昔の冒険者が作った階段さ。下に行きやすいよう建てたの」

 階段は結構長かった。
 たまに、踏んで大丈夫か疑うような階段もあったが、無事下に降りれた。

「何だここは?」

 階段を降りて、目の前に広がっていた世界は、これまた神秘的だった。
 光り輝く鉱石が、天井や床のあちらこちらに広がっている。
 おかげで、洞窟に懐中電灯や光は要らない。

「ここら辺の鉱石は取ってはならないんだ。安全地帯として、目印として、必要だからね」

 奥に進めば、直ぐに分かれ道が見えた。
 五つの分かれ道が丁寧に用意されている。
 僕ら三人は、一番左の道に入っていた。

 道に入ってからは、ハンナが光魔法で明かりを灯した。

「光魔法、ファナー.ランプ」

 ハンナを中心に、約半径10m明るくなった。
 懐中電灯よりは、断然周りが見やすい。

「気をつけろよ、ここから先は普通に魔物が居る」
「分かった」

 しばらくすると、魔物のうめき声が聞こえてきた。
 犬が吠える前のような、ライオンの威嚇のような声だ。

「来るぞ、飛び道具に警戒しろよ」

 光の中に入り込んだ魔物が見えて来た。
 魔物はすぐに攻撃はせず、こちらの様子を見ている。

「待て、攻撃するな。あれは『ロッツ.オグル』。触覚が一つの奴は攻撃しなければ無害だ。二つ以上は普通に攻撃してくるけどな」

 僕もこの魔物のことは知っている。
『ロッツ.オグル』、岩の体を持った鬼というのが、一番良い表現だろう。
 頭に岩の触覚があるのだが、触覚の数で強さが違う。
 触覚一つは攻撃しなければ無害、触覚二つは知能が低く狂暴、触覚三つはそれなりの知能にそれなりの戦闘力、触覚四つ以上は魔法を使える者も居る。
 しかし、触覚四つ以上は滅多に居ない。

「慌てずにゆっくり来て」
「分かった」

 触覚一つのロッツ.オグル――オグルが二匹の前を通り、またしばらく歩く。
 すると、青く光る鉱石が複数見えて来た。
 この青く光る鉱石こそ、目的であるフローライトだ。
 周りには、赤や紫に光る鉱石や、水たまり、不思議な植物、見たことない土などがある。
 だが、その周りにはオグルの集団が居る。
 こいつらを倒さないと、フローライトを回収できない。

「一、二……五。触覚二本が三匹、触覚三本が二匹、全部で五匹」
「どうするエリオット?マレフィクスには待機してもらった方がいいんじゃない?」
「だな。マレフィクス、君はここで待機してろ」

 僕がごく普通の子供なら、待機させるのは当然の状況なのだろう。
 しかし、この僕は実年齢83歳のスーパーおじいちゃんだ。
 それに、魔物に対する恐怖心は全くない。

「二人とも僕を舐めないで。僕がびびって足手まといになる子供に見える?」
「……そこまで言うなら手伝ってもらおう。ハンナが矢を打ったら、攻撃の合図だ。分かったなら静かに近づいてくれ……奴らは暗闇こそ目が良いが、光の中ではほとんど見えてない。音を立てるなよ?」
「了解」

 エリオットもハンナも、自信たっぷりの僕に目を丸めた。
 お互いに目を合わせ、(変な子)って言ってる。

 ロッツ.オグルの集団から5mの距離まで行くと、エリオットがハンナに合図を送った。
 触覚三本のオグルの頭に、矢が刺さる。
 同時に、僕とエリオットはオグルに剣を振るう。
 しかし、僕の短剣はロッツ.オグルの硬い皮膚に深くは通らなかった。
 エリオットは立派な大人の体、僕は貧弱な子供の体、考えてみれば力不足なのは当然だった。

「マレフィクス引け!」
「断る」

 仕留めそこなったオグルを蹴り離し、手のひらをオグルに向ける。

「フォティア.ラナ」

 生きていたオグル三匹に火が移り、苦しそうに悲鳴を上げる。

「めひゃああああああぁ!」
「良し!火で炙れば、お肉は柔らかくなる」

 オグルの剥がれ落ちる皮膚に、短剣が刺さる。
 そして、短剣を滑らかに、流れるように、オグルの首に当てる。
 オグル二匹の首は落ち、もう一匹も力尽きる。

「終わったよ」
「あ……大丈夫か?君、随分肝が据わってるね……ははっ、生首は見ない方がいいよ。俺も初めて見た」

 オグルの生生しい死体と生首に驚いているのか、僕の実力と行為に驚いているのかは分からない。
 だが、二人とも驚愕している。
 エリオットは近寄りがたいようで、ハンナは気持ち悪そうに口を押えている。
 冒険者の癖に、死体に慣れていないのかな?

「普段から魔物の死体見てんじゃないの?」
「いや、見てるけど……首を刎ねるのは、君が初めてだよ」
「どこが弱点か分からなかったから……ごめんなさい」

 少し本性を見せすぎた為、子供らしい申し訳ない表情を見せる。
 エリオットは顔を引きつる。

「ははっ、今度から気を付ければいいよ。じゃあ……フローライト回収しようか」
「うん。僕が回収するから、エリオットはハンナに付き添ってあげて良いよ」
「……ありがとう」

 エリオットにとって残酷だった僕から、少し優しい僕になった為、彼にとって不気味だろう。
 僕は悪役であるが、ごく普通の人の気持ちも分かるし、正義のヒーローの気持ちも分かる。
 まぁ、理解はできないけど。

 いつだってそうさ、悪は正義も悪も知っているが、正義は悪を知らない。
 どちらの気持ちも分かるから、それを逆手にとって行動できる。

「とれた。10kg一人で持ちきれない……僕とハンナは3kg、エリオットは4kg持とう」
「分かった。行こう」

 フローライトを袋に詰め、その場を後にしようとする。
 すると、急に地面が動き、地震が始まる。

「なんだ?」
「きゃあ!」

 地面が揺れたと思うと、地面が動き、足場が崩れる。

「皆こっちだ!こっちの足場は安全だ!来い!」

 エリオットが居た場所は、洞窟の端の方だった。
 僕とハンナは、エリオットの居る方に移動する。

 足場はすっかり無くなり、中央に僕ら人間とは比較にならない大きさの魔物が現れる。
 僕らがさっきまで足場にしていた地面……それはあの魔物の背中だったのだ。

「あれは、一度眠れば100年眠る『ボーン.アダラ』だ。絵でしか見たことないが、間違いない」

 ボーン.アダラ――アダラの足場は地下深くて見えない。
 地面を鎧のように纏い、蛇のようにしなやかで長い尻尾、体に合わない長い手と足、目も鼻も無い歪な頭を持っている。
 どこを攻撃しても死ぬイメージがわかない。

 しかし、もしこの魔物を殺すことが出来たなら、能力番号19の『衣類を生物に変える能力』で、こいつを作ることが出来る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。

月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」  公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。 一応、R15にしました。本編は全5話です。 番外編を不定期更新する予定です!

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

処理中です...